カノンR.P.G.
第十二幕「白色の言霊」





「行くぞ斉藤!」

オレ達4人は斉藤と対峙する。

「ほほう。今度はチームバトルでくるか。だが、オレは絶対にィィィ負けん!」

「やってみなければわからないさ。みんな!フォーメーションCだ!!」

オレの合図と共に、他の3人が斉藤を囲む。

「何!?」

うろたえる斉藤。

「斉藤。オレ達の力をみせてやるぜ!」

「ちょっと待て、相沢!」

「何だ?」

「普通チームバトルと言っても基本は一対一で、途中で戦う人間が交代するものだろ!」

「それは、格闘ゲームの話だろ。今は、現実のストリートファイトなんだぜ!」

行くぞ!!叫び声に合わせて、オレの体が青く光を発する。

オレだけでなく、真琴、名雪、天野の体も順番に青い光を発した。

オレは斉藤との間合いを一気に詰める。

「くそっ!」

斉藤がオレを迎え撃とうとする。

オレは、あと一歩でお互いの攻撃が当たるという所で踏みとどまり、再び間合いを離した。

「何?」

一瞬、拍子抜けする斉藤。

そこを横から真琴が襲った。

「さっきは、よくもやってくれたわね!火影脚!!」

バコッ!

「ぐおっ!」

斉藤が名雪の方へ吹っ飛ぶ。

「祐一は、私が守るんだお〜」

名雪が斉藤を指差す。

その指先から稲妻がはしった。

ズガァァン!!

「ぎゃおっ!」

稲妻が斉藤の体をはしる。

それでもなんとか踏みとどまった斉藤の背後に、音を立てずに天野が近寄った。

「さっきは、よくも私の真琴を苛めてくれましたね。覚悟なさい。天野流暗殺拳。裏百鬼夜行『雪』」

シンッ!

天野の一撃が静かに振り下ろされる。

「裏百鬼夜行『月』」

ザンッ

円を描くような一撃。

斉藤の体が宙に浮く。

「裏百鬼夜行『花』」

バッ

天野の攻撃が一閃する。

そして、斉藤は花が散るようにその場に崩れ落ちた。

「私の真琴に手を出したからです」

天野が倒れた斉藤に言い放つ。

あれだけの強さを誇った斉藤は、オレ達の4連携『フェイント火影サンダービハインド』と、天野の一人連携『雪月花』によって、あっけなく沈んだ。

つーか、何も団体で戦わなくても、天野だけで勝てたような気もするのだが・・・

「相沢さん。そんな酷なことはないでしょう」

聞こえてたか・・・

倒れた斉藤の横に真琴が歩み寄った。

そして、どこからか扇を取り出す。

「日本一〜」

何やってんだか・・・







ガバッ

完全に沈黙したと思われた斉藤が突然立ち上がった。

そして、近くにいた真琴を羽交い絞めにする。

「あうー!」

「真琴!」

「動くな!」

斉藤が叫んだ。

「動くとコイツに強制猥褻をするぞ!」

斉藤の空いている方の手があやしく動く。

「強制猥褻罪―――刑法176条前段。刑期は六ヶ月以上七年以下の懲役」

天野、何も今、そんな解説をしなくても良いだろうに。



「卑怯だぞ!!」

オレは斉藤に向かって叫んだ。

「4対1で襲ってきたそっちだって充分に卑怯だ!」

そのままお互いに睨みあう。

くそっ!どうするか。

その時、天野が小さな声で語りかけてきた。

「相沢さん・・・」

オレは斉藤に悟られないよう、意識だけをそちらに向ける。

「今から、私が相手の動きを封じます。だから、その隙に真琴を救出して下さい」

「動きを封じる?どうやって」

「見ていて下さい」

そう言い終わると、天野は斉藤の方へ近づいた。

「おい。動くなと言っただろ!!」

だが、天野は動じない。

そして、斉藤の方を睨んだ。

「あうー、美汐―・・・」

「真琴、今助けてあげますからね」

「動くなと言って・・・」

斉藤の言葉が途中で切れた。

天野のプレッシャーに押されたのだ。

少し離れたところにいるオレでさえ、天野の気迫がガンガンに感じられる。

いったい何をしようとしているのか・・・

「う、うご・・・」

斉藤が口をパクパクさせる。

おそらく『動くな!』と言いたかったのだろうが、声が出なかったらしい。



すぅぅ

天野が静かに息を吸い込む。



ゴクン

オレは唾を飲み込んだ。

隣の名雪も緊張している。

斉藤は、固まって動けないでいる。

よく見ると、うっすらと汗をかいている。

今、この場は天野に支配されていた。



一瞬、天野が息を止める。

訪れる静寂。

自分の鼓動さえ忘れてしまいそうな沈黙の世界。

一秒が永遠に感じられる。



スッ



天野の口が開かれる。



そして、天野の口から力ある言葉が放たれた。





「ふとんがふっとんだ!!」





そして、時間は止まった―――









『ドーン』

『ふ・・・ふとんが・・・・・ふっとんだ・・・・・・

 ぷ!ぷぷっ!ぷぷぷーっ!!く・・・くひひひ・・・・・・!!』

『わらった!!界○さまがわらったぞ!!』



「あ・・わさん・・・・・・」



『く・・・くそ〜、お・・・おまえただもんじゃないな・・・!さてはプロだな?』



「あい・・・ん・・・・・・」



『よかろう修行をしてやろう』



「・・ざわさん・・・・・・」

ん?何だ?

「あいざわさん・・・」

誰かがオレを呼んでいる・・・

「相沢さん!」

オレは自分の意識を目に集中させる。

景色がはっきりしてきた。

どうやらオレを呼んでいるのは天野らしい。

「相沢さん。早く真琴を!」

うん?真琴?真琴がどうしたんだっけ・・・

オレは頭を一生懸命に働かせる。

ええっと、さっきまで斉藤がいて、それをミンナでボコボコにして、けど往生際が悪くって、斉藤が真琴を人質にとって・・・

視線を横にずらす。

すると、そこに固まったままの斉藤と真琴が突っ立っていた。

そこでようやく正気に戻る。

そうだ、今、真琴がピンチだったんだ。

もう一度、斉藤と真琴を見てみる。

さっきと同じ格好のまま固まっている。

二人とも微動だにしない。

心なしか、真っ白に見える。

「相沢さん。斉藤さんが私の素晴らしいギャグであっけにとられている間に真琴を!」

天野がオレを急かす。

それにしても、「すばらしいギャグであっけにとられている」ってのは何か違う気が・・・

オレは、そう思いながら斉藤と真琴のもとに駆け寄った。





斉藤は、立ったまま気絶していた。

極度の緊張で張り詰めた精神が、あの最後の一撃に耐えられなかったらしい。

とりあえず、真琴から斉藤を引き離す。

真琴もぐったりしている。

「真琴、大丈夫か?」

真琴を揺すってみる。

すると、真琴が薄く目を開けた。

だが、その瞳に光は感じられなかった。

「・・・祐一・・・・・・春が来て、ずっと春だったら、T●BEは、いつ歌を出せばいいの?・・・・ぐふっ!」

ダメだ。

真琴にも多大なダメージがあるらしい。

とりあえず、真琴を抱きかかえて天野のもとへ移動する。

天野に真琴を託しつつ、オレは名雪の方へも顔を向けた。



名雪は草むらに体操座りをしていた。

オレはゆっくりと名雪に近づく。

「名雪・・・」

オレは名雪に声をかける

「祐一・・・私、もう笑えないよ・・・」

光を失った目で名雪が呟く。

どうやら名雪も永遠の一歩手前まで行ってしまったらしい。

名雪をここまで打ちのめすとは・・・

おそるべし、天野!





「相沢さん」

天野がオレに声をかけてきた。

「真琴の体調があまり良くないようです。人質にとれらたのだから無理もありませんが」

理由はそこではないような気がする。

「それに、見たところ水瀬さんの体調もあまり良さそうじゃないようです」

やったのは、お前だ。天野。

「ですから、どこか行って休みませんか?ここは、寒いので・・・」

ヒューと風が吹いた。

確かに、ここは少し寒い。

「よし。とりあえず、商店街の百花屋に行こう」

「百花屋ですか?」

「ひゃっかや・・・」

名雪が『百花屋』と言う言葉に反応する。

さすがと言うか、何と言うか・・・

「そこに香里と栞もいるはずなんだ」

「わかりました。とにかく丘を下りましょう」

天野は真琴を支えながら、丘を下り始めた。

オレも、名雪を背負い、その後に続いた。

ふと、後ろを振り返る。

ものみの丘には、真白に燃え尽きた斉藤が、ひとり佇んでいた。





次回「褐色の誘拐」に続く




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