走る。

ひたすらに走る。

全速力で駆け抜ける。

目まぐるしく変る街並み。

流れ行く風。

なんだろう、光が見える。

「おお、神よ」

輝く朝日。

輝く雪。

世界はこんなにも美しい。

「神よ、オレ達は1時間目に間に合うだろうか?」




限られた時間と運命




「1時間目も、ぎりぎりっぽいよ」

隣の名雪が、走りながら答える。

「と、いうことは、朝のHRには・・・」

「間に合わないと思うよ」

無情に言い放つ名雪。

「くそ、この世に神や仏はいないのか?」

「神様はいるよ」

「じゃぁ、どうしてオレ達は報われないんだ!」

「それは、きっと・・・」

普段の行いが悪いからか?

オレの行いは決して悪くはないとは思うのだが。

「神様はいるけど、疫病神とかタタリ神とかだからだよ」

ぐはっ!そうきたか!

「お払いしろ!」

「無理だよ。私、巫女さんじゃないし」

「早起きしろ!」

「無理だよ。私、低気圧だし」

「どこ○もドア!」

「それは、栞ちゃんに頼まないと」

本当に持ってそうだ。

「だいたい、名雪が悪い。朝起きるのが遅い癖に、テレビの占いなんて見るからだ!」

あんなものが当たるハズがない。

「祐一だって、自分の運勢が悪いからって、他チャンネルの占いを見てたもん」

確かに、占いの結果があまりにも酷かったから、チャンネルを変えた覚えがある。

「『この占いはおかしい!』とか言いながら、結局全部のチャンネルを見た祐一も悪いもん! 」

悪いのはテレビ局だ。

人の運勢をコケにしやがって。

何が、金運なし、健康運なし、愛情運なし、大凶、天中殺だ!!

・・・もしかして、当たっているのか?

そういえば、玄関で靴紐を結ぼうとしたら、靴紐が切れたし、家を出たら黒ネコが目の前を横切ったっけ・・・・

「あの時、オマエがネコを追いかけなければ!」

「だって、ネコさんだもん!」

ダメだ。ネコが絡むと理屈が通じない。

ネコのヤツもわざわざ学校とは逆の方向に逃げてくれたから、余計に大変だった。

「占い、大当たりだね」



・・・・・・キーンコーンカーンコーン・・・・・・

遠くの方からチャイムが聞こえる。

「今のは、HRの始まりの合図か?」

「たぶん。だから、一時間目まで、あと5分・・・」

ここからだと、5分で着くのは難しい。

「今日の一時間目はだれだっけ?」

例え、授業時間になっても、教師がすぐに来るとは限らない。

「今日は、木曜日だから・・・社会の加藤先生だよ」

「カトセンか!最悪!」

カトセンのヤツは、時間ピッタシに教室にやって来る。

根が真面目で、時間一杯授業をしたいからではない。

慌てて教室に飛び込んでくる生徒に遅刻を通告することを、無常の楽しみとしているからだ。

くそっ、あのバーコードめが!

「祐一、先生に向かってそんなことを言っちゃダメだよ」

全速力で走っていても、思わず口に出てしまうオレ。

「せめて、スダレハゲとかにしないと」

同じだ。

それにしても簾禿げとは・・・

「それ、名雪が考えたのか?」

「ううん、香里」

「・・・・・」

後で香里に座布団を進呈しよう。





オレ達の健闘むなしく、教室についた時には既に簾禿げが出席をとり終わっていた。

「んー、何だ。水瀬と相沢は遅刻か。いかんなー」

ニヤニヤしながらオレ達を見つめる簾禿げ。

「すいません」

しおらしくあやまる名雪。

「どうして、遅れたんだ」

「あの、妹が病気で、えと、看病してて、それで・・・・」

いつの間に、姉妹が増えたんだろうか?

「それじゃー、しょうがないな。席に行っていいぞ」

名雪はそそくさと自分の席に向かって行った。

「それで、相沢はどうしたんだー?」

一応、コイツもオレと名雪が同じ家に住んでいることは知っているハズ。

ならば、名雪と同じ手で・・・

「オレも妹の看病を・・・」

「言い訳するんじゃないっ!」



一時間目は廊下だった。

(終)




この話はフィクションであるが、一部ノンフィクションだったりする。



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