カノンR.P.G.
第十六幕「炭色の妖術」





「ふっふっふっふっふ・・・・・・」

魔法を封じられたにもかかわらず、北川は不敵に笑っていた。

その笑い声は、とても変態的であった。

「ああ、普段から変態だとは思っていたが、ここまで変だとは思わなかったぞ」

「誰が変態だ!!」

「オマエだ、北川!!」

オレは北川を指差す。

「くっそー、相沢め!!覚悟しろよ!!」

「魔法が封じられているオマエに何ができる」

オレは北川に言い放つ。

「確かに、オレの魔法は封じられた!!だがな、他の特技はまだ健在だせ!!」

そう言うと、北川はいきなり頭の毛をむしった。

「・・・・・・やっぱり変態だ」

「誰が変態だ!!」

「この状況で自分の髪の毛をむしり始めたオマエがだ!!」

これを変態と言わずに何を変態と言おうか。

「そんなセリフはこれを見てから言いな!!」

北川がむしった髪の毛を撒き散らした。

すると、髪の毛がむくむくと大きくなってゆくではないか。

やがて、その髪の毛は人の形となっていった。

「何!!」

こ、これはいったい!!

「はっはっは!!これこそ我が妖術!!髪の毛分身の術だぁぁぁ!!」

「そのままのネーミングだな」

「ほっとけ!!」

髪の毛は、今や、みな小学生ぐらいの大きさの北川に変化している。

一匹一匹は弱そうだが、ざっと見たところ30匹はいるだろうか?

「匹って言うな匹って。オレの分身だぞ!!30人様と言え!!」

わけのわからにことを言う北川。

それにしても・・・

「佐祐理さん!!」

オレは佐祐理さんに声をかける。

「祐一さん。今の私は、さゆりんです」

「・・・・・・さゆりんさん!!」

「はい。何ですか?」

杖を構えたままで佐祐理さんが答える。

「北川の魔法は封じられたのではなかったのですか?」

「はい。魔法は封じました」

「じゃあ、何で分身の術が・・・」

「それは、たぶん、あれが妖術だからです」

「は?妖術と魔法って違うんですか?」

「佐祐理にもよくわからないんですけど、どうやら違うみたいですね」

そう言って、佐祐理さんはすまなそうな顔をした。



「はっはっはー、相沢よ!!オレの妖術にひざまづくがよい!!」

北川がまた髪の毛を抜いてまく。

すると、またミニ北川がわらわらと湧いて来た。

そこらに蠢くミニ北川の山。

その数およそ50匹。

うざいことこの上ない。

「これを相手するのか・・・」

オレはクソのようにいるミニ北川を見てため息をついた。

「できれば相手にしたくない・・・」

舞も同じようにため息をついている。

オレと舞が呆然としている前に真琴がしゃしゃり出た。

「真琴、何をする気だ?」

「向こうが分身の術なら、こっちも分身の術よ」

そう言えば、真琴はそんな技を使えたっけ。

真琴は、両手を胸の前で組んで、何やらごにょごにょと言い始めた。

「まーことことこと、まことこと!真琴流忍術。おぼろ分身影100個!」

ぼむっ

真琴の体が煙に包まれる。

次の瞬間、辺り一面にミニ真琴が広がった。

『いっくよ〜』

ミニ真琴達がミニ北川に襲い掛かる。

「ちっ!!そっちにも分身の術が使えるヤツがいるとは!!ええい!!行け、我が分身よ!!」

北川がミニ北川に号令をかける。

ミニ北川達も、ミニ真琴達に襲いかかった。

『えーい!!』

『このぉぉ!!』

『ちるちるきーっく!!』

『きゃははははーっ!』

壮絶なるガキのケンカを始めるミニ真琴とミニ北川達。

『えーん、えーん!!』

『ほわっちゃー!』

『やったわねー!!』

『おまえのかーちゃんデーベソッ!!』

ホッペタひっぱりあったり、

くすぐりあったり、

髪の毛を引っ張ったり、

ひっかきあったり・・・・・・

「うーん、やかましいことこの上ないな」

「楽しそう・・・」

舞がポツリと呟く。

「そうか?」

オレはそうは思わんがな。

ミニ真琴とミニ北川は、一人一人の実力は、わずかにミニ北川の方が上らしい。

しかし、約2倍近くいるミニ真琴の方が、有利に戦いをすすめていた。

真琴のおかげで、北川の生産したミニ北川の動きは、ほとんど封じられたも当然だった。



「さあ、北川。魔法も妖術も封じてやったぞ。覚悟しな!!」

オレと舞が北川に詰め寄る。

「まだだ・・・!まだ終わらんよ!」

北川の鋼の鎧が機械的な音をたてる。

「行くぜ、北川!!」

オレと舞が北川に飛びかかる。

ばっ!

がきん!

ざん!!

なんと北川は、オレと舞の全ての攻撃をしのいだ。

「き、北川のくせに、オレと舞の攻撃を全部かわしただと!!」

「・・・まさか」

信じられないと言う顔をする舞。

「はっはっは!オレのこの鎧は、自動的に相手の攻撃を避けてくれる機能付きのアマードマッスルスーツなのだ!!」

北川が胸を叩いて鎧をアピールする。

「そして、漢の浪漫であるこーんな必殺技も使えるんだぞ!!」

右腕をオレの方に向けた。

「ろけっとぱーんちっ!!」

がしゅっ!!

北川の鎧の右腕の部分が炎をあげながらオレに迫る。

がっこーんっ!!

「ぐはっ!!」

ロケットパンチはオレの顔面を強打した後、北川の右腕へと戻って行った。

「はっはっはっ!!見たか相沢!!」

ひっくり返っている俺を見下ろして、誇らしげに笑う北川。

「もう一度喰らえ!!ダブルろけっとぱーんちっ!!」

今度は北川の両腕のパーツが飛ぶ!!

片方はオレの方へ。

もう片方は舞の方へ。

ぐおっ!!

オレはそれをかわすのでせいいっぱいだった。

だが、舞は違った。

避けた後、北川の腕へ戻るロケットパンチに合わせて、間合いを詰めていった。

「何!!」

北川は慌ててロケットパンチを腕に嵌める。

そのスキをついて、舞の剣が北川の胴を払った。

がしぃぃぃぃんっ!!

完璧な手ごたえ。

だが、

「効かないぜ!!」

北川は、すぐに舞にパンチを繰り出す。

「うっ!!」

舞はそれを何とかかわし、北川との距離を開ける。

「なぜっ!」

舞が驚きの顔で北川を見る。

「このアマードマッスルスーツは、自動的に防御してくれるだけでなく、鎧の硬度もあらゆる衝撃に耐えられるように設計されているんだ。そんな生ぬるい攻撃なんか効かないぜ!!」

北川が得意そうに笑っている。

それにしても、何てやっかいな物を着込んでいるんだ。

舞の一撃でダメージを当てられないものをどうやって倒せばいいんだ?

「くっ!!」

舞がもう一度北川に挑む。

「よせ!!舞!!」

舞の一撃が北川を襲う。

「無駄無駄ぁぁ!!」

アーマードマッスルスーツの自動回避能力が発動する。

舞の攻撃は、北川に避けられてしまった。

「く、このままじゃダメだ。何か策を考えなければ・・・・・・」





「ふっふっふっ!!無敵!!アマードマッスルスーツ!!頭のハネ!!もう、この魔王北川様におそれるモノなどないわ!!!支配してやるぞ!おろかな市民どもめ!!」

北川が高らかに笑う。

その時、

ピカッ!!

北川に雷が落ちた。

ドガッーン!!

「ぎゃぉぉぉぉぉぉおぅぅ!!」

もだえ苦しむ北川。

「こ、この雷は!」

オレは後ろを振り返る。

そこには、名雪が立っていた。

「名雪!!起きたのか!!」

「だおー・・・・・・起きてるよ・・・・・・」

半分寝てる。

「笑い声がうるさいんだおー・・・・・・寝れないんだおー・・・・・・」

名雪が人指し指を北川に向ける。

ピカッ!!

チュドーンッ!!

「おぎょぎょぎょぎょぎょ!!」

再び北川に雷が落ちる。

「ぐぅ!!」

北川が何とか立ち上がる。

「く、やはり勇者。何と言うパワーを誇って・・・」

「私の眠りを妨げるヤツは、何人たりとも許さないんだお〜・・・・・・」

ピカッ!!

チュドーンッ!!

容赦なく名雪の雷が北川を襲う。

「げ、げげふぅ!!」

北川はマトモにセリフを喋る暇もまく、真っ黒コゲになってしまった。



(次回「紅色の変身」に続く)




戻る