母親―――
私たちのお母さんは誰?
探偵水瀬名雪
私がここにいる理由
you and I
#8「探求者」
「名雪さん?」
天野がそう呟いた。
その声がどこか天野らしくない声だったので、俺は振り返ってドアを見た。
「え?」
さっきまでそこで天野と一緒にドアを叩いていた名雪。しかし、今そこにその姿は見当たらなかった。
「名雪……?あ、天野。名雪はどこにいったんだ?」
天野が困惑した顔で俺の方を見る。
「私の横でドアを叩いていたのですが……」
天野がドアを見つめる。その視線は、ドアのさらに向こうを見つめているようだった。
「名雪はどこにいったんだ?」
俺は、アホみたいに同じ質問を繰り返す。
それに対する天野の答えは、信じられないものであった。
「名雪さん、このドアを―――ドアをすり抜けていきました」
「ドアをすり抜けたぁ?」
何の冗談だ?
俺は天野の目を見る。その目は嘘をついている目ではなかった。
試しにドアを拳で叩いてみる。もちろん、手はドアに跳ね返される。
「この向こうにいったのか?」
「はい。幽霊みたいに、すっと」
「そんな馬鹿な!」
ドアをべたべたと触ってみる。しかし、目の前のドアには何ら変わったところはない。
「何かの間違いじゃ―――」
そういいかけたとき、ドアの向こうから声が聴こえてきた。
「来ないでっ!お母さんっ!!」
「きゃぁっ!」
今のは真琴の叫び声。そして、そのあとの悲鳴は……。
急にドアが熱くなった。部屋の中の温度が上がったのだろう。
それを感じ取った俺は、無我夢中でドアを叩いた。
「やばいやばいやばいっ!」
くそっ!
北川はまだか!
はやくしないと名雪が!
このドアが!
ドアが邪魔なんだ!
こいつがなければ―――。
「なゆきぃぃぃぃぃっっっ!」
いきなり目の前が開けた。
吹き上がる炎とその中に横たわる二人の少女。
「名雪!」
「真琴!」
俺と天野がすぐに部屋に飛び込む。
部屋の中はかなりの高温になっていた。
「あつい……」
俺は無意識のうちにそう呟く。呟きながら、室内の温度が急激に下がっているのを感じた。
ドアが開いたからか?
一瞬そんなことを考える。しかし次の瞬間には、俺は名雪を助けること以外考えていなかった。
名雪を抱き上げ廊下に運び出し、そこに静かに寝かせる。それから真琴を救出すべく、再び部屋に飛び込んだ。
室内はもうだいぶ涼しくなっていた。火も下火になっている。
俺は真琴を抱き起こそうとしている天野を手伝って、真琴を廊下へと運び出した。
「相沢っ!」
今ごろになって北川がやってきた。北川は廊下に寝かされている名雪と真琴を見て、ほっと息をつく。
「北川、遅いぞ、おまえっ!」
俺は北川をどなりつける。
「すまん。慌てて鍵がどこあるのか思い出せなかったんだ」
北川がすまなそうに頭を下げ、それから顔をしかめた。おそらく自分を責めているのだろう。
「まぁ、過ぎたことは仕方がない。こうして名雪と真琴も無事だったことだし」
「本当にすまない」
北川が半ばうな垂れる。
「そう思ってるなら、今度はもっとましな火災対策をしておくんだな」
「ああ、わかってる」
そういって北川は、まだ少しくすぶっている部屋の中をのぞきこんだ。
ウ〜、ウ〜、ウ〜。
遠くからサイレンの音が聞えてきた。
どうやら俺が電話で呼んだ帝都消防が駆けつけてきたらしい。
「消防隊が来たけど、ほとんど火は消えてるんだよな」
俺は部屋の方を振りかえる。
「けど、名雪さんと真琴を病院に運んでもらわないと」
天野のその意見はもっともだと思った。
俺は、いまだに部屋をのぞきこんでる北川に声をかけた。
「北川、俺と天野は二人を病院へ連れて行く。だから、消防隊の対応は任せていいか?」
「なぁ、相沢――」
北川は部屋の中ではなく入り口を見つめていた。
「――この部屋のドア、どこいった?」
北川にいわれてはじめて、部屋のドアが綺麗さっぱり消えていることに気がついた。
* * *
気づいたら、どこかのベットの上にいた。
顔をあげると、祐一が「このねぼすけ。やっと起きたか」といって私の頭をくしゃっとなでた。
隣にもベットがあって、そこには真琴ちゃんが眠っていて、その傍らには美汐ちゃんが座っていた。
美汐ちゃんは、私の方を見て「ご無事で」といって微笑んだ。
どうやらここは、病院らしかった。
「あれ、私。どうしてここに―――そうだ!祐一、火事は!」
私がそういいかけたとき、お医者さんが一人部屋に入ってきた。
「ん、そっちの子は目が覚めたのか」
お医者さんが私を見ながらいう。
「はい。おかげさまで」
祐一がお医者さん―――その人は、通天閣とかかれたTシャツを着た女の人だった―――に頭を下げた。
「私は何もしてないよ。火事だといってたわりには火傷などは全くなかったし、それに救出後の処置が適切だったからな。彼女たちはほとんど無傷に近い。ただ疲れて眠ってるだけさ」
「それなんですがね、冷やした覚えなんて全くないんですよ」
「そうなのか?じゃぁ、なにか不思議な現象でもおこって二人の体が冷やされたんだろう。まぁ、世の中には不思議なことがたくさんあるってことだ」
「そんなもんですか?」
「そんなもんさ」
祐一の問いに、女医さんは笑って答えた。
「それで、そっちの子が目を覚ましたら退院できるが、どうする?一晩泊まっていってもいいぞ。格安にしといてやる」
「いや、帰ります」
「そうか。それじゃ、お大事にな」
女医さんは、一度私に微笑んでから部屋を後にした。
「あう……」
真琴ちゃんが小さくうなった。
「真琴、気がついたのですか?」
傍らに座っていた美汐ちゃんが、真琴ちゃんに声をかける。
「あれ、美汐……。ここは…………。そうだ、私。あのとき、怖くなって―――」
真琴ちゃんが体を起こす。
そして私たちの顔を見回したあと、ごめんなさいといって頭を下げた。
「どうしたんだ真琴。急に謝ったりして」
祐一が真琴ちゃんに尋ねる。
「あう……。火をつけたの、真琴なの……」
真琴ちゃんは消え入りそうな声でそういった。
「火をつけた?どういうことだ?」
「相沢さん―――」
祐一の疑問に美汐ちゃんが答える。
「真琴には、ちょっとした能力があるんです」
「能力?」
「はい。真琴、ちょっと相沢さんに見せてあげて」
「……うん」
真琴ちゃんは小さくうなずく。そして人差し指を顔の前にぴんっと立てた。
その指の先に一瞬、すうっと炎が揺らめく。
その様子を見て祐一がさも当たり前のようにいった。
「ふ〜ん、発火能力か……」
「あの、驚かないんですね」
「あ……、そうだな。なんでだろ?どうも真琴が火を起こせるのが至極当然な気がして……」
そういって祐一が頬をかく。
私も祐一と同じ感想を胸の中に抱いていた。
「ごめんなさい。あたしが今の力で火を……」
「うーん、けど、何か理由があったんだろ?」
祐一がなぐさめるように声をかける。
「……怖かったから」
「怖かった?」
「うん。あのとき歌が聞えてきて。どこからかお母さんの歌が聞えてきて」
お母さんの歌?
あれは確か、ユーリ・桜さんって人の歌―――。
「それでとても怖くなってきて、そしたら力が勝手に……」
「真琴。お母さんのことを思い出したのですか?」
「ううん。ただ、あの歌を聴いていたら、なんとなくお母さんって感じがしただけ」
「そうですか……」
その話はそれでお終いとなった。
「さてと、二人ともまぁ元気そうだから、そろそろ帰るか」
祐一がそういったのを合図にみんなが帰り支度を始める。そんな中で真琴ちゃんだけが一人浮かない顔をしていた。
「美汐……」
「どうしたのですか、真琴」
「あの、その……、あう……」
そういえば真琴ちゃんは、孤児院を飛び出してきたんだっけ。
「真琴。一緒に孤児院に帰りましょう」
「けど、美汐。あたしは、理由が……」
真琴ちゃんがしどろもどろになる。
そんな真琴ちゃんの様子を見ながら、美汐ちゃんが優しい声で語り出した。
「真琴。私も真琴と同じことを考えていたことがありました」
「え、美汐も?」
「真琴は、自分の存在理由を探すために、自分にしかできないことを探しているのですよね」
「うん……」
真琴ちゃんが小さくうなずく。
「私も、自分にしかできないことがないか、いろいろと考えたことがあるのです」
「そう―――なんだ。それで美汐は、できることがみつかったの?」
美汐ちゃんは、真琴ちゃんの問いには答えずに話を続けた。
「真琴、私は長い間考えました。料理しているときも、洗濯しているときも、夜眠る前も、夢の中でも考えました。そして考えて考えて考えて、あるとき急に気づいたのです」
「美汐、あたしだって考えたわ。きっと、美汐にも負けないぐらい」
「けど、答えは見つからないんですよね」
「う……ん」
「私も、そのことに気づくまで全く答えが見つかりませんでした。何故なら、私が考えた私ができそうなことは、みんな他の人もできることだったのですから」
「そう。そうなのよ。真琴ができることは、別にあたしじゃなくったっていいのよ。洗濯も、掃除も、料理も、買い物も、みんな他の子もできることだったのよ。ものによっては他の子の方があたしより上手にできたわ。あたしなんて、いてもいなくても変わらないのよ。だから私はあそこを飛び出したの。外の世界で一人で生きてみれば、きっと真琴にしかできないことが見つかると、そう思ったから」
「それで外の世界を経験して、北川さんの家へとたどり着いたのですね。そうやって真琴はいろいろ見たり考えたりした。けれどやはり、自分にしかできないことは見つからなかった……」
「そうなの。職安で応募していたことは、別にあたしじゃない誰かだってできること。それで、とりあえず潤の家でメイドをすることにしてみたんだけど、そこでの仕事もやっぱり真琴じゃなくたって……。だから、あたしはまた他のところへ探しに行かないといけないの。どこかにある、真琴にしかできないことを」
真琴ちゃんが少し興奮気味にまくし立てる。美汐ちゃんは、そんな真琴ちゃんの様子を静かに見つめ、少し間を開けてからゆっくりといった。
「真琴。このようなことを言うのは酷ですが―――おそらく、どこへいっても何も見つかりませんよ」
「そんなことないっ!真琴には真琴にしかできないことがっ!」
真琴ちゃんが大声をあげる。
その真琴ちゃんに向かって美汐ちゃんが、一言、「あります」といった。
「えっ!?」
美汐ちゃんの言葉を聴いた真琴ちゃんが、大きく目を見開く。
「真琴にしかできないことは、確かにあるのです。けど、今の真琴の探し方では見つかりません。そもそも、それは自分で探すようなものではないのです」
「美汐は―――美汐は、真琴にしかできないことを知ってるの?」
「はい。知ってます。私だけじゃありません。ここにいる相沢さんも、名雪さんも、知ってます。北川さんだって知ってます。それどころか、真琴、あなただって知ってるはずなのです。ただ、それに気づいていないだけ」
「あたしも知ってる?嘘よ。だって、あたしはそれがわからないから、探してる―――」
真琴ちゃんが全てをいいきる前に、美汐ちゃんが少し口調を変えて話し出した。
「真琴。もし私が突然いなくなったらどう思いますか?」
「え?いきなり何?」
ちょっとあっけにとられる真琴ちゃん。
「私が、ある日突然真琴の前から消えたらどう思いますか?」
「美汐が消えたら?」
真琴ちゃんが少し考える。
「……美汐がいなくなったら、私はとっても悲しむ」
真琴ちゃんは本当に悲しそうにそういった。
「では、そこへ誰かがやってきて、私の代わりだといったらどうしますか?」
「美汐の代わりが来たって、あたしは悲しいままだわ」
「その私の代わりは、私に似ていて、私と同じことができ、私と同じことを知っていて、私と同じように振舞うのです。それならどうですか?」
「それでも、悲しいままだと思う」
「それは何故ですか?」
「だって、どんなに美汐に似てたって、その人は美汐じゃないから。誰も美汐の代わりはできないから。美汐は美汐だから―――」
そこまでいってから、真琴ちゃんはあっと声をあげた。
「そうです。誰も私の代わりにはなれないのです。天野美汐という人間を演じることは、天野美汐という人間にしかできない。私でありえるのは私だけ。私が、私でいること。それが―――」
「自分にしかできないこと―――そう、なんだ」
真琴ちゃんが美汐ちゃんの言葉を噛みしめる。
「真琴だって同じです」
美汐ちゃんの言葉に、真琴ちゃんはゆっくりとうなずいた。
「真琴にしかできないことは、真琴が真琴でいること……。それなら、何のためにあたしは、沢渡真琴はここにいるの?」
「さっき真琴はいいました。私が消えてしまったら悲しいと。私だって同じです。もし、私の目の前から真琴がいなくなってしまったら、私は間違いなくそのことを悲しむでしょう。私だけではありません。ここにいる相沢さんや水瀬さん、孤児院のみんな。真琴を知るすべての人が悲しみます。何故ならそれは、真琴がみなさんにとってなくてはならない存在だからです」
「みんなにとって、なくてはならない存在……」
「生まれてきた理由、それは誰にもわかりません。そのようなものはないのかもしれません。しかし、一度生まれてきたら、その人は、その生まれ出た世界の全ての人のためになくてはならない存在になるのです。
何故なら世界は、一人では存在し得ないから。私だけでは駄目なのです。あなたという存在がいなければ、そこに世界は生まれないのです。あなたと私、私とあなた。その無限の組み合わせが合わさって、一つの世界が誕生するのです。そうやってできあがった世界は、たった一人が欠けても、それはもう世界足り得ないのです。
あなたのために私がいる、私のためにあなたがいる。一人はみなさんのために、みなさんは一人のために。
人は、もともとどこか欠けているのです。不完全なのです。一人では弱いんです。一人だけでは何もできないのです。ですから、お互いに補いながら、助け合いながら存在しているんです。誰が欠けても駄目なのです。私を存在させるために必要な誰かを存在させるために存在している―――その無限の連鎖こそが、人の世なのですから」
「あたしは―――あたしのためだけではなく、みんなのためにもここにいる」
「持ちつ持たれつ、ということですね」
人はお互いに補い合ながら生きている。
今美汐ちゃんはそういった。
そのこと、よくわかる。
私は他の女の子と話している祐一を見て、嫉妬して、祐一なしで自分一人でがんばってみようと思ってた。
けど、やっぱり最後には祐一に助けてもらった。
私にはやっぱり祐一が必要だったんだ。
ううん、祐一だけじゃない。もっとみんなの助けが必要なんだよ。
だって私は、一人だけでは何もできないから。
同じように祐一だって、多くの人の助けが必要なはず。
とくに祐一は、スウィート・シティのみんなを手助けする警察なんだもん。
だから、祐一がいろんな人とお話したり、沢山の友達がいたりするのは当然のことだよね。
人と人との繋がり。それが大事なんだ。
なのに私、一人でカリカリしてて……
なんか、バカみたいだね、私。
「たぶん今まであたしは――」
真琴ちゃんが、どこか遠くの方を見つめながらいった。
「――私が何をすればいいかがわからなかったんだわ。けど、今の美汐の話を訊いて、真琴が何をすべきなのかわかった気がする。今私がここにいるのは、今まで真琴が会ってきたみんなのおかげ。だから真琴は、お世話になったぶんをみんなに恩返ししていかなくちゃ」
「そうですね。けど真琴、恩返しなどという堅苦しい考え方はしなくてよいのです。真琴が真琴らしくいること、それだけでみなさんには十分に伝わりますから」
「それならあたしは、せめてみんなを悲しませないようにするわ。いつも元気に、みんなと幸せに暮らすの。そしてその中で、真琴は真琴らしい、お世話になったみんなに恥ずかしくないような、そんな生き方を探すわ」
その真琴ちゃんの言葉を聴いて、美汐ちゃんがにこっと笑った。
「なによ、美汐」
「私が至った答えも、真琴と同じものでしたので、思わず」
二人は顔を見合わせて、ふふっと笑った。
「祐一」
「なんだ?真琴」
「あたし、今日はいったん孤児院に帰るわ。黙って出てきちゃったから、きっと先生たちが心配してるもん。だから、心配をかけてすみませんって謝りにいくの」
「ああ、それがいい」
「それで、そのことを潤にいっておいてくれる?本当は潤のところに寄ってくべきだと思うんだけど、少しでもはやく孤児院に戻りたいから」
「そうだな。北川も火事のことでいろいろと忙しいだろうし。うん。それぐらいかまわんぞ。任せておけ」
「あ、けど仕事は続けるからね。できることには色々挑戦したいから。だから孤児院に戻って、みんなに真琴がこれからどうしたいのかを話したら、また戻ってくるから」
「そりゃぁ、北川も喜ぶだろ」
「それからね。祐一、名雪さん。いろいろありがとう」
「お二人方、本当にありがとうございました」
真琴ちゃんと美汐ちゃんは、私たちにペコリと頭をさげた。
「まるく収まったのかな?」
病院を出て二人と別れた後、祐一がいった。
「美汐ちゃんと真琴ちゃんのことはね。けど、別に私たちは何もしてない気がする。ただ二人の話を聴いてただけ……」
「うーん。けど、その話を聴いてもらうってことが重要だったのかも。聴いてもらって楽になるってこと、結構あるじゃん」
「そういわれれば、そうだね」
「どっちにしろ、解決には違いないよな」
祐一が踊るように2、3歩前に出た。
「うーん。これで少し羽が伸ばせるぞ―――」
うーと伸びをする祐一。けど祐一は、そのままの姿勢でぴたっと固まっちゃった。
「どうしたの祐一?」
固まったままの祐一に尋ねる。
「そういえば、事件がもう一つ残ってた……」
「事件?」
「怪盗貴族」
「ああ、そういえば」
祐一は怪盗貴族さんのせいでここのところ休みがなかったんだっけ。
「そういやあ、北川に推薦状を頼んでる途中だったんだよな」
「祐一も大変だよね。一つ解決しても、常に他の事件が待ってるから」
「ああ。けどな、自分ではじめた仕事だし。それにな、名雪。聴いて驚け―――」
「だおうっ!」
「まだ何もいってない」
「うにゅ〜」
「まぁ、いいや。とにかく驚けっ!」
「な〜に?」
「なんとな。後輩ができたんだ」
「後輩って、警察の?」
「そうだ。警察官、三人になったんだ」
「ほんと?わぁ、警察官増えたんだ。じゃぁ、祐一も今まで程忙しくなくなるんだね」
「そうなるな」
「ねぇ、ねぇ。後輩ってどんな人?」
「川澄舞って女の子で、背は結構高くて―――」
祐一と一緒に夏の日差しの中を歩く。
祐一に対して持ってた苛立ちは、いつのまにか私の中から綺麗さっぱりと消えていた。
* * *
この街は、常に甘い薫りで覆われている。
至る所から甘い蒸気を噴き出し、
街の全貌を、深い薫りの中に隠している。
その甘い薫りに紛れて、数多くの怪人、怪盗が現れ、人々の平和を脅かしている。
だが、
その薫りに覆われた街を愛する者達もここにいる。
正義に燃える警察と真実を求める探偵は、人々の心の煙を取り払おうと戦う。
祐一と名雪は、今日も闇と戦う。
このスウィート・シティを守る為に。
このスウィート・シティに住む人々に笑顔をもたらす為に。
「私がここにいる理由」(完)
矢蘇部「私がここにいる理由、完結〜」
あかり「読んでくださったみなさん、ありがとうございます」
矢蘇部「今回は、死んだ。本当に死んだ。地獄が見えた」
あかり「いつもそんなこと言ってるじゃない」
矢蘇部「今回は特別なんだ。趣向を変えたのが悪かった。
怪盗出さないでいこうと思ったんだが……。死んだ」
あかり「確かに、今回はあんまり探偵っぽくないよね」
矢蘇部「それが狙いだったんだが……。
こんなに苦労するとは思わなかった。
特に美汐!彼女は手強い!」
あかり「そういわれれば、このSS。珍しく美汐ちゃんが饒舌よね」
矢蘇部「泣きそうになりながら書いてたよ。どうも上手く書けなくてさ。
頭で考えたことを上手く書き表せないのがこんなに辛いとは思わなんだ」
あかり「けど、それって。あんたの表現力がないからっしょ」
矢蘇部「げふっ……。人が気にしていることを……」
あかり「ちったぁ努力してSSの執筆力を高めなさいよ」
矢蘇部「……検討はする」
矢蘇部「最後に一言。
本文中で美汐がいろいろ言ってますが、
あれはあくまでこのSSでの美汐の見解であって、矢蘇部の見解じゃあないです。
矢蘇部はもっと違う事を思ってます。
なので、『てめーの言ってる事は間違ってるっ!』とかいわれても困るんで。あしからず」
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