カノンR.P.G
プロローグ「銀色の朝」





『朝だよ〜、朝ご飯食べて学校行くよ〜』

いつもの目覚ましで、いつものように目覚める。

シャッ

カーテンを開けて、大きくあくびをする。

「今日もいい天気だ」

こんな日は、ゆっくりと歩いて学校に行きたい。

だからオレは少し早めに名雪を起こすことにした。



「名雪ー、朝だー、起きろー」

ドンドンと扉を乱打したが、もちろん反応はない。

「名雪、入るぞ」

一応、断りを入れてから部屋に入る。

「名雪、朝だ!!」

叫びながら名雪をシェイクする。

「・・・北の洞窟にはダイコンがあるんだお・・・」

意味不明のセリフをはきながらも、眠り続ける名雪。

「うーん、今日は手強いなぁ」

そういえば、昨日は珍しく遅くまでゲームをやっていたっけ。

オレが家庭用ゲーム機を買って来てからというもの、水瀬家の住人はみなゲームにはまってしまったのだ。

秋子さんはパズルゲームに。

居候の真琴は格闘アクションゲームに。

オレは戦略シュミレーションに。

そしてパズルもアクションも戦略も苦手な名雪はRPGに見事にはまった。

昨日、オレが寝ようとした時も

『もう少しでクリアなんだお』とかいいながら続けてたっけ。

しかーし!

ゲームで徹夜ぐらい学生ならば当たり前。

そんなことで朝起きないなど、天や天野が許してもオレが許さん!

オレは息を大きく吸い込んで、おもいっきり叫んだ。

「起きなさい!名雪!今日はお城に行く日でしょ!」

「・・・今日は16歳の誕生日じゃないよぉ・・」

お、反応した。

「返事がない。ただの屍のようだ」

「・・・屍じゃないよぉぉぉ」

そう言いながら名雪がのそのそと起きだした。

徹夜でゲームをしたせいか、目がほんのりと赤い。

寝ぼけた顔でふとんからはいずり出るその姿は、さながらリビングデットだ。

「う〜、私、ゾンビじゃないもん」

名雪が抗議の声をあげる。どうやら口に出していたらしい。

この癖はなんとかならんものなのか。

「先に食卓で待ってるから、早く着替えて降りて来い」

とりあえず、名雪にそう言い残して、オレは部屋を後にした。



「祐一さん、たまには甘くないジャムなどは、いかがですか?」

「遠慮します。」

秋子さんの危険な申し出を丁重に断りつつ、オレは優雅な朝の一時を満喫していた。

ちなみに、真琴は既に保育園へ手伝いに行っている。

そんなに朝早くから行く必要はないのだが、どうやら真琴は一番に保育園に着きたいらしい。やはり、真琴はお子様である。

「どうやら今日は走らなくてもすみそうだ。」

コーヒーを飲みながらそんなことを考えていると、

ドダダダダダダダッ

人の淡い期待をぶち壊す音をたてながら、名雪が二階から落ちて、もとい、降りて来た。

「お母さん!私の制服は!」

朝っぱらからうるさいヤツである。

「制服〜!」

「またクリーニングにでもだしたんじゃないのか?それより早くメシを食え」

そう言いながら名雪の方を振り返る。

「!?」

オレは一瞬、自分の目を疑った。

なんと、名雪がゲームのキャラようなコスプレをしているじゃないか!



「名雪、今日は4月1日ではないぞ。」

オレは、かろうじてそう言った。

「うん、それにハロウィンでもないよね。」

素で返す名雪。

「然るに、その格好は・・・」

「だから、制服がないんだよ」

「お前は制服がないとコスプレをするのか?」

「制服だけじゃなくて、他の服も全部ないんだよ」

「だいたい何なんだ、その格好は?」

「勇者の基本スタイルですよ。」

唐突に秋子さんが答えた。

「えっ?」

「お母さん?」

オレは名雪と顔を見合わせる。

「名雪、今まで黙っていましたけれど、あなたは実は勇者なのです。」

いきなり語り始める秋子さん。

「今日未明、伝説の魔王が復活しました。」

は?魔王?

「魔王を倒すことができるのは、勇者である名雪、あなただけなのです。」

え?秋子さん、バグって・・・?

「つらい旅になるでしょう。けど、それは世界中の人の為。さぁ、行くのです。名雪。」

いつもと同じポーズで語り続ける秋子さん。目はマジだ。

「ねぇ、祐一・・・」

小声で名雪が語りかけてくる。

「お母さん、どうしちゃったんだろ・・・」

「今日はエイプリール・フールじゃないよなぁ」

「まさか謎ジャムの食べすぎで・・・」

それは大いにありえる。

「そうそう。旅立つあなた達に回復アイテムをさしあげましょう。」

あなた達って、オレも含まれてるのか!?

秋子さんはキッチンの奥に入り、そしてオレンジ色のジャムの入ったビンを持ち出してきた。

「名雪!」

「祐一!」

オレ達にそれ以上の言葉はいらない。

オレと名雪は、文字どおり脱兎のごとく、家の外に飛び出した。

「あらあら、せっかちなこと」



こうしてオレと名雪の冒険が始まった・・・のか?



次回、「灰色の城」に続く


突発的に書き始めた連載SS。
  果たして何人の人がこれを読んでくれるのだろうか?
  誰も読んでくれなくても、とりあえずは書き続けよう。

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