「祐一〜」

オレが部屋で雑誌を読んでいると名雪が入り口から声をかけてきた。

「名雪か。なんかようか?」

「九日、十日〜」

「・・・」

「わ〜、無言で寝ないでよ〜」

あわてふためく名雪。

「何かようか?」

仕方がないので、もう一度名雪に同じ事を聞く。

「書初めをしない?」

「書初め?」

「うん。書初め」

そういえば、学校の冬休みの宿題で、書初めをやってこいってのがあったっけ。

「下で用意してるよ〜」

そう言うと名雪は、部屋を出て階段を降りて行った。

「オレ、習字って苦手なんだよなー」


書への道




オレはリビングに顔を出した。

リビングの机は片付けられ、汚れないように新聞紙が引かれていた。

「えい、やあ、とう!」

真琴が力強く字を書いている。

「真琴、力入りすぎだぞ」

「あうー、ほっといてよ」

真琴も書いているところを見ると、1年生にも同じ宿題が出ているのかもしれない。

「♪うにゅ〜」

その隣で名雪が墨をすっていた。

鼻歌まで歌っている。

「名雪、楽しいか?」

「楽しいよ〜。♪しゅっしゅっしゅっ〜」

墨をするだけで楽しめるとは、おトクなやつだな。

「うぐぅ〜」

「さーてと、オレも書くかな」

開いているスペースを探す。

「うぐぅ、無視しないでよ祐一君」

「なんだ。いたのか。あゆ」

「うぐぅ」

「あまりにも小さかったから気がつかなかったぞ」

「うぐぅ〜!!」

あゆがぷ〜と膨れる。

「祐一さん、あまりあゆちゃんをイジメちゃダメですよ」

キッチンの方から秋子さんがやってきた。

「そうだよ〜」

「だいたい、何でお前がいるんだ?」

「私が呼んだのです。」

「朝、家の前を通りかかったからですか?」

「その通りです」

ニッコリと微笑む秋子さん。

「まあ、いいや。ジャマすんなよ。あゆ」

「うぐぅ、そんなことしないよ」

オレは部屋の角のスペースに新聞紙を引き、下敷きと半紙を用意した。

「そういえば、名雪。題字なんかは決まっているのか?」

「特に決まってないよ〜」

さすがうちの学校。いい加減だ。

「全校生徒の作品を評価して、賞を決めるんだって」

「一等になると何かいいことがあるのか?」

「作品が全校生徒のさらし物になるよ」

さらしものって・・・

「何か賞品とかはないのか?」

「確か、学食のお食事券一ヶ月分が貰えるのかな?」

「何!?」

それは、なかなかおいしい。

「よーし、やるぞー!」

急にやる気がでてきた。

「みんな、がんぱってね」

そんなオレ達を秋子さんが優しく見守っていた。





「よし。とりあえず何個かできたぞ!」

「私もできたよ〜」

「真琴も」

「ボクもできたよ」

それぞれが腰を伸ばす。

「どれどれ、あゆはどんなのを書いたんだ?」

オレはあゆの半紙をのぞきこんだ。

『うぐぅ』

「・・・」

「どうしたの祐一君?」

「あゆ、これは・・・」

「あ、これは最後に墨が余ったから書いただけだよ」

「じゃあ、こっちが提出用か?」

隣に置いてある半紙を見る。

『鯛焼き』

「・・・」

一応、その隣も見てみる。

『食い逃げ』

「・・・」

「祐一君、なんで無言なの?」

「いや、何でもない」

「?」

あゆが小首を傾げる。

こいつは、こんな物を書初めとして提出するのか。

「ま、あゆだしな」

「何がボクなの?」

「いや、なんでもない」

オレは気を取り直して、真琴の方を見た。

「真琴はどんなのを書いたんだ?」

「へへーん、真琴のはすごいわよ」

そういって、胸を張る真琴。

「結構あるな・・・」

「何が?」

「むね・・・いや、完成品がだ」

「そうよ。たくさん書いたもんねー」

たくさん書いても提出するのは一つだけだと思うんだが。

そう、心のなかで突っ込みつつ、オレは真琴の作品を眺めた。

『あんまん』

『こしあんまん』

『ピザまん』

『プリンまん』

『カレーまん』

『特選中華まん』

『ジャンボミックス肉まんデラックス』

中華まん屋のメニューみたいだ。

「それで、どれを提出する気だ?」

「これよ」

そう言って真琴が差し出した半紙には、

『肉まん』

と書かれていた。

こいつらのことだから、わかっていないと思っていたが、これほどまでとは・・・・

「どう、すごいでしょ」

「ああ、すごいよ」

いろんな意味でな。

「祐一君は、どんなのを書いたの?」

「あ、これね」

あゆと真琴がオレの作品をのぞきこんだ。

「・・・いちかたな・・・」

「りょう・・・祐一、これ何て読むの?」

「何だ、お前ら。こんな字も読めないのか?」

「うぐぅ」

「あうー」

頭をかかえる二人。

「これはな、『エル○ィカイザー』と読むんだ」

「エルディ○イザー?」

「ふーん、覚えておくわ」

納得する二人。

「祐一、嘘教えちゃダメだよ〜」

名雪が横から口を出してきた。

「え、嘘なの?」

「祐一、騙したわね!」

「うるさい!騙されるほうが悪いんだよ!」

開きなおるオレ。

「それはね〜、『登○剣』って読むんだよ」

名雪、それは合ってるようで違うぞ。

「これはな、一刀両断と読むんだ」

「いっとうりょうだん・・・」

「どーゆー意味?」

「一太刀で真っ二つにすること。転じて、物事をすばやく決めて、思い切った処理をすることだ。オレの今年の抱負だ!」

「わ〜、祐一がマトモなことを言ってるよ〜」

「オレだって、一年の初めぐらいは真面目になる」

それに、お食事券がかかっているからな。

字はダメでも、選んだ言葉で行けるだろう。

「そういえば、名雪はどんなのにしたんだ?」

「私はこれだよ」

名雪が半紙を持ってきた。

両手で持って、オレ達の方に向ける。

名雪が持っている半紙には、

『苺日曜日』

と書いてあった。

「いちごにちようび?」

「そんな休みの日があったっけ?」

あゆと真琴が不思議そうな顔をする。

いや、これは・・・

「なぁ、名雪。もしかしてこれの読み方って・・・」

「イチゴサンデーだよ」

ぐはぁ!

すげえ、すげえよ名雪。

バナナで釘が打てそうなくらい寒いぜ。

感動のあまり頭痛がしてきた。

「私の本気だよ。金賞とれるかな〜?」

「一等は真琴のがとるもん」

「うぐぅ、ボクのが一番だよ」

盛り上がる三人。

つーか、無理だろ。

何故なら・・・

「金賞はオレのが取るからだ!」

「それならみなさんで勝負ですね」

秋子さんが楽しそうにオレ達を見つめていた。



   *   *   *



三学期が始まってから、一週間がたった。

今日は、書初めの賞の発表日である。

オレは、名雪と一緒に発表会場である体育館に向かっている。

「誰のが金賞なんだろ〜」

「オレのに決まってるだろ」

「わかんないよ〜。ウチの学校レベル高いから」

「それでも勝つ!」

オレは、はやる心を押さえながら体育館に入った。



「二人とも入賞していなかったね」

名雪がガックリと言う。

「ああ。」

オレも名雪も真琴もあゆも何の賞にも入っていなかった。

「それにしても・・・・」

もう一度、入賞作品を見る。

確かに、みんな達筆である。

しかし・・・



佳作 3年 北川 潤   『男の浪漫』

   3年 美坂 香里  『天才美少女』

銅賞 2年 美坂 栞   『四次元』

銀賞 2年 天野 美汐  『酷』

金賞 特別参加 匿名希望 『了承』



オレはその日、人生と言うものについて深く考えた。



(終わり)



季節ネタっす。
ってゆうか、『エルディカ○ザー』と『登○剣』の為だけに書きました(笑)
みんなで『ワ○ル』と『グ○ンゾード』をはやらせよー!!


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