カノンR.P.G.
第十一幕「蛍光色の格闘」
「行くぞ!相沢!水瀬!他二名!」
斉藤が叫び声をあげる。
ばっ!!
斉藤は、両手を前に突き出した。
「竜王咆哮波動烈風拳!!」
斉藤の手のひらから、気のカタマリが放たれる。
その気弾は、オレの方へ向かって飛んで来た。
「ちぃっ!!」
オレはなんとかそれを寸前でかわす。
だが、かわした所へ斉藤が間合いを詰めてきた。
「喰らえ!相沢!飛燕旋風連脚!!」
斉藤が空中に浮遊しながら回し蹴りを繰り出す。
ドガガガガッ!!
オレはそれをマトモにくらって吹っ飛んだ。
「祐一!」
「あうー!!」
「相沢さん!」
名雪と真琴と天野が駆けつける。
「だ、大丈夫だ」
オレは何とか起き上がった。
「ちょっと、油断しただけさ」
立ち上がって、斉藤の方へ体を向ける。
「斉藤!よくもやってくれたな!」
オレは斉藤に向かって飛び蹴りを繰り出した。
それにあわせて、斉藤が態勢を低くする。
「対空必殺!!昇竜空破アッパーカットォォォォォ!!」
斉藤が全身のバネを伸ばしながら、アッパーカットを放つ。
バゴーン!!
見事に撃墜されるオレ。
しかし、素早く受身を取る。
きっと、斉藤はまた間合いを詰めてくるに違いない。
ならば、ここで一撃お見舞いしてやる。
オレは、起き上がりながら、斉藤に向かって水面蹴りを繰り出した。
案の定、間合いを詰めてきた斉藤が、オレの蹴りに気付いて立ち止まる。
だが、遅い!!
「あたれぇぇぇぇぇ!!」
ガガッ!!
斉藤は素早く身を屈め、オレの水面蹴りをガードした。
ガードした瞬間、斉藤の体が光り輝く。
「何だ!?」
何かヤバイ!!
「ガードキャンセル!!流星跳ね上げ脚!!」
ゴフッ!
斉藤の蹴りが見事にヒットし、オレは空中に跳ね上げられ無防備になる。
そこを斉藤は見逃さなかった。
「超必殺!!鳳凰乱舞爆裂拳!!」
どがががががががががががががががががががっ!!
光り輝く斉藤が残像を残しながらオレを滅多打ちにした。
「げふぅ!!」
オレは、さっきの場所、名雪と真琴と天野がいる所まで吹っ飛ばされた。
「祐一!」
「相沢さん!」
名雪と天野がオレを抱きかかえる。
大丈夫と手をあげて言おうとしたが、手が痛くて動かせなかった。
「相沢さん。今、回復させます」
天野がオレの上に手をかざした。
「き○たんの術!!」
天野の両手が光り輝く。
体の節々の痛みが嘘のように消えていった。
「すまん。天野」
「いえ・・・」
オレは再び立ち上がる。
「くそっ!斉藤のヤツめ・・・」
正直いって、こんなに強いとは思わなかった。
「ねぇ、祐一」
真琴がオレに声をかけてきた。
「なんだ、真琴」
「あの人の使ってる技って、全部格闘ゲームの技よ」
「ああ。そうだな」
さっきから、斉藤が使ってくる技は、今はやりの格闘ゲームの技ばかりであった。
「今いる夢の世界なら、想像力を働かせれば、それくらいはできるのかもしれない」
『今日は思ったことができる』
ふと、こんな言葉が思い浮かんだ。
言ったのは、舞だったか。
そう。
舞は、犬と会話をすることができた。
オレは、生徒会室で扉の鍵の開け方がわかった。
久瀬は、怪しい気弾を幾つも繰り出した。
あゆは空を飛んでいた。
真琴は分身の術を使えた。
名雪はイカヅチをオレに放った。
天野は蘇生術や回復術が使えた。
ならば、斉藤が自分を格闘ゲームのキャラクターと想像し、その技を使えるようになっていたとしても何ら不思議はない。
もしかすると、北川も自らの意思で魔王と名乗ってるだけかもしれない。
「祐一!」
真琴に呼び止められて、オレは我に返った。
「すまん。ちょっと考え事をしていた」
「よくこんな時に考え事なんかできるわね」
確かに、今は考え事なんかをしている場合ではない。
オレは斉藤の方を向いた。
「おそらく、斉藤は今、格闘ゲームのキャラになりきっているんだ!だから、ヤツを倒すには・・・」
オレは三度、斉藤に向かって行く。
「こっちも、格闘ゲームの技を出して行けば良い!!」
「また来たのか!相沢!!」
斉藤が構える。
「今度はさっきまでの様にはいかないぞ!」
オレは斉藤との間合いを詰める。
「喰らえ!斉藤!必殺・・・・!?」
しまった!!
オレ、この頃、格闘ゲームやってねーよ!
技がわかんねー!!
「隙あり!!龍王紅蓮烈風火炎弾!!」
ゴウッ
斉藤の全身から真紅に燃える炎が生まれる。
炎が龍の形になり、オレの体を包み込む。
ドバァァァァン!!
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
オレは炎に包まれながら、また、元の位置まで吹っ飛ばされる。
「ぐへっ!」
「大丈夫?祐一・・・」
「ダメ・・・」
「今、回復してあげます」
再び、天野に回復をしてもらう。
「なさけないわね・・・」
「うるさい、真琴。この頃、格ゲーやってないからしょうがないだろ!!」
これというのも、名雪のイチゴサンデーに、栞のアイスクリームに、あゆのタイヤキに、舞の牛丼に、真琴の肉まんで金を使い果たしたせいだ!!
「祐一。真琴が真の格ゲーマスターの実力を見せてあげるわ」
そういって、真琴が斉藤の方に向かって行った。
そういえば、真琴はこの頃格闘ゲームにはまっていたっけ。
ならば、ヤツを倒せるかもしれない。
「今度は、真琴が勝負よ!」
「女だからって手加減はしないぜ!」
真琴と斉藤が向き合う。
「花鳥風月扇!!」
「竜王咆哮波動烈風拳!!」
ドガガッ
ガキンッ
お互いの必殺技が炸裂する。
「森羅万象の舞!!」
「飛燕旋風連脚!!」
ブワッ
シュガガガガッ
「忍び三節坤!!」
「昇竜空破アッパーカット!!」
ドンッ
バスッ
二人の力はほとんど互角であった。
「なかなかやるわね!!」
「お前もな!!」
二人とも呼吸が荒くなってきた。
「ここらで、決着をつけてあげるわ!!」
「望むところだ!!」
バッ!!
二人同時に飛び上がる。
「超必殺!!飛翔残影日輪斬!!」
「超必殺!!鳳凰乱舞爆裂拳!!」
バキンッ
空中で交差しながらお互いに必殺技を繰り出しあう。
スタッ
そして、二人同時に着地した。
ガクッ
斉藤の膝が少し折れた。
やったのか?
「なかなかの使い手だったぞ・・・」
斉藤が真琴の方を振り向く。
「つ、強い・・・」
真琴はそう呟きながらその場に倒れた。
「実力は互角だった。だが、オレとお前の手足のリーチの差。そこに決定的な違いがあったのさ・・・」
「真琴!」
「真琴ちゃん!」
「真琴ぉぉぉぉ!」
オレ達は真琴のもとに駆け寄った。
すぐに天野が真琴を回復させる。
「祐一、負けちゃったよ・・・」
真琴は弱弱しくそう呟いた。
「気にするな」
オレは真琴にそう声をかける。
それにしても、真琴程の実力者でも勝てなったとは・・・
「よし。次は名雪だ!」
「え〜!私には無理だよ。格闘ゲームやったことないし・・・」
確かに、名雪じゃ無理だろう。
「天野は格闘ゲームは得意か?」
一応、聞いてみる。
「私、ゲームはやったことありません」
天野は真琴を回復させながら言った。
うーむ。そうなるとオレがまた行くしかないのか?
しかし、今のオレじゃ斉藤には勝てない。
どうしたものか・・・
「あの、祐一さん?」
「なんだ?天野」
「何も、あの人に一対一で挑む必要はないんじゃないですか?」
「あっ・・・!!」
そう言えば、別に本物の格闘ゲームじゃないんだから、馬鹿正直に一対一で挑む必要なんてどこにもなかった。
「一人の力では勝てなくても、みんなで力を合わせれば何とかなりますよ」
「そうだな。オレには仲間がいるんだもんな」
オレは、天野と名雪と真琴を見渡す。
「よし、みんな。オレ達の力を見せてやろう!!」
「うん!」
「はい!」
「ファイトだぉ!」
オレは斉藤に向かって行った。
今度は一人ではなく、四人で。
(次回「白色の言霊」に続く)
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