タイヤキのエチュード(前編)





シャッ

勢いよくカーテンをあける。

窓の外には、まだ薄暗い町並み。

う〜ん、気持ちのいい朝だ。

時計の見ると、その単針は数字の6を指していた。

「少し早く起きすぎたか?」

しかし、目が覚めてしまったので仕方がない。

昨日の夜は、なかなか寝付けなかったので、睡眠時間が絶対的に足りないはずだが、すごく元気なオレ。

「ふんふんふ〜ん」

自然に鼻歌が出る。

心の中では、スキップを踊っている。

実は今日は、あゆが遊びに来るのである。





それは、この前のデートのとき、

「秋子さんって、料理がすごく上手だよね」

「ああ、見た目も味もバッチグーだ」

「タイヤキも作れるんだよね」

「今さらなんだ。いつも食べてるじゃないか」

「ボクにも作れるかなぁ」

「あゆには、どんな食材も石炭に変えてしまう特技があるじゃないか」

「うぐぅ、特技じゃないもん!」

あれを特技と呼ばずに、何を特技と呼べばいい。

枯渇しつつある資源を増やす事ができるなんて、とっても地球に優しいと思うのだが。

「タイヤキ・・・」

「そんなに作りたいなら、秋子さんに教えてもらえばいい」

「けど、ボク、もの覚えが悪いよ」

「好きこそものの上手なれっていうだろ。努力すればできるようになるさ」

「うん、そうだね。ボク頑張るよ」

下手の横好きって言葉もあるけどな。

「うぐぅ!聞こえてるよ!」

「それで、いつにするんだ?」

「祐一君、ごまかさないで!」

「今度の日曜日なんてどうだ?」

「いつもボクの話は聞かないんだから。」

あゆは諦めたような顔をして、ため息をつく。

「ボクは日曜日でいいよ。けど、秋子さんの都合はいいの?」

「それなら、たぶん大丈夫だ」



「了承」





そんなわけで、正しくは、「あゆが料理を習いにくる」なのだが、どっちにしろ家に来るのには代わりはない。

「はやく来ないかな」

そう思って、もう一度時計を見たが、まだ6時7分だ。

「あと一時間ぐらいは寝るか」

そう思って、フトンに入りなおしたが、寝れない。

名雪だったら3秒で眠るだろうに。

そうだ。こんな時は、羊を数えるんだ。

羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が・・・・・・



・・・羊が八千とんで二十三匹、羊が八千トンでキロ24ドル・・・

「がぁ!」

寝れないじゃないか!

誰だ!こんなこと考えたヤツ!

時計を見ると6時51分。

暇つぶしにはなったみたいだな。

「起きるか」

ベットから飛び起き、服を着替えて部屋を出る。

すぐに名雪の部屋が目に付く。

いつもなら、名雪を起こしに行くのだが、今日は日曜日である。

「寝かせてやろう」

オレは名雪の部屋を素通りし、階段を下りた。





朝食を食べ終わったオレは、部屋で時間をもて余していた。

食事中は、秋子さんに

「祐一さん、楽しみですね」とか、

「人の為に作る料理はおいしいんですよ」とか、

「祐一さん、お皿っておいしいんですか?」とか

「はやく来るといいですね」とか言われ続けた。

自分がウキウキしているのが自分でもわかる。

この、待たされてる時間がなんとも言えずにじれったい。

「もしかして、最初にオレの部屋にくるのかな」

そう思ってから、部屋を見渡すと妙に散らかって見えてくる。

「よし、今のうちに掃除しよう。」

オレは気合をいれて掃除をはじめた。



「うーん、このエロ本はどこに隠そう」

ベットの裏はすでに満員だし、かといって他に隠すところは見当たらないし。

「名雪に頼むわけにもいかないからなあ」

だいたい、こんな日の前に貸してくれる北川が悪い。

借りてるオレも同罪だとゆう噂もあるが、そんなことはない。

悪いのは全部、北川である。

仕方がないので、学校に持ってゆくカバンの中身を取り出し、代わりにエロ本を突っ込んでおいた。

「よし。これでカンペキ!」

ピンポーン

綺麗になった部屋を満足に眺めているときに、玄関のチャイムがなった。

「来た!!」

オレは奥歯の加速装置を噛み締め、残像を残す勢いで玄関に向かった。





「こんにちは」

「こんにちは、あゆちゃん」

「おう、よく来たな、あゆ」

一通りの挨拶を終え、リビングに荷物を置いた後、3人はキッチンに向かった。

「さあ、始めましょうか」

微笑む秋子さん。

「オレも何か、手伝いましょうか?」

「ダメだよ、祐一君。今日の祐一君は待つ人」

「そうですね。祐一さんは少しの間、待っていて下さい」

そういいながら、秋子さんがタイヤキ用の鉄板を用意する。

ホントに何でもあるな、この家は。

「そうだ。今日、家で作ってみたのがあるんだ。祐一君、それを食べながら待っててよ」

そう言って、あゆが紙袋を差し出した。

「あゆ、楽しみにしてるぞ」

オレは紙袋を受け取り、とりあえず自分の部屋に戻った。





「これは、タイヤキなのか?」

今、オレの目の前には、砲丸のようなものが二つほど転がっている。

袋の中には、他に何も入っていなかった。

「何をどうすれば、こういうものを生産できるのだろうか?」

オレの素朴な疑問に答えられる人はいないだろう。

試しに突いてみる。

キン、キン、キン!

かつての碁石クッキーを上回る物体。

ある意味、腕はあがっているのではないだろうか?

しかし、せっかくあゆが作ってきてくれたものである。

「男として、これ以上の喜びはない!」

オレは全身全霊を込めて、砲丸に噛み付いた。

ガガキーン!

「は、歯がひたひ・・・・」





「祐一君、第一号ができあがったよ」

そう言いながら、あゆが部屋に入ってくる。

第一号ってなんだ?

「今ちょうど12時だから、お昼として食べてね」

そういって、あゆがタイヤキを5匹ほど差し出す。

そのタイヤキは、鯛の形をしていたが、色はモノクロであった。

それでもついさっき、やっと砲丸を完食したばかりのオレには、とてもマトモもな食べ物に見えた。

「いただきます」

そういって、1匹目にかぶりつく。

そこで、オレは固まってしまった。

「おいしい?」

あゆがオレの顔を覗き込みながら聞いてくる。

「さっきの砲丸を味が変わらない・・・」

思わず本音がでる。

「うぐぅ、ボクもそう思うよ」

何じゃそりゃ?

「ボクはひと口すら食べれなかったよ」

自分でそう思うものを人に食べさせて、「おいしい?」とか聞くか?

「やっぱり、一人で作るとうまくいかないんだよね」

をい、待て。

「今日は料理を習いに来たんじゃなかったのか?」

「秋子さんが『あゆちゃんが、どれくらい料理ができるのかを見たいから、まずは一人で作ってみて』って言ったから」

なるほど、どうりで味が変わらんわけだ。

「うぐぅ、これどうしよう」

あゆが困った顔をする。

「捨ててくるね」

タイヤキを持って行こうとするあゆをオレは止めた。 「例え、それがどんな物体だろうとあゆが作ってくれたものだ。オレは食べるぞ」

「祐一君・・・」

あゆの顔がほんのり赤く染まる。

「失礼だけど、嬉しいよ。待っててね!今度はおいしいのを作って来るから!」

そう言いながら、あゆは部屋を飛び出し階段を駆け下りて行った。

「期待してるぞ」

オレは二口目を口にする。

「・・・ちょっと、はやまったかも・・・・」





後編に続く






初SS。
にもかかわらず、続きものになってしまった。
果たして、ちゃんと終わる事ができるのだろうか?




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