カノンR.P.G.
第二幕「青色の回廊」





「あははー」

みんなに笑顔を振りまく佐祐理さん。

「うおおー!!」

歓声をあげる鎧を着た男達。

「佐祐理さーん!」

そんな中をオレはかき分けて行く。

あと5メートル、4、3、2、すぐそこだ。

バッ

だがそこまできて、付き添いの騎士に止められてしまう。

「お願いだ!佐祐理さんと話をさせてくれ!」

しかし、騎士はどかない。

「祐一はどろぼうさんだから、みんなの前で佐祐理と話をするのはいけない。」

ん、この声。

「お前、舞か!」

騎士の格好をしているので一瞬わからなかったが、あらためて見ると確かに舞である。

「舞、これはいったい」

「私はもう行かなければならない。後で裏からお城に入って欲しい。石橋先生には話をしておくから。」

そう言うと舞と佐祐理さんは城の中に消えていった。

それにしても・・・

どろぼうさんってのは何だ?





佐祐理さんが城に入ってから、集まっていた人々はそれぞれに散っていった。

オレは立ったまま寝ている名雪を起こし、佐祐理さんと舞のことを説明した。

「川澄先輩と倉田先輩も変な格好をしてたんだ。」

「そうだ。」

「いったい、どうなってるんだろ?」

「それについては、仮説がある。」

オレには、佐祐理さんと舞を見たとき一つ思いついたことがある。

「これは、ドッキリじゃないか?」

「ドッキリ?」

「よくテレビなんかであるだろ。みんなでグルになって人を騙したりしてさ、最後になってから『実は全部やらせで〜す』とか言うヤツ」

佐祐理さんの家はお金持ちらしいから、これぐらいはできるかもしれない。

「でも、そうしたら町の人全部が協力しているの?」

「この街の人間はノリが良さそうだからなぁ」

「学校までわざわざお城に改築して?」

確かに、ここまでやるのはさすがに無理か?

「それに何の為に、こんなことをするの?」

そう、そこだ。

仮に皆がグルになってオレ達をからかっているとしても、その理由が全く見つからない。

「やっぱ、無理があるか」

自分でもそう思った。

「それで、祐一どうするの?」

「どうするって?」

「だから、先輩達に会いに行くの?」

ああ、そのことか。

「わざわざ、後で来てくれって言ったんだ。もしかしたら、何か知っていて話してくれるのかもしれない。」

「私もそう思うよ。とりあえず、学校・・・じゃなくお城の裏に行こう。」

オレと名雪は、正門の方に向かう人々とは逆の方向、学校の中庭が有った方に向かって歩き出した。





「さて、どこから入るのかな」

裏庭は、学校の代わりに城が建っていること以外はいつもと変らなかった。

「あそこじゃない」

名雪が指差したその先には、見覚えのある鉄の扉がある。

城壁の中、その部分だけがいつもの学校のそれと同じであった。

「とりあえず、行ってみるか」

丈夫な大きな扉。

いつもならここを開けば、校舎の中に入れる。

しかし、今は、いつもとは違う。

ドアノブに手を掛ける。

ゴクッ

思わず唾を飲み込む。

「開けるぞ」

「うん」

ギイイイイイィ

金属の擦れる嫌な音をたてながら、ゆっくりと扉が開いていった。





「・・・・・・」

城の中は、暗くて静かだった。

ほんのりと青い光がどこからか射している。

青みがかったどこまでも続いていそうな回廊。

等間隔に扉のようなものも見える。

「これって・・・」

名雪がボソッと呟く。

「これって、学校の廊下だよねぇ」

そう、城の中は普段の校舎と同じであったのだ。

「やっぱり、外側に張りぼての城を建てたのかなぁ」

そう思って、廊下の窓の外を見てみる。

「!?」

窓の外には、青い空間が広がっていた。

あわてて、入ってきた扉から外を見る。

目の前に広がるいつもの中庭。

「どうなっているんだ?」

このセリフも何回目だろうか。



「祐一・・・」

名雪がオレにしがみついてくる。

オマエ、勇者じゃなかったっけ?

「誰か来る・・・」

そう言いながら青い廊下の先を見つめる。

ガッチャ、ガチャッ

金属的な音が等間隔で近づいてくる。

オレは名雪を後ろにかばいつつ、音のする方に注意を払った。

青い廊下の先に、白い人影が浮かび上がった。

「舞・・・」

「よく来てくれた、祐一」

白銀の鎧に身を固めた舞が青い廊下の中にたたずんでいた。



「舞、ここはいったい・・・?」

「ここは学校」

「学校?」

「朝、私と佐祐理が登校した時は、ちゃんとした学校だった」

そこで一度、息を吐く。

「教室に着いたあと、いきなり校舎の中が暗くなって、目が慣れた時には、私はこの格好をしていた。」

「佐祐理さんは、王女の格好になっていた訳か。」

コクンッとうなずく舞。

「そういえば、佐祐理さんは?」

舞の表情が一瞬曇る。

「佐祐理は、さっき、行方不明になった。」

何?

「行方不明?」

「さっき校舎の中に戻って、そのあとすぐにいなくなった。」

「おい!何やってんだ、舞!すぐに探しに行かなくちゃ!」

慌てて走り出そうとしたオレの腕を舞がつかむ。

「何だよ!舞!」

思わず叫び声をあげる。

「今、友達に探しにいってもらっている。」

友達?

「私達が探すより、友達に探してもらった方がはやい」

友達ってのは誰だ?

「ただ、イヤな予感がする。」

オレの目を見つめる舞。

「祐一、手伝って欲しい」

「ああ」

もちろん、オレに断る理由などない。

「私も手伝うよ」

名雪もそう言って微笑んだ。



「それで、手伝うって何をするんだ?」

「もうすぐ友達が帰って来る。」

その時、何かがこちらに近づいてくる気配がした。

友達が帰って来たのか?

段々と近づいてくる気配。

しかし、それは人間のそれではなく、獣の気配!

「!?」

青い回廊に光る、赤い瞳。

廊下の先から無数の野犬が走ってくる。

「危ない!」

オレは両手を広げ、二人の前に立ちはだかる。

グワッ

一勢に飛び掛ってくる犬たち。

ドンッ

オレはなすすべもなく横に吹き飛ばされる。

一瞬、意識が飛ぶ。

「きゃっ」

「!!」

名雪と舞の声。

「しまった!」

オレは素早く立ち直り、名雪と舞の方を振り返った。

「名雪!舞!」

二人の名前を呼ぶ。

「くすぐったい」

「よしよし」

見ると、犬たちは名雪と舞にジャレついているでないか。

あっけに、とられるオレ。

「舞、もしかして友達って言うのは・・・」

「犬さん、友達」

そう言って、近くの犬の頭を撫でる舞。

「私、ねこさんが好きだけど、犬さんも好きだよ〜」

犬の耳をパフパフして遊ぶ名雪。

ほのぼのとした光景。

じゃぁ、何だ。オレは吹き飛ばされ損か!?

一通りの犬を撫で終わった後、舞は懐からドッグフードを取り出した。

トップブリーダー推薦の何とかと言うヤツだ。

「ミンナ、ありがとう」

犬たちに、ドッグフードを与える舞。

「私もあげたいな〜」

「じゃぁ、半分」

そういいながら名雪にドッグフードを渡す舞。

何かオレだけ疎外感が・・・

いいもーん。

離れた所でいじけていると名雪が声をかけて来た。

「祐一もドッグフード食べる?」





犬達がどこかに帰って行ったあと、オレは一応、舞に聞いてみる。

「それで、舞。何かわかったのか?」

人探しを犬に頼んで、何かわかることがあるだろうか?

「佐祐理の居場所がわかった。」

「何?オマエ、犬の言葉がわかるのか?」

ソロモン王の指輪でも持っているのか?

「友達の言う事がわからないはずがない。」

いや、友達かもしれないけど、種族が違うだろ。

しかし、舞なら本当に犬の言葉がわかるのかもしれない。

「そうだよ、祐一。私もネコさんの言葉がわかるもん」

それは、嘘だ。

「嘘じゃないもん」

プーっとふくれる名雪。かわいかったりする。

っと、今はこんなことはどうでもいい。

「で、佐祐理さんはどこにいるんだ?」

舞は廊下の奥の方を見つめた。

「佐祐理は、生徒会室に捕まっているらしい。」

舞は、コブシをギュッと握りしめた。



次回、「茶色の扉」に続く



次回は佐祐理さんをさらったヤツが明らかになる!?
え、大方、予測はついてるって?
それは、言わないお約束。


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