カノンR.P.G.
第一幕「灰色の城」
麗らかな天気の中、オレと名雪は学校に向けて歩いていた。
今日は時間に余裕があるので走る必要もない。
風もなく、日差しはとても暖かい。
しかし、オレと名雪の心の中は深く沈んでいた。
「どうしちゃったんだろ、お母さん」
名雪がため息をつく。
「そういえば、結局コスプレのまま出て来たんだな」
そういいながら名雪のほうを見る。
朝のドタバタの中、着替えてくる余裕がなかったのだ。
「あんまり見ないでよ。恥ずかしいんだから」
あまり恥ずかしくなさそうな声で言う名雪。
もしかして結構気に入ってないか?
「一緒に歩いてるオレだって恥ずかしい」
名雪は肩当の着いた鎧のようなものを着込み、長いブーツを履き、マントを羽織り、おまけに腰には、ロングソードっぽいものまでぶら下がっている。
「祐一だって恥ずかしい格好してるよ」
「制服のどこが恥ずかしい格好なんだ?」
そう言いながら自分の服装を見てみる
「うおっ!」
なんと、オレは全身真っ黒な服を着ていた。
「いつの間に!」
「私が食卓で見たときからずっとだよ」
「何!?」
おかしい。確かに制服に着替えたはず。
それどころか、オレはこんな服は持っていない。
そうか、これは夢だ!夢に違いない!
オレは試しにホッペを引っ張ってみた。
「いひゃい、にゃにしゅんの、ひゅ〜いちぃい〜」
名雪が涙声をあげる。
う〜ん、痛がっている。どうやら夢ではないらしい。
「う〜、普通は自分のホッペを引っ張るんだお〜」
「自分のを引っ張ったら痛いじゃないか」
「それはそうだけど・・・」
神妙な顔で頷く名雪。
やはり、どこかずれている。
「わかった。後でいちごサンデーおごってやるから」
「いちごのワッフルも」
「はいはい」
お約束の会話をしながら、オレ達は学校に到着した。
「ここ学校だったよな」
「うん、昨日までは・・・」
オレ達は学校に到着した。
いや、昨日まで学校だった場所に到着した。
学校があった場所には、灰色の城が佇んでいる。
校舎以外の場所、校庭や校門はそのままなので、城だけが妙に浮いる。
そして、校庭には、戦士の格好や魔導師の格好をした生徒達がたくさん集まっていた。
「なぁ、名雪。この街は年に一度コスプレをやる風習でもあるのか?」
「そんな風習ないよ〜」
「じゃぁ、これは何だ?」
「そんなの私にもわかんないよ〜」
周りの連中はそれぞれに会話をしている。
なんか「魔王」とか「伝説の武具」とか「究極の魔法」とか聞こえるし。
しばらく名雪と二人、ぼーっと突っ立っていると、不意に周囲のざわつきが消えた。
どうやら、城の方から誰かが出てきたようだ。
その人物は、校庭の前にある壇の上に立ち、演説を始めた。
「諸君、よく集まってくれた」
生徒達がその人物に注目する。
「我々は、諸君の勇気に感謝する」
大きな手振りで演説するその男にオレは見覚えがあった。
「なぁ、名雪。アレって石橋じゃないか?」
そう。オレ達の担任の石橋である。
「うん。そうだね。先生も、こういう趣味があったのかなぁ?」
石橋は演説を続けている。
「・・・そう、だから我々は必ず、あの魔王北川を滅ぼさなければならないのだ!!」
「魔王北川〜?」
北川が魔王だと?
いや、それ以前に魔王ってなんだ?
たしかにアイツは、遅刻魔、サボリ魔、色魔だが。
ダメだ。朝から混乱しっぱなしでオレのノウミソも腐りそうだ。
ふと、となりを見れば、名雪は立ったまま眠っている。
そういえばコイツ、石橋の授業は100%寝てたからなぁ。
「戦地に赴く皆に、王女様から声援があるとのことだ。心して聞かれよ」
石橋が高らかに宣言し、周りの連中が「おおー!」とか叫び声をあげている。
ついに王女まで登場か。
まるで、RPGの世界だな・・・
城の中から、一人の騎士を伴った女の子が出てきた。
「あははー、みなさんがんばって下さいねー」
こ、この声は!
「佐祐理さんっ!?」
そう、王女として登場したその人は、佐由理さんだったのである。
「佐祐理さんが、王女!?これは、いったい・・・」
笑顔を振り撒きながら、佐祐理さんが壇上に立つ。
「とりあえず、いったいどうなってるのか、佐祐理さんに聞いてみよう」
オレは人込みをかき分け、王女、佐祐理さんのもとへ向かった。
第二幕「青色の回廊」に続く
エピローグより短い第一幕(笑)
次は、もうちょっと長くなる予定。
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