気付いたら、ここにいた。

ここはどこだろうか?

薄暗い部屋。

広いのか狭いのか良くわからない。

目の前には秋子さんがいる。

祐一は、とりあえず秋子さんに話し掛けた。

「秋子さん・・・」

「なんですか祐一さん」

「あの、ここはどこですか?」

「ここは、水瀬城です」

「水瀬城?」

「水瀬家に代々伝わる秘密基地です」

「なんでオレは縛られてるのですか?」

「それは、祐一さんが景品だからです」

「景品って・・・」

「景品です」

秋子さんが手元のコントローラーのボタンを押した。

すると部屋の天井から大きなディスプレイが降りてきた。

それは空中で静止したあと、画面に映像を映し始める。

そこは、どこか屋外の光景であった。

グランドのような所に、たくさんの人々がいる。

不思議なことに、集まっている人々は、全て女の子だった。

よく見ると、知った顔も混じっている。

「なんなんですか?これは・・・」

「これからゲームがはじまるのです」

「ゲーム?」

「はい。ルールは簡単。一番初めにこの水瀬城の天守閣に辿り着いた人が優勝です。優勝者には、一日祐一さんを自由にできる権利が与えられます」

「こんなもん、誰が考えたんですか?」

「私です」

「どうして、こんなことを?」

「退屈だったからです」

「オレの人権は・・・」

「了承(1秒)」




風雲水瀬城!!(前編)




グランドに集まった女の子達は、みな燃えていた。

これから始まるゲームで優勝をすれば、あの相沢祐一の一日自由独占権が与えられるからである。

祐一自信は気付いてないのだが、実は女の子の間ではかなり人気がある。

祐一の通う学校の生徒は、そのほとんどが今回のゲームに参加していた。

さらに、噂は噂を呼び、他校の女子高生まで参加する始末である。

そして、カノンのヒロインである彼女達ももちろん参加していた。

「祐一は私のものだお〜」

「あうー。一番は真琴だもん」

「いざとなったら力を使ってでも」

「祐一さんと二人っきりになれたら・・・・うふふふふ」

「今日こそ、食い逃げで鍛えた足を見せてあげるよ」

サブヒロインの皆様も参加をしている。

「相沢さんと二人っきり。こんな酷なことは・・・って全然酷じゃないですね」

「あははー、佐祐理は結構運動得意なんですよ」

「栞。相沢君は渡さないわ」

皆がそれぞれ心に闘志を燃やしていたその時、

スピーカーから秋子さんの声が流れ始めた。



『みなさん、おはようございます』

途端にグラウンドが静かになる。

『それでは、これより第一回祐一さん争奪競争を始めます。ルールは特にありません。一番で水瀬城の天守閣に来た人が優勝です。ただ、卑劣なマネをした人は、永久に軽蔑されるでしょう』

「能書きはいいー!」

「早く始めてよー!」

一部の女の子が騒ぎ始めた。

『あらあら、人の話も静かに聞けないんですか?』

突然、騒いでいた女の子達の足元に穴が開いた。

「え?」

驚く暇もなく、奈落に落ちてゆく女の子達。

『人の話を聞くのはケジメですよ。わかりましたか?わかったら拍手をして下さい』

会場中で拍手がはじまる。

「あの子達、かわいそうに・・・」

「ライバルが減ったと思えばいいんです」

「10t爆弾でも投げればいいんだお」

『それでは、そろそろ始めます。全員、スタートラインに並んで下さい』

その言葉に従って、女の子達が移動する。

『水瀬城は、そのスタートラインから真っ直ぐです。それでは、位置に着いて、用意・・・』

皆々に緊張が走る。

『了承!』

スタートの合図と共に、女の子達は一斉に走り始めた。





ドドドドドッ

始めの直線をトップで駆け抜けてくるのは名雪である。

「だおだお〜!!」

さすが陸上部だけあって、その足は速い。

そのすぐ後ろを舞、佐祐理さん、あゆが追いかける。

「負けない」

「あははー」

「食い逃げで鍛えたボクの足に不可能はないよ」

先頭集団の姿は、あたかも12宮を駆け抜けるスペ○ターの様であった。

その後に、他のヒロインや生徒が続いて行く。

しばらく走り続けていると、目の前に急な斜面が見えてきた。

どこからか秋子さんの声が聞こえてくる。

『第一の関門は、その坂です。すべりますから気をつけて下さいね』

「こんなもの余裕だお〜」

トップ集団の4人は難なく駆け抜けてゆく。

だが、他の女の子達には、この坂は非常に急だった。

「きゃ!」

「いやー!」

「落ちる・・・!」

「ちょっと、みさき、いきなり掴まないで・・・・きゃぁぁぁぁ!」

何人かが滑り落ちてゆく。

坂の頂上付近。

そこに、真琴と美汐がいた。

「美汐、あと少しよ」

先に登りきった真琴が美汐に声をかける。

「わかってます・・・きゃっ」

後、数歩で坂の頂上と言うところで、美汐が足を滑らせる。

「美汐!」

真琴が素早く手を伸ばし、美汐の腕をつかんだ。

そして、頂上まで引き上げる。

「真琴・・・なんで助けたのですか?ライバルが一人減るところだったのですよ」

「美汐!人生はライバルがいてこそ張り合いがあるってマンガに書いてあったわ。だから、最後の最後まで一緒に頑張ろうよ」

「真琴・・・」

美しい女の友情であった。

ところ変って、こちらは美坂シスターズ。

「私、病弱ですから・・・」

「頭を使うことなら負けないのに・・・」

栞と香里は、頂上まであと1mと言う所で止まっていた。

栞の方が1,2歩前に位置しているが、そこから進めないでいる。

「こうなったら、最後の手段!」

香里は後ろから栞を掴んだ。

「お、お姉ちゃん?」

「さよなら、栞・・・・てぇぇい!」

香里が栞を坂の下に向かって放り投げた。

そして、その反動を使って一気に坂を登りきる。

「お姉ちゃんの薄情ものぉぉぉぉぉぉぉ!!」

落ちてゆく栞を見て、香里が一言。

「私に妹はいないわ・・・」

美しい姉妹愛であった。



栞、脱落。

 「そんなこと言う人嫌いです」





坂を登って少し進むと、そこには池が広がっていた。

ところどころに岩が水面から顔を覗かせている。

『ここが、第二関門です』

どこからか、秋子さんの声が聞こえてきた。

『岩の上をうまく飛びながら、対岸に渡って下さい』

「こんなの余裕だおー!!」

一番にたどり着いた名雪が、岩の上をどんどん飛んでゆく。

その後を、舞や佐祐理やあゆ、その他大勢の女の子達が渡ってゆく。

だが、その途中で

「きゃあぁ!」

じゃぼーん!

「うわわっ!」

どぼーん!

ところどころで池に落ちる連中が出てきた。

『落ちた人は、失格です』

「これしきで落ちるなんて、みなさん以外に運動オンチですね」

後ろの様子を少し気にしながら順調に進んでゆく佐祐理。

だが、いきなり足元の岩が、着地した瞬間に沈んだ。

「はぇー!」

どぼっーん

「佐祐理!」

舞が岩の上に止まって佐祐理の方を振り返る。

佐祐理は、池に浸かって呆然としていた。

『言い忘れましたけど、岩の中には発泡スチロールのダミーも混ざっています。気をつけて下さいね』

「はえー、もっと早く言って欲しかったです」

「佐祐理!」

「舞。どうやら佐祐理はここまでのようです。今回は、祐一さんは舞に譲ります」

「そんな・・・」

「ほら、舞。早く行かないと水瀬さん達においていかれますよ」

「私はいつも佐祐理と一緒・・・」

「佐祐理はここでリタイアですけど、その心は舞と共にありますから・・・」

「・・・わかった。佐祐理の分も、私が頑張る」

「舞。その意気ですよ」

舞は、差祐理に背を向け、再び岩を飛び始めた。

その瞳には微かに涙が光っていた。



佐祐理、脱落

 「佐祐理と舞の友情は永遠です」





池を越えたその先には、小さな小屋が佇んでいた。

「これは、何だろう?」

一番に着いた名雪とあゆが小首を傾げる。

すると、また、どこからか秋子さんの声が聞こえてきた。

『ここが第三関門です。到着した順に、小屋に入ってください。定員は、5人までです』

「中に入るみたいだね」

「とりあえず入ってみようよ」

小屋の中には、10枚ほどの座布団がうずたかく詰まれていた。

そのサブトンの塔が5箇所、丸く円を描くように積んである。

そして、何故か一緒に白髪のカツラが置いてあった。

『中に入ったら、そのカツラを被ってザブトンの上に座って下さい』

言われるままに、カツラを被る名雪とあゆ。

「わ、あゆちゃん。おばあさんみたいだよ」

「名雪さんだって」

そこに、舞やその他2人の女の子達が入ってきた。

『みなさん、そのカツラを被って、ザブトンの上に座って下さい』

言われるままにする舞とその他2人。

「その他2人じゃないわよ。私の名前は七瀬よ!」

「私は長森だよもん!」

全員が、ザブトンの上に座り終わった。

時計回りに、名雪、あゆ、七瀬、舞、長森の順である。

『それでは、いきます。一分間その上に座っていられれば、次に進めます』

秋子さんの言葉が終わると同時に、小屋が揺れだした。

「わっ!」

「なによ!これ」

深度5級の揺れが、座布団の上に座る乙女の身に降りかかる。

「きゃぁ!」

「うぐぅ!」

とどろく少女達の叫び声。

「バランス・・・」

そんな中、舞は座布団が倒れないようにうまくバランスを調整できていた。

しかし、他の4人はそうもいかない。

「うぐぅ!」

ついにあゆのバランスがくずれた。

がし!

「わっ!何するのよ!」

倒れそうになるのを、隣の七瀬に抱きついて何とか耐える。

「離しなさいよ!私まで倒れるじゃない!」

「うぐぅ!」

しかし、あゆは手を離さない。

見ると、名雪も同じように長森に抱きついていた。

「離すだよもん!」

「離さないんだお!」

グラグラグラ

『あと、15秒です。14、13・・・』

「うぐぅ!このままじゃ、倒れちゃう!」

「あんたが手を離せばいいのよ!」

「あゆちゃん」

「何?名雪さん」

「ここは協力して行くんだお!」

「わかったよ」

あゆは、七瀬を思いっきり突き飛ばした。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

名雪も長森を突き飛ばす。

「だよもぉぉぉぉん!」

その反動で、お互いに反対側に飛ぶ。

つまり、名雪はあゆの方へ、あゆは名雪の方へと。

「あゆちゃん!」

「名雪さん!」

「芸能人は!」

「歯が命!」

がしぃ!

お互いに抱き合う。

さっきのようにとりあえず抱きついたのではなく、安定が良くなるよう計算して抱き合ったので、今度はうまくバランスを取る事ができた。

「あと、5秒だお!!!」

『4、3、2、1、終了。3人勝ち抜きです』

「やったよ。名雪さん!」

「ちょっとあんた達、卑怯よ!」

抗議をあげる七瀬。

「『おね』のキャラがでしゃばるからだお」

「だよもーん・・・」





第三関門の最終組み合わせは、真琴、天野、香里、他二名だった。

「みゅ〜」

『澪なの』

なんか言ってるけど無視しておこう。

部屋に秋子さんのアナウンスが流れた。

『それでは、はじめます』

秋子さんの言葉が終わると同時に、部屋が揺れ始める。

「みゅ〜!!」

『地震なの〜!!』

即行で落ちる2人。

ま、ゲストだし。

「これくらいの揺れで落ちるなんて、最近の人は柔なのですね」

「まったくだわ」

余裕をかましている、美汐と香里。

さすがは、おばさんコンビ。

ザブトンの上なら無敵である。

一方・・・

「あうー!!」

落ちそうになるのを必死でザブトンに抱きつく真琴。

「真琴、だから普段から正座をしなさいとあれほど・・・」

「そんなこと言ったって、あうー!!」

ついに、真琴のザブトンが崩れた。

慌てて美汐が手を伸ばす。

がし!

美汐が真琴をなんとか片手で支えた。

思わず『ファイトー』『一発っ!!』と叫びたくなるよなシーンである。

「美汐、手を離して。そうしないと美汐まで落ちゃう!」

「私はさっき真琴に助けられました。だから、今度は私が真琴を助ける番です。この手は絶対に離しませんよ!」

「美汐・・・」

真琴が美汐の顔を熱い視線で見つめる。

「ところで美汐」

「何?真琴」

「そのカツラ似あうね。本当のおばあさんみたいよ」

ぱっ

美汐が手を離した。(条件反射)

「わっ!」

ぼてっ

「あうー!」

真琴は、床に落ちた。

「はっ!真琴!いったいどうして!」

「どうしたも何も、天野さんが手を離したんじゃない・・・」

一応香里がツッコミをいれる。

「私に限ってそんなこと。まさか、真琴。私を先に行かせる為に、わざと。わかりました。私は絶対に優勝をして相沢さんを物にしてみせます」

美汐の表情は、どこか恍惚としていた。



真琴、脱落

 「香里さんも似合ってたかも・・・」



   *   *   *



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引き続き、「風雲水瀬城」をお楽しみ下さい。



(次週に続く)




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