私の夢・俺の今




 「♪紅茶〜、紅茶〜、セイロ〜ン、アッサ〜ム〜」

 ティーポットの紅茶をカップに注ぐ。

 甘い匂いがふわりと漂う。

 「♪ミルクミルク、真っ白ミルク〜」

 ミルクティーは、最近の私のお気に入り。

 「♪うにゅ〜、おいしいよ〜」

 口の中に広がる紅茶とミルクのハーモニー。

 幸せだよ〜。

 私はしばらく紅茶を楽しむ。

 「ん、紅茶を飲んでいるのか。いい匂いだな」

 「あ、祐一〜」

 祐一がダイニングに入って来た。

 「俺も一杯もらおうかな」

 そういって、祐一が食器棚からカップを出してくる。

 ネコさんのイラストの入った白いカップ。

 実は、私のカップとおそろい。

 祐一がカップをテーブルの上に置き、ティーポットを手に取った。

 そして、いきなりティーポットから直接紅茶を飲もうとする。

 「わっ!ダメだよ祐一〜」

 私は慌てて祐一を止める。

 「ちゃんと淹れなきゃダメだよ」

 私は祐一の手からポットを奪い取り、祐一のカップに紅茶を注いだ。

 「はい。いいよ」

 「おお、すまんな、名雪」

 「今度はきちんと淹れてね」

 「覚えとくよ」

 祐一が笑いながらカップを手に取った。

 ところが、祐一がいきなりカップを落とした。

 カップはテーブルに落ち、中身の紅茶が私にどばっとかかる。

 「わっ!祐一っ!あついよ〜」

 「うおっ!だ、大丈夫か名雪」

 「う〜、ぬれちゃったよ〜」

 結構な量の紅茶が私にかかった為、服はビショビショになってしまった。

 「うにゅ〜、中までグショグショだよ〜」

 私は思わず情けない声をあげる。

 「こりゃ、クリーニングに出さなきゃダメだな」

 「う〜、祐一のせいだよ〜、責任とってよ〜」

 「よし。名雪。服を脱げ」

 「うにゅ?」

 「ほらっ、はやく脱げ!それでクリーニング屋に行くぞ!」

 そういって、いきなり祐一が私の服を脱がしにかかる。

 「わっ!ダメだよ、祐一。こんなところでっ!」

 「そうか。じゃあ、待っててやるからはやく着替えて来い」

 「わかったよ〜、服を脱いでくるね」

 私は部屋に戻り、ぬれた服を着替えた。





 「よし、名雪。着替え終わったな。それじゃあ行くぞ」

 「え?もう行くの?」

 「そうだ。善は急げだ!」

 そういって祐一は玄関から飛び出した。

 「わっ!待ってよ!」

 私も慌てて靴を履き、玄関から飛び出る。

 外に出ると、祐一はすでに走り始めていた。

 「祐一〜、ひとりで行っちゃダメだよ〜」

 私は慌てて祐一を追いかける。

 けど、祐一は物凄い勢いでグングン先に行ってしまう。

 「祐一〜、速いよ〜」

 私は一生懸命祐一を追いかける。

 しばらく走った所で、祐一が立ち止まってこちらを振り向いた。

 そして、私がたどり着くまでそこで待っていてくれた。

 「はぁ、はぁ、酷いよ、祐一。先に行っちゃうんだもん」

 「すまん、名雪。なんとなく走りたかったんだ」

 「ダメだよ、祐一。行く時は一緒だよ」

 「そうだな、一緒に歩いて行くか」

 「うん。もっとゆっくりと行こうよ」

 私は祐一と並んで歩き出した。





 「すみません。これのクリーニングお願いしたいんですけど」

 祐一が店の入り口から声をかける。

 けど、誰も反応しない。

 入り口から見た限り、店の中には誰もいないみたい。

 「うーん、留守なのかな?」

 祐一が店の中を覗き込む。

 「中に入っても大丈夫かな?」

 「中?大丈夫だと思うよ」

 「このまま外にいてもしょうがないからな」

 祐一が店の中に入る。

 「すみませーん」

 そして、もう一度声をかけた。

 けどやっぱり沈黙。

 「これ、このままここに出してっていいかな?」

 祐一がぬれた服をクリーニング屋のカウンターに置く。

 「いくら何でもそれは―――」

 「ちゃんと店の中に置いてあるんだ。問題ないだろ」

 「確かに中かもしれないけど、出しっぱなしってのは……」

 「マズイかな?」

 「ダメだと思うよ〜」

 「仕方がない。今日は帰るか」

 祐一が肩をすくめる。

 「そうだね」

 私は祐一を見上げた。

 「もうすぐ、授業も終わるしな」

 「へ?」

 祐一がいきなり変な事をいった。

 授業が終わる?

 「ほらっ、チャイムが―――」

 チャイム?

 その時、どこからか学校のチャイムが聴こえてきた。

 あれ?なんで学校のチャイムが―――

 次の瞬間―――

 ゴンッ!

 頭に衝撃。

 痛くて、思わず目を閉じる。

 暗転。

 そして、

 「起きろぉぉ!名雪ぃぃぃぃ!!」

 祐一の叫び声!

 目を開けるとそこは―――



   *   *   *



 「名雪ぃぃぃぃぃ!」

 顔を真っ赤にしてる祐一。

 いつもの学校の教室、机、椅子。

 こちらに注目してるクラスメート。

 あ、私、授業中に寝ちゃったんだ。

 けど、どうして祐一はあんなに真っ赤な顔をしてるんだろう?

 「うにゅっ?祐一、おふぁよ〜」

 私はあくびをしながら祐一に挨拶をする。

 そしたら、祐一はいきなり私の頭にチョップをしてきた。

 う〜、酷いよ〜。






 うーん、眠い。

 眠い、眠い、眠い。

 ああ、どうして授業というのもはこんなに眠いのだろうか。

 もしかして石橋は、人を眠らせる天才なのではないだろうか?

 ふと隣を見る。

 当然眠っている名雪。

 うにゅ〜って感じで幸せそうな寝顔。

 うーん、可愛いなぁ。

 ん?何か寝言をいってるぞ。

 「……セイロ〜ン、アッサ〜ム〜」

 なんだ?ラ○ネスの夢でも見ているのか?

 「♪ミルクミルク、真っ白ミルク〜」

 ミルク?やはりラ○ネスか?

 けど、真っ白ミルクって……。

 香里や北川も名雪の寝言に気付いたらしい。

 二人とも、名雪の方を見ている。

 「♪うにゅ〜、おいしいよ〜」

 おいしい?

 って事はラ○ネスではないな。

 イチゴサンデーでも食べているのかな?

 「あ、祐一〜」

 おや、俺が出てきたぞ。

 香里と北川の視線が一瞬俺の方に向けられたのがわかる。

 「わっ!ダメだよ祐一〜」

 名雪が、いきなりさっきより少し強い口調で寝言をいった。

 周りのヤツラも名雪の方を見出した。

 「ちゃんといれなきゃダメだよ」

 へっ?

 ちゃんといれなきゃダメ?

 入れるって何を入れるんだ?

 「はい。いいよ」

 いいよ?

 「今度はきちんといれてね」

 だから、入れるって何を入れるんだ?

 香里や北川が俺の方を複雑な顔で見つめている。

 何なんだ、おまえ等。俺が何をしたっていうんだ?

 その時、ひときわ大きな寝言が教室に鳴り響いた。

 「わっ!祐一っ!あついよ〜」

 俺があつい?

 何だ。俺の何が熱いって?

 は、そういえば、さっき入れるって……

 入れる、そして熱い!

 ま、まさか……

 俺はおそるおそる名雪を見る。

 「う〜、ぬれちゃったよ〜」

 げふぅっ!

 「うにゅ〜、中までグショグショだよ〜」

 ぎゃはぁっ!

 「う〜、祐一のせいだよ〜、責任とってよ〜」

 げぼばぁっ!

 俺は思わず机に突っ伏した。

 いったい何の夢を見ているんだ!?

 「おい、相沢。おまえ水瀬に何をしたんだ?」

 後ろから北川がニヤニヤと笑いんがら話し掛けてきた。

 「相沢君、責任って何の責任?」

 香里も興味津々の顔で俺に問い掛けてくる。

 「ちょっと待て。俺は何もしてないぞ。名雪が勝手に夢を見ているんであって―――」

 「うにゅ?」

 また名雪が声をあげた。

 周りの人間が一斉に名雪に注目する。

 「わっ!ダメだよ、祐一。こんなところでっ!」

 おうよっ!

 瞬間、注目が名雪から俺に移る。

 「相沢君、どこで何をしてるの?」

 全員を代表した香里の質問。

 「知るか!名雪に聞け!」

 「わかったよ〜、服を脱いでくるね」

 えげふっ!

 服を脱いでくるだぁ!?

 「相沢、おまえ水瀬に何をしてるんだ!!」

 北川が俺の肩をつかみ、がくがくと揺すった。

 「夢見てるのは名雪であって、俺は関係ない―――」

 「何なんだ?ナニなんだな!そうなんだな!」

 「何を興奮しているんだ!おまえは!」

 「ナニで興奮?やはりナニなのか?」

 「黙れ!」

 俺は北川を殴って黙らせようとした。

 だが、その時、名雪が――――――

 「え?もうイクの?」

 はぅっ!

 俺は北川を殴ろうとしたポーズのまま固まる。

 「わっ!待ってよ!」

 再び名雪に注目するクラスメートども。

 「祐一〜、ひとりでイっちゃダメだよ〜」

 気付くと、クラスのやつら全員が名雪に注目していた。

 「祐一〜、はやいよ〜」

 ってゆーか、講義をしている石橋まで聞き耳を立てているではないか!

 「はぁ、はぁ、酷いよ、祐一。先にイっちゃうんだもん」

 なに息を切らしているんだ!名雪!

 「ダメだよ、祐一。イク時は一緒だよ」

 拗ねるような名雪の声。

 「うん。もっとゆっくりとイこうよ」

 そして、満足げな声を出す名雪―――

 「はやいんだ」

 北川が呟いた。

 「はやいのね」

 香里も呟く。

 そして二人が、俺に哀れみの視線を向けた。

 周りのクラスメートも口々に「相沢はマッハだ」とか「30秒ももたないらしい」とか呟いていやがる。

 「テメーら、いいかげんにっ!」

 俺は思わず立ち上がり、大声で叫ぶ。

 すると、石橋がこちらに向かって歩いて来た。

 しまった、騒ぎすぎたか!

 石橋は俺の前に立つと、おもむろに口を開いた。

 「相沢、おまえ、そうろ……」

 「い、石橋!てめー、それでも教師か!」

 「ああ、そうだ。だがな、その前に一人の人間なんだよ」

 く、クソ野郎!

 何で俺はこんな目に会わなければいけないんだ!

 そ、そうだ。全部名雪が悪い!

 「名雪を起こせば!」

 俺が名雪を揺り起こそうとしたその瞬間!

 「北川、斉藤!相沢を取り押さえろ!」

 石橋が吼える。

 それに従って、北川と斎藤が俺にとびかかってきた。

 俺はあっというまに二人に押さえつけられてしまう。

 「ぐっ、おまえら!」

 「すまんな、相沢。けどな、こんなオモシロイ事を途中で止めさせるわけにはいかないんだ」

 クラスのヤツラがうんうんといた。

 どうやらクラスの中に俺の味方はいないらしい。



 「なか?大丈夫だと思うよ」

 再び名雪が呟いた。

 「なかぁっ!」

 教室内がざわめく。

 「ゆうき――――――かしら」

 香里がぽつりといった。

 ゆうき?

 何の事だ?

 「祐一の『ゆう』に名雪の『き』か」

 「それなら男の子でも女の子でもどっちでもOKだな」

 てめーらっ、何の話をしている!

 「いくら何でもそれは―――」

 名雪が寝ながら呟く。

 「確かに中かもしれないけど、出しっぱなしってのは―――」

 「は?出しっぱなし?どういう事だ?」

 「はやいけど、量は多いってこと?」

 めちゃくちゃな想像をしているクラスメートども。

 俺、なんか泣きたくなってきた。

 「ダメだと思うよ〜」

 名雪が情けない声を出す。

 「ダメって、ダメな日なのに出したのか?」

 「そういえば、さっき中に出しっぱなしって・・・・・・」

 北川と香里が真剣な顔で俺と名雪を見る。

 「相沢、生まれたら見せてくれよな」

 「お祝い品は何がいい?やっぱ消耗品の方がいいわよね。オムツなんかどう?名雪はそれでいいわよね」

 「そうだね」

 名雪が寝ながらうんうんと頷いた。

 「ほら、名雪もこういってるし。紙オムツで決定ね」

 俺にはすでにいい返す気力もない。

 「どんな子かしらね」

 香里が温かな目で名雪を見つめる。

 その視線を感じたからだろうか?

 「へ?」

 名雪が体をびくっと振るわせた。

 「なによ、失礼ね」

 香里がそう悪態をついた時、授業終了のチャイムが鳴った。

 一瞬、北川と斉藤がチャイムに気を取られる。

 俺はその隙に二人を振りほどき、名雪の頭を叩き、力の限り叫んだ。

 「起きろぉぉ!名雪ぃぃぃぃ!!」

 名雪がゆっくりと起き上がり、ボケーッとした眼で辺りを見回した。

 「うにゅっ?祐一、おふぁよ〜」

 あくびをしながら目をこする名雪。

 その平和そうな顔を見て、俺は思わず名雪の頭にチョップを入れた。



 (終わりだぁぁぁぁ!)




 矢蘇部「突然ですが、矢蘇部は低俗なネタが好きです」

 あかり「……」

 矢蘇部「使い古されたネタも好きです」

 あかり「……」

 矢蘇部「なので、両方くっつけてみました」

 あかり「それでできたのがこれ?」

 矢蘇部「そういうことだ」

 あかり「ただのアホね」

 矢蘇部「自分でもそう思うよ」

 あかり「じゃあ、なんでこんなことやったのよ」

 矢蘇部「何故なら、思いついちゃったから」

 あかり「踏み止まるってことを知らないの?」

 矢蘇部「馬鹿言うな!漢なら進み続けなければいけないのだ!うおぉぉぉ!」

 あかり「ついていけんわ……」




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