楽しいおまけ



 階段の踊り場。
 床に敷かれたレジャーシート。
 色とりどりのおかずが詰まったお弁当箱。
 お茶が注がれたマグカップ。
 ちょこんと座る佐祐理。
 背中を向けて体育座りをしている舞。
 そして、積み上げられた、大量のハンバーガーやフライドポテト――。
 「これはなんだ?」
 祐一は目の前に積まれたハンバーガーとフライドポテトを指差しながらいった。
 「はぇ〜、佐祐理にもわからないです」
 佐祐理は左右に首を振ったあと、ちらりと舞の方を見た。
 舞は、あいも変わらず祐一たちに背中を向けて、まん丸になっている。
 「なぁ、舞。これ買ってきたのはおまえか?」
 祐一が舞の背中に問いかける。
 すると舞は小さく「はちみつクマさん・・・・・・」とつぶやいた。
 「いつのまに、こんなもんを買ってきたんだ?」
 「それはたぶん、4時間目です」
 舞の代わりに佐祐理が答えた。
 「今日、3年生は4時間目がなかったんです。佐祐理はその時間、舞と今度遊園地に遊びに行くときの予定を決めようと思ったんですけど、教室のどこを探しても舞の姿が見つからなかったので、たぶん、そのとき外に買いに行ったんですね」
 祐一が舞に「そうなのか?」と問う。
 すると舞は少し振り返りながらコクンと頷いた。
 「何やってんだ、舞。昼になったら佐祐理さんの弁当が食べれるだろうに。それなのに、こんなにマグネナルドのハンバーガーを買ってきて。そんなに腹が減ってたのか?」
 祐一が呆れ顔でいう。
 それに対して舞は「おまけが欲しかったから」と、か細い声で答えた。
 「おまけ?」
 祐一はもう一度ハンバーガーの山を見る。
 ハンバーガー、フライドポテト、ジュース……。
 「ああ、マグネナルドでやっている、あのなんとかセットってやつか」
 祐一は手を叩きながら、そのなんとかセットのことを思い浮かべた。
 マグネナルドでよく催される企画で、期間限定でそのセットを買うと、おまけに人形が付いてくるというサービズだ。
 「ん、けど、舞――」
 祐一が怪訝な顔をしながら舞に訊ねた。
 「おまえ、あのおまけの人形、可愛くないから嫌だっていってなかったか?」
 この前、舞たちとマグネナルドに行ったとき、舞はセットのおまけの人形が可愛くないといって、普通にハンバーガーを頼んだ。
 おまけの人形は、今度やるSF映画のキャラクターのゴム人形で、エイリアンだかなんだか知らないが、極めて奇怪な形をしたものだった。どちらかというと、女の子でなく男の子向けなんだろうが、あれは大人が見ても気味が悪い。
 「あのですね〜、祐一さん」
 気色の悪いものを想像して多少げんなりしていた祐一に、佐祐理が爽やかに間延びした声で話しかけた。
 「マグネナルドのおまけは変わったんですよ」
 「何、そうなのか?」
 「CMでやってますよ〜。今度のマグネ・セットのおまけは、海辺のポテトっていう犬さんのお人形さんです」
 「犬なのにポテトなのか?」
 「はい。ふわふわの白い毛玉さんで可愛いんですよ」
 「ふーん、そうだったのか。それじゃあ、舞。舞はその人形が欲しくて、マグネ・セットを大量に注文したのか?」
 舞は祐一たちの方を向いたあと、一度ハンバーガーに視線を落とし、それから小さく「そう……」といった。
 「犬さんのお人形さんが欲しかったから。一人だけだと犬さんも寂しいだろうから、犬さんの家族や友達ももらおうと思って、持ってたお金で買えるだけ……」
 「そうか。ハンバーガーが大量にある理由はわかった。けど、なんで舞はそんなに落ち込んでいるんだ?」
 祐一が未だに暗い表情の舞に問い掛ける。
 「それは……」
 舞が顔をあげた。
 その瞳は、今にも泣き出しそうに、危うげにゆらゆらと潤んでいた。
 「今回のセットは、とても人気があったから……」
 舞は傍らに置いてあった自分の鞄から紙袋を取り出し、それを祐一に渡した。
 「だから、私が買いにいったときは、犬さんのお人形さんはもう売れきれていて……」
 祐一は袋がマグネナルドのものであることを確認してから、ゆっくりとそれを開ける。
 「お店の人が、代わりにって、前のセットのときのおまけを……」
 祐一が袋を覗きこむ。その中には、例の気色の悪い人形が満員電車のごとく詰まっていた。

 <終>


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