ら〜ら〜らら〜、ららら〜、ららら〜、ららら、ら〜らら〜

 ここはどこだろう。
 ここは――。

 らら、らら〜ら〜、ららら、らら〜ら〜、らら、ら〜らら〜

 歌……?
 歌が聞こえる。
 あれ?この歌。
 なんだっけ?
 とっても懐かしい――。

 ららら〜、ららら〜、らら、ら〜らら、らららら〜

 風に揺れるカーテン。
 机の上のお人形さん。
 たんすの上の小さな目覚まし時計。
 ベットわきのけろぴー。

 らら、らららら〜、らら、らららら〜。

 部屋には女の子が一人いた。
 小さな小さな女の子が、楽しそうに歌を歌っていた。
 青い髪を風になびかせて。
 緑の瞳をきらきらと輝かせて。
 ベットに腰掛けながら、小さな箱をその手に抱えながら、女の子が歌を口ずさんでいた。
 見慣れた部屋にいる、小さな女の子。
 昔あったことがあるような、すごく懐かしい感じのする、けれど、わたしの知っている誰とも違う、小さな小さな女の子――。
 そうか。
 わたしだ。
 女の子は、わたしだ。
 歌っているのは、あの頃のわたしだ。
 わたしがわたしを見ているんだ――。

 ら〜ら、らららら、ら〜ら〜。

 「こんど、また、祐一が来たら――」
 わたしが明るい声で歌うように呟いた。
 「祐一にも、この曲を聞かせてあげるんだ。きっと祐一も気に入ってくれるよ」
 ベットの上で嬉しそうに足をばたばたと動かすわたし。
 「それでね、祐一といっしょに歌うの」
 わたしが小さな箱を胸に抱きしめながら、体をベットの上にぼふっと倒した。
 ふいに視線が切り替わった。
 目の前に、見なれた天井が広がる。
 「こんど、また、祐一が来たら――」
 頭の後ろに柔らかな布団の感触。
 「また冬がきて、祐一がこの街に遊びに来たら――」
 目の前がぱぁっと真っ白になり、そこへ、祐一と一緒に過ごす自分の姿が浮き上がってきた。
 楽しそうな祐一。
 幸せそうなわたし。
 ふわふわと降る雪の中、二人は嬉しそうにくるくるとまわる。
 わたしは歌を口ずさみ、祐一もそれにあわせて歌いだす。
 いつまでも、飽きることなく、いつまでも……。

 そう。
 これは夢。
 わたしが見ているのは、夢。
 あの日、わたしが抱いていた夢を、夢の中の小さなわたしが、あの日のように夢見ている――。
 
 祐一と一緒に歌おうと思ってた。
 一緒に歌えたらとても楽しいだろうと想像してた。
 必ず、祐一と一緒に歌う日が来ると信じていた。
 だけど。
 あの日から――。
 あの日から、祐一は――。
 7年の間、祐一は――。

 「祐一と一緒に歌うの」





LOVE SONGを探して
Only Lonely Girl


 2


 自分は麻痺しているのかもしれない。
 それが相沢祐一がその少女を見たときに感じたことであった。
 7年ぶりにこの街に越してから今日に至るまで、祐一の周りでは、いわゆる奇跡といわれる事柄が頻繁に起きた。
 はじめのうちは、祐一は奇跡に感動を覚えていた。その奇跡が、人の運命に大きく関わるようなものであったからだ。実際、祐一は奇跡に救われたし、また、祐一の周囲の人々の中にも、それらの奇跡によって救済された人がたくさんいた。
 しかし、その後がいけなかった。
 奇跡のおかげで、みなが幸せに暮らせるようになってからも、奇跡はとどまることなく起こり続けたのだ。
 祐一の周りで、毎日のように起こりえないことが起こる。
 ある少女の言葉を借りれば、"起こらないから奇跡"なのであって、こう頻繁に起きてしまうと、奇跡としてのありがたみがなくなってくる。
 おまけに奇跡の内容も、どちらかというと奇跡といえないようなものばかりになっていったから、なお悪い。こうなってくると、それはもう怪異に近い。
 いつしか祐一は、これらの状況をある種の"呪い"と考え始めていた。
 怪異に付きまとわれる呪い。
 はた迷惑な呪いである。どうしてこうなったのかは祐一にもわからない。ただ、そういうものに付きまとわれるという事実があるだけだ。
 他人から見れば、刺激的な面白みのある生活に見えるかもしれない。しかし、当の本人にとっては煩わしいだけである。
 祐一は、もう少し静かに人生を送りたいのだ。
 だから祐一が学校帰りにその少女に会ったときも、そのことについて驚くことはなく、また何か起こるのかと、深くため息をつくばかりであった。
 「何が起こるのかは知らんが、これ以上変なことに巻き込まれるのは嫌だなぁ」
 そんなことを考えながら、祐一は少女の姿をもう一度観察する。
 少女は水瀬名雪の姿をしていた。
 何回見てもそうである。
 一度瞼を閉じてから再び開けると、その姿が煙のように消えている、ということもない。どうやってみても、目の前に名雪がいる。
 「勘弁してくれよ、まったく……」
 祐一が再びため息をつく。
 そんな祐一を見て、少女がきょとんとした顔で首を傾げた。
 その少女の仕種が記憶の中のそれと同じであったので、祐一は懐かしさのあまり、思わず少女の頭を優しく撫でた。
 少女が目を細める。
 少女の髪の手触りを感じて、祐一は改めてその少女の存在を実感した。
 ――おまえは、どこの時代から飛んできたんだ?
 そんな言葉が祐一の口から洩れそうになる。
 少女は、幼少の頃の名雪の姿をしていた。

 「祐一……」
 少女が祐一を見上げながらいった。
 「なんだい?」
 祐一が少女に訊く。
 「わたし、ずっと祐一を待っていたんだよ」
 少女が拗ねるようにいう。
 「そうなのか。待たせて悪かったな」
 「ううん、気にしてない。だって、祐一に会えたから」
 少女が嬉しそうに微笑む。
 「それでね、祐一……」
 少女が胸の前で手をもじもじと動かす。祐一はそんな少女の仕種を素直に可愛いと感じる。
 「一緒に遊ぼう」
 少女が頬を少し赤く染めながらいった。
 「今からか?」
 「うん。そうだよ」
 「どこか行くのか?」
 「行かないよ。わたしの部屋で遊ぶんだよ」
 「そうか……」
 祐一は少し考える。
 別段、害はなさそうである。
 ――昔の名雪の記憶か何かが溢れ出している。
 そんなところであろうか。
 それだったら、少しぐらい付き合ってやれば、満足して消えてゆくだろう。
 ――その方がこの子の為にも良さそうだし。
 少女は緊張した顔で祐一のことをじっと見ていた。祐一の返答を待っているのだ。その姿がいじらしく、祐一は思わず少女を抱きしめたくなる。
 「祐一……」
 少女が不安そうに祐一の名を呼ぶ。
 祐一はそんな少女の心を和らげるように、満面の笑みを浮かべて楽しそうに返答をした。
 「おう、いいぞ、名雪。一緒に遊ぼう。名雪が満足するまで、とことんつきあうぞ」
 「本当!?」
 「嘘なもんか」
 少女の顔に喜びの色が広がる。
 「じゃあ、いこう、祐一」
 少女が手を差し伸べる。
 祐一が少女の小さな手を優しく包む。
 次の瞬間、祐一と少女の姿は、その場所から綺麗さっぱりと消えていた。



 3


 「祐一は?」
 名雪が真琴に訊いた。
 「まだ、帰ってきてないみたい」
 「そう……」
 真琴の返答を訊き、名雪が首をうな垂れる。
 時計の針は、既に10時を指していた。
 「祐一さん、遅いわね」
 秋子が心配そうに呟く。
 それっきり、居間にいた3人は口を閉ざしてしまった。

 祐一が夜になっても帰ってこないのは珍しいことではなかった。
 もともと行動的な性格をしている祐一は、よく友人宅(ほとんどの場合が北川の家なのだが)に外泊したりする。しかし、そのような場合、祐一は必ず家に連絡をいれた。
 しかし今日は、祐一からの連絡はまだなかった。
 「どうしたんだろう、祐一……」
 名雪は自室のベットに寝転びながら呟いた。呟やきながら頭の中では、祐一がまた何か怪異に巻き込まれたのではないのかと考えていた。
 怪異。
 このところ、祐一の周りで起きる不思議な出来事。
 この前は、祐一は香里と一緒に200年前の世界に飛ばされたといっていた。
 その前は、真琴と美汐と月にいったとか。
 普通に聴いたらとても信じられない内容ばかりだが、名雪自身も祐一と一緒に怪異に遭遇したことがあるため、それらの話を素直に信じることができた。
 「今度は、何だろう……」
 ため息をつきながら寝返りをうつ。
 体を返すとき、一瞬名雪の視界に天井が飛び込んだ。
 「そういえば……」
 名雪は姿勢を仰向けに直し、天井をじっと見つめる。
 「最近、夢でよく天井を見ていた気がする。小さい頃の夢で、わたしが出てきて……」
 名雪は夢の内容を思い出そうとする。しかしそれは、もう少しというところでふわっと消えてしまう。
 「夢……。わたしが夢を見始めて、そうしたら祐一が……。前にも、わたしの夢が原因で、みんなが不思議な世界に飛ばされたことが……。もしかしたら、今回もわたしのせいで祐一が……」
 名雪の心に不安が広がる。
 もしそうであるのならば、祐一を救えるのは自分しかいない。
 「どうしよう……」
 名雪は天井を見つめながら考える。
 「そうだ、夢だ……。きっと、わたしの夢が鍵になってるんだ。どんな、夢だったっけ……。う〜ん……」
 名雪は一生懸命夢を思い出そうとする。
 目の前には見慣れた天井が広がっている。
 「わたしが出てくる夢で……。天井を見ていたってことは、同じようにここに寝ていたはずだから……」
 つかみかけた夢の記憶は、指の隙間からどんどんこぼれ落ちてゆく。名雪はそれを必死に捕らえようとする。
 「今と同じように寝ていて、きっとそこはわたしの部屋で、でもわたしは小さくて……」
 名雪の視界と記憶がだんだんと混ざり合ってゆく。
 名雪の心が少しづつ夢に溶けてゆく。
 いつのまにか名雪は、ベットの上で寝息を立てていた。



 4


 そこは薄暗いところだった。
 錆びた鉄の臭いが鼻につく。
 天井を見上げてみると、そこには白い線がすーっと一本引かれていた。
 「ここはどこだ?」
 祐一が傍らの少女に訊いた。
 「ここ?やだなぁ、祐一。わたしの部屋だよ」
 少女は明るい声でそういった。
 ――ここが名雪の部屋だって?
 祐一は改めて周囲を見渡してみる。暗くてよくわからないが、ここが名雪の部屋ではないことは確かだ。
 「なぁ、名雪……」
 「なあに?祐一」
 「本当に、ここがおまえの部屋なのか?」
 「そうだよ。わたしはずっとここで祐一を待っていたんだから」
 少女が祐一の手を握った。
 「さぁ、祐一。あそぼ」
 「ああ。それはいいが……」
 祐一はもう一度辺りを眺めてから、視線を少女へと移す。少女は目を輝かせながら祐一の顔をじっと見つめていた。その笑顔を見た祐一は、今はこの少女と遊んであげようと素直に思った。
 ――ここがどこであろうと、関係ないしな。
 祐一は心を切り替える。
 「よし、名雪。遊ぶぞ」
 「さっきからそういってるよ」
 「そうだったか?」
 「そうだったよ」
 少女がころころと笑う。それを見た祐一も一緒になって笑う。
 「で、何して遊ぶんだ?名雪」
 「あのね、歌を歌うの」
 「うたぁ?また、ずいぶんと安上がりだな」
 「わたし、ずっと楽しみしてたんだよ。祐一と一緒に歌を歌うのを」
 「そうなのか?」
 「そうだよ」
 少女が頬を赤らめる。
 それを見た祐一も、何となく気恥ずかしくなる。
 「それで、何の歌を歌うんだ?」
 「わたしのお気に入りの歌だよ」
 「へ〜、名雪のお気に入りか」
 「うん」
 「とりあえず聴かせてくれよ」
 「わかったよ。じゃあ、まず、わたしが歌うね」
 少女が目を閉じ、両手を胸の前で結ぶ。
 祐一は辺りに腰掛けて少女の天使のような歌声を待つ。
 ところが少女は、そのままの状態で固まってしまった。
 「どうしたんだ?名雪?」
 堪らず祐一が少女に訊く。
 「あれ……」
 少女が震えながら呟く。
 「おかしいな……」
 少女が瞼を開く。その瞳にはうっすら涙が溜まっている。
 「うた……、うたが……」
 「歌がどうしたんだ?」
 「思い出せないの……」
 「歌詞をか?」
 「歌えないの。思い出せないのっ」
 突然、少女が大声で泣き出した。


 「落ち着いたか?」
 祐一が少女を抱きながらいった。
 「うん……」
 少女が目を擦りながら答える。
 その様子を見て、もう大丈夫だろうと判断した祐一は、そっと少女を抱く手をほどいた。
 「それにしても、歌か……」
 祐一の言葉に少女がびくっと震える。
 「う……、わたし、あんなに楽しみにしてたのに……、う……」
 「おい、名雪、泣くな」
 「だって……」
 少女の肩が震えだす。
 「大丈夫だ、名雪。俺にまかせろ」
 祐一は少女の両肩に手をそっと置き、その瞳をじっと見つめた。
 「名雪。俺にいい考えがある」
 「考え?」
 「よく聴け。これから俺が、名雪の前で歌を歌う。俺が知っている歌を全部だ」
 「祐一が歌うの?」
 「そうだ。俺が歌う。もしかしたら、俺の知っている歌の中に、名雪の忘れてしまった歌があるかもしれないだろ」
 「もしなかったら?」
 「そういうこともあるだろう。けどな、名雪。俺の歌がヒントになって、例えば、メロディーが似ているとか、歌詞が似ているとか、まぁ、何でもいい。とにかく、何かがきっかけになって、名雪が歌を思い出すかもしれない」
 祐一の言葉に少女が小さく頷く。
 「だから、名雪は俺の歌を聴け。それで一生懸命思い出すんだ。そして、歌を思い出すことができたら、そのときは一緒に歌おうな」
 「わかったよ、祐一」
 祐一の提案に、少女は真剣な顔で頷いた。



 5


 歌が聞こえた。
 どこからか、楽しげな歌が聴こえてきた。
 はじめはそれは夢だと思ったが、どうやら夢ではないようだ。
 名雪はゆっくりと身を起こし、点けたままの電気をぼうっと見つめた。
 ――あのまま眠っちゃったんだ。
 名雪はベットに腰掛けてため息をつく。
 そのとき、部屋のどこかから歌が聞こえてきた。
 「やっぱり、歌が聴こえる……」
 名雪は耳を澄ます。
 歌声は、祐一の声のように聞こえた。
 「祐一!」
 名雪は思わず立ち上がる。
 いつのまに帰って来たのだろうか?
 確認すべく、隣の祐一の部屋へ行こうとドアノブに手をかけたところで、名雪はその動きをはたと止めた。
 そして、ゆっくりと振り返る。
 「祐一……」
 名雪は自分の部屋を見渡した。
 何故なら、祐一のものと思われる歌声は、自分の部屋のどこかから聴こえてきていたから。
 「どこにいるの……」
 名雪は意識を耳に集中させる。
 どこからか漂ってくる祐一の歌声。
 よく聴くと、その歌声は祐一一人だけのものではなかった。誰か女の子の声がそれに交じっている。
 「祐一、誰かと一緒に歌っているんだ……」
 そのとき、名雪はふと最近の夢の内容を思い出した。
 一人で歌っている自分。
 祐一と一緒に歌いたがっていた自分。
 わたしは、それをとても楽しみにしていたのに……。
 「そうだ!」
 名雪はいきなりベットの上へ飛び乗り、タンスの上に手を伸ばした。
 「わたし、お母さんにあれ買ってもらって、それで祐一と一緒に歌おうって……」
 目的の物が見つからなかったので、今度は押入れの中を探す。
 「ずっと忘れてたけど、最近見る夢は、あのときのわたしの……」
 洋服ダンスを開け放ち、ベットの下に潜り込み、机の引き出しを全部ひっくり返したとき、名雪はようやくそれを見つけた。
 「あった。これだ」
 手のひらに収まるぐらいの小さな箱。祐一の歌声はその中から聴こえてくる。
 「これを開ければ……」
 名雪は一瞬箱を開けようとしたが、思いとどまって、箱の側面から飛び出しているネジをゆっくりと巻き始めた。



 6


 いきなり部屋が動き出した。
 驚いた祐一は思わず歌を止める。
 一緒になって歌っていた少女も、不安そうに祐一を見上げた。
 「なんだ、何が起こったんだ?」
 「わからない」
 部屋の中に、金属と金属が擦れるガチガチという音が響き渡る。
 錆びた鉄の臭いが辺りに充満する。
 部屋はひとしきり揺れたあと、ふいに静かになった。
 「終わったのか……」
 祐一が暗い天井を見上げる。すると、天井の白い線が音もなく膨らみはじめた。それはだんだんと幅広くなり、そこから部屋の中に光が差し込んでくる。
 同時に、部屋の床がゆっくりと移動しはじめた。
 少女が祐一にしがみつく。
 祐一は少女を抱きながら、天井の光をじっと見つめていた。そこに何かを見ようとするのだが、眩し過ぎて逆に何も見えない。
 そのとき、祐一は音楽を聴いた。
 ――どこからだ?
 祐一は耳を澄ましてみる。
 音は、祐一たちのいる部屋全体から聴こえてきていた。
 ――この部屋が歌っているのか?
 祐一の耳に音楽が流れこんでくる。
 「この歌だよ」
 傍らの少女が弾んだ声でいった。
 「この歌が、わたしが祐一と歌いたかった歌だよ」
 少女が祐一から離れ、光の中へと踊りだした。
 「わたし、ずっとこの歌を歌いたかったんだ」
 少女がくるくると回る。
 天からは光が降り注いでくる。
 「ねぇ、祐一。一緒に歌おう」
 少女が祐一に微笑みかけた。
 「ああ、そうだな」
 祐一も少女に微笑み返す。
 部屋の中一杯に光が溢れる。
 眩しくて、何も見えなくなる。
 祐一が最後に聴いたのは、楽しそうな名雪の歌声だった。



 7


 歌が聴こえた。
 祐一はゆっくりと瞳を開ける。
 目の前では、名雪がベットに腰掛けながら鼻歌を歌っていた。
 その手には小さな箱型のオルゴールが握られている。
 「名雪……」
 祐一はなんとなく名雪の名前を呼んだ。
 「わぁっ!」
 名雪が素っ頓狂な声をあげた。
 「ゆ、祐一……。もう、びっくりさせないでよ」
 「すまんな、名雪」
 祐一が頭の後ろをかく。
 「どこいってたの、みんな心配してたんだよ」
 「さあな、よくわからん」
 「ふ〜ん、そうなんだ」
 名雪がオルゴールをベットの上に置く。そこからは、綺麗な音色がとうとうと流れてくる。
 「ん?そんなオルゴール持ってたっけ?」
 「うん……。持ってたんだ。ずっとしまってあったけど……」
 「しまってあった?もったいないなぁ」
 「だけどね、もう大丈夫だよ。ちゃんと蓋を開けたから」
 「は?何をいってんだ?」
 「ううん。わたしの話」
 「よくわからん……」
 祐一は大げさに天を仰いだあと、近くの目覚まし時計を覗き込んだ。
 「げ、夜中の3時ではないか」
 「わっ、びっくり。良い子は寝てる時間だよ」
 「貴重な睡眠時間が……。こうしてはいられん、寝なくてはっ!」
 ドアを開けて出て行こうとする祐一の背中に、名雪が声をかけた。
 「祐一……」
 「なんだ?」
 「夜は、おやすみなさいだよ」
 「む……。おやすみ、名雪」
 「おやすみ、祐一」
 祐一がパタンとドアを閉じた。
 名雪はベットに横たわる。ちょうど、頭の横にオルゴールがきた。
 「おやすみ、わたし……」
 名雪がオルゴールの蓋を閉じようとする。
 そのとき、祐一が名雪の部屋に戻ってきた。
 「名雪……」
 「なに、祐一」
 「そのオルゴールの曲。いい曲だな」
 「わたしのお気に入りだよ」
 「そうか……。今度一緒に歌うか」
 「わ、祐一が恥ずかしいことをいってるよ」
 「歌わないのか?」
 「歌うよ。祐一と一緒に歌うの」
 「けど、今日は眠いから、また明日な」
 そういって祐一は再びドアを閉じた。
 名雪はしばらくベットの上でオルゴールの音に耳を傾けた後、新しい思いと共にオルゴールの蓋をゆっくりと閉じた。


 (完)







 矢蘇部「ぱーかーけろー……」
 あかり「どうしたの?矢蘇っち?」
 矢蘇部「いやぁ、久々に短編を書いたんだけどさ……」
 あかり「本当に久しぶりよね」
 矢蘇部「はじめは、こう、もっと普通でほのぼのした話を書こうとしたわけよ」
 あかり「普通でほのぼのねぇ……」
 矢蘇部「ところがさぁ、できあがったのが、これ……」
 あかり「普通でもないし、ほのぼのでもない」
 矢蘇部「そうなんだ……。ああ、俺はもう普通の話は書けないのかなぁ……」
 あかり「書けないんじゃん」
 矢蘇部「う……。はっきりいいやがるなぁ……」
 あかり「いいじゃん。開き直って普通じゃないSSを書いていけば」
 矢蘇部「開き直りねぇ……」
 あかり「ある意味個性的だと思うわよ」
 矢蘇部「そうか。そういう考えもあるか……」
 あかり「矢蘇っちらしくない。もっと前向きにいきゃぁいいのよ」
 矢蘇部「む……。そだな。そうすっか」

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