名雪とピロと人形と
その3「放課後の冒険」





人形を持って天野の家へ遊びに行った真琴。

その真琴をオレと名雪は追いかけていたのだが・・・・



「名雪、真琴はいったい何をやっているんだ?」

「たぶん、オママゴトだと思うよ」

オレの両手はオレの意思とは関係なく動いていた。

左手は、お椀を持った状態で固まっており、右手は口と左手の間を忙しく往復している。

その状態で走っているので、人から見ればかなり異様にだろう。

実際、さっきからすれ違う人々は、必ず後ろを振り返ってオレを見ている。

「祐一、走りにくくない?」

「走りにくい。」

「けど、見てるのは結構おもしろいよ」

「オレはちっともおもしろくない!」

よく、考えてみれば人形を作ったのは名雪である。

それなのに人事の様に言いやがって。

「でも、なんで手は動かないのに足は平気なの?」

「ああ、どうやら、人が触っている部分のみ反応があるらしい」

今は、両手を捕まれているらしいので、手が動かせないのである。

「けど、オママゴトだけなら少し恥ずかしいだけで、あまり酷いことにはならないよね」

少し?

めちゃくちゃ恥ずかしいのだが。

「ああ。これ以上変なことされる前に、人形を没収しなければ」

ぴたっ

お?

不意に手の動きが止まる。

「やった、手が自由になったぞ」

両手をブンブン振り回して見る。

「よし、手の動きは戻ったぞ」

だが、今度は手の代わりに足が止まっていた。

「祐一、どうして止まるの?」

「足が勝手に・・・・」

どがっ

「祐一、道の真中で正座するのは・・・・」

「だから、オレだって好きでやってるんじゃないんだ」

なんと、オレの足は道端でいきなり正座を始めた。

「なんで、正座なんだ!?」

「立って食べるのは行儀が悪いからだよ」

「行儀が悪い・・・?そうか!天野か!」

普段からオバサンくさい天野のことである。

人形にも正座を強要したに違いない。

「祐一、何とか立てないの?」

「さっきから試してるが、ものすごい力で押さえつけられていて・・・」

全身全霊をかけて、立ち上がろうとしてみる。

「うおおおおおおおおおお。ほわっちゃ〜!」

だが、足は全く動かない。

ブロロロロロロ

「大変だよ、祐一。車が来たよ」

「にゃにぃ!?」

普段は車など全く通らない道のクセして!

「どうしよう〜」

うろたえるだけの名雪。

パッパー!

クラクションを鳴らす車。

こんな時に頼れるのは自分だけ。

「緊急回避!」

両手のひらを地面につけ、腕の力で体を持ち上げる。

シャカシャカシャカシャカッ

腕の力だけで、なんとか道の端まで移動する。

「危ねえぞ!バカヤロウ!」

運転手が窓から怒鳴り散らしていった。

「危ないところだったね」

名雪が心底ホッとした顔で呟く。

「このままじゃ、命が幾つあっても足りない。一刻も速く、人形を取り返さなければ!」

「祐一動ける?」

「動けない」

これじゃあ、天野の家まで行くどころか、どこにも行くことができない。

「さっき車を避けたみたいに移動できないの?」

「あれはほんのちょっとの距離だからできたんだ。ここから天野の家までは無理だな」

「それじゃ、どうしよう」

「名雪、オレのことはこのまま放っておいて、一人で天野の家まで行き、真琴から人形を取り返して来てくれ」

「それがね、祐一」

嫌な予感。

「私、天野さんの家がどこだか知らないんだよ」

ぐはあ。

しかし、ここで諦めてはいけない。

諦めたらそこで試合終了なんだよ!

「道を教える」

「うん」

「まず、最初と次の十字路を真っ直ぐ、次に階段が見えて来るから二つ下に降りる。降りたら左の方向へ行き、突き当りを右。また十字路があるから左に曲がって、最初の角を今度は右に曲がる」

「えっと、最初は真っ直ぐで、階段があっても真っ直ぐで、えーと、ずっと左だっけ?」

「違う!階段は下りるんだ!降りてからは、左行って右行って左曲がって右に曲がる」

「え、え、え?階段を下りたら左右左右左右ひだり・・・・?」

「曲がる回数が多いぞ!」

「初めからだと、階段真っ直ぐで、おりて左右左みぎ・・・・」

名雪の頭からシュウシュウと知恵熱が出始める。

「わかんないよ〜」

「上上下下左右左右だ!」

「BA?それともLR?」

「隠しコマンドじゃない!」

このままABと入力して自爆してしまいたい。

「祐一、私、いったん家に戻って紙と鉛筆を持ってくる。そしたら、それに地図を書いてね」

そう言って家の方向に駆け出す名雪。

「おおう、オレを置いていくのか?」

「すぐ戻るよ〜」

名雪の足は速い。

あっという間に見えなくなってしまった。

一人取り残されたオレ。

路上に正座している姿は変人以外の何者でもない。

「なんてこった、オレの座っている場所はゴミ捨て場の隣じゃないか!」

ああ、チクショウ。ついてね〜。

「オレがいったい何をしたと言うんだぁぁぁぁぁ」





「祐一、お待たせ」

名雪が戻ってきた。

「遅くなって、ゴメンね。ちょっと迷っちゃって」

結局、名雪は一時間ぐらい戻って来なかった。

その間、オレは道行く人の見世物となっていた。

ああ、町内でのオレの評判は地に落ちただろうな。

「祐一、地図を書いて」

「名雪、それよりも手を貸してくれ」

「足が動くようになったの?」

「ああ、ついさっきな。しかし・・・・」

しかしオレは立てないでいた。

「正座していて足が痺れちゃったんだね」

「そうだ」

アスファルトの上に一時間も正座させられたのである。

オレの足は全く動かなかった。

「よいしょ」

名雪がオレの手を引っ張ってくれる。

神経を足に集中させ何とか立ち上がる。

まだ、足に感覚は戻ってない。

「とりあえず、立てたから、行くぞ」

「まだ、足痺れてるんでしょ。歩けるの?」

「こんなものは歩いているうちに治る」

そういって一歩踏み出したが、バランスがとれず、倒れそうになる。

「わ、危ない!」

名雪が体を支えてくれた。

「私が支えててあげる」

そういって、オレの腕を肩に掛ける。

「すまない。名雪」

「祐一にはいつも助けてもらっているもん。だから、今日は私が祐一を助ける番」

ああ、なんて愛しいヤツなんだ。

「さ、行こう。祐一」

オレと名雪は再び天野宅へ向けて足を踏み出した。





「つ、着いた」

「着いたね」

オレ達はやっと天野の家に辿り着いた。

オレの足も途中で回復した。

ガチャ

ちょうどその時、玄関から天野が出てきた。

「あら?」

「あ、天野」

「相沢さんに、水瀬さん。どうしたんですか?」

「天野、真琴のヤツが来ただろ」

「はい。来ました」

「どこにいる?」

「真琴ですか?帰りましたよ」

「帰った!?」

「はい。私、これから習い事があるんです。ですから、今日はここまでという事で」

「ぐはっ!入れ違いか!」

「真琴に用があったのですか?」

「ああ」

「天野さん。今日、真琴ちゃんお人形さんを持って来た?」

「人形ですか?持って来てましたよ。それが何か?」

「オママゴトをしたか?」

「はい。真琴としましたが。何なのですか?」

「人形に正座をさせただろ」

「はい。オママゴトといえど、作法は守らないと」

そんなことだからオバサンくさいんだぞ。

「そんな酷なことはないでしょう」

「祐一、声に出てたよ」

「・・・・」

「人形がどうかしたのですか?」

「いや、何でもない。じゃあな、天野。また学校でな」

「天野さん、バイバイ」

手を振って駆け出す、オレと名雪。

「???」

天野の顔には終始疑問符が浮かんでいた。





「今度は家か!」

家に向かって疾走する二人。

「でも、どうしてここに来る途中で真琴ちゃんとすれ違わなかったんだろ?」

「たぶん、アイツは肉まんを買いに商店街に寄っているんだろ」

「じゃあ、商店街に行くの?」

「今から行っても、もう真琴はいないだろう。それよりも直接家に帰って待っているほうが確実だ」

「それもそうだね」

「それにしても今日はずっと走りっぱなしだな」

普段、あまり運動をしていないオレにとってはツライ。

「けど、たまにはこうして一緒に走りまわるのも悪くはないよ」

そう言う名雪はどこか嬉しそうでもあった。





ガチャッ

「ただいま」

「ただいま」

本日二度目の帰宅。

玄関には真琴の靴がある。

「帰ってるよ」

「リビングか!?」

とりあえず、リビングを覗く。

「いた!」

真琴はリビングで秋子さんと話をしていた。

「あ、なゆ姉ちゃん、祐一、おかえりー」

「祐一さん、名雪、おかえりなさい」

「ただいま。それで、真琴、人形はどうした?」

「人形?」

「今日の朝、私が持ってたお人形さんだよ」

「ああ、あの祐一人形?」

「そうだ。それだ」

「それなら、私の部屋に置いてあるよー」

「今すぐ、よこせ!」

「ヤダッ」

「なんだと!」

「祐一の言う事なんて聞きたくない」

「このひねくれもんがー」

「あうー、祐一だって、いつも私の言う事聞いてくれないじゃん」

「今度聞いてやるから」

「嫌よ」

真琴は横を向いてしまった。

それを見かねて、今度は名雪が真琴に声をかける。

「お願い。真琴ちゃん。返して」

「うん。いいよ」

あっさり承諾する真琴。

「なんで、名雪の言う事は聞くんだよ」

「なゆ姉ちゃんはいつも真琴に優しいもん。それにあの人形はなゆ姉ちゃんのだし」

真琴はそう言って立ち上がり、トコトコと二階へ向かった。

オレもその後をついて行く。

とたたたた

階段を駆け上って行く真琴。

その後に続いて階段を登ろうとした時、

ずざざざざざざっ

引きずりまわされるような感覚が体中を襲った。

カンッ

ゴンッ

ずりずり

体のあちこちに何かにぶつかるような感触。

「あー」

上から真琴の叫び声が聞こえてきた。

「どうした、真琴」

階段を駆け上る。

真琴が部屋の入り口で突っ立っている。

「あうー」

「あうーじゃわからん」

「ピロが・・・」

「ピロ?」

「ピロが人形をくわえて窓から出て行っちゃったー」

「何ですとー!!」

事態はどこまでも悪化して行くらしい。



(続く)




矢蘇部「第三話完成ー」

あかり「UPが遅かったわ・・・」

矢蘇部「うぐぅ。仕方なかったんだよ」

あかり「何が仕方なかったのよ?」

矢蘇部「途中で出てくる『上上下下・・・』を確かめる為にグラ○ィウス(FC版)をやってて、時間が・・・」

あかり「そんなんが理由になるかー!!」

矢蘇部「ちょっと待て。ゲームやってて得たものもあったんだぞ!」

あかり「何がよ!」

矢蘇部「ゲームやりながら、次回の展開を思いついたんだ」

あかり「次回の展開?」

矢蘇部「そうだ。次回は、名雪と祐一の愛が試されるラブラブアタッカーな展開になるはずだぞ!」

あかり「どうすれば、グラ○ィウスやりながら、そんなのが思いつくの!」

矢蘇部「ビックコア見てると思いつかないか?」

あかり「そんなのあんただけよ」

矢蘇部「そうかな〜」

あかり「だいたい、あんたにラブラブな展開なんか書けるはずないじゃない!」

矢蘇部「なんとかなるさ〜」

あかり「また、それかい!」


戻る