カノンR.P.G.
第十七幕「紅色の変身」





「おおおおおお!!」

黒コゲになった北川がうめき声をあげる。

「オレでは、魔王では勇者に勝てないのか・・・・・・・」

北川の体からはぶすぶすと煙が立ち上っている。

「魔王はあくまで勇者に倒される存在でしかないのか?そんなことがあってたまるか!!」

北川がフラフラと立ち上がる。

「夢の終わりなどオレは認めないぞ!!オレは魔王を越えてやる!!大魔王となってこの世界に君臨してやる!!」

「大あほう?」

半分寝ながら、名雪が突っ込みをいれる。

「大魔王だ!!」

北川はそう叫ぶと香里の方を向いた。

ちなみに香里もまだ寝ていたりする。

なんで、この騒ぎの中眠っていれるのだろうか?





北川はしばらく香里を見つづけた後、急におたけびをあげた。

「うおぉぉぉぉぉ!!漢の浪漫パワー!!」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!?」

「説明しよう!!オレは香里の寝姿を見て、あれこれ妄想し、己の中で漢の浪漫パワーを高める事によって、自らをパワーアップすることができるのだ!!」

律儀に説明をしてくれる北川。

その北川がどんどん大きくなってゆく。

いや、正確には北川の着ている鎧が大きくなってゆく。

それはどんどん拡張し、ついには高さ5メートル程の大きさにまで膨れ上がった。



「これは・・・・・・」

オレは北川を見上げる。

巨大な鎧に身を包んだ北川。

その姿はまるで、紅白の小林○子のようだった。

はっきり言ってダサイ!!

「我が名はネオ・キタガワ。すべての次元、すべての時空、すべての夢を消して、そして私も消えよう」

北川が、両手を交差する。

「スペ○ウム光線!!」

ジュワワワワッ!!

北川の腕から光線がはしった。

ちゅどーんっ!!

光線を喰らったベンチが吹っ飛ぶ。

「なんか、めちゃくちゃだぞ!!」

「そうさ!オレはすべてのしらがを捨てたんだ!!今のオレならなんでもできるぜ!!」

「それを言うなら『しがらみ』だろ!!」

「そんなことはどうでもいい!!」

北川が、両手の指を額にもってゆく。

「エメ○ウム光線!!」

ビギョォォォォン!!

北川の額から緑色の光線がほとばしり大地を焼いた。





「祐一さん!!」

佐祐理さんがオレを呼ぶ。

「北川さんの魔力が強すぎて、佐祐理では押さえきれません!!」

佐祐理さんは額に汗を浮かべながら必死に杖を抱えていた。

「佐祐理さん!!無理はしないで下さい!!」

「佐祐理は大丈夫です」

そう言う佐祐理さんの顔色は非常に悪かった。





「ちっ!!」

舞が北川に飛びかかった。

「舞!!無理だ!!大きさが違いすぎる!!」

舞が北川に向かって飛ぶ。

しかし、いかに舞と言えども5メートルもジャンプすることはできない。

舞の一撃は、北川の鎧に少しだけキズをつけただけであった。





「そうだ!!天野!!」

オレは天野を呼ぶ。

「アレできないか!!あの斉藤に使ったヤツ!!」

「アレですか?」

「そうだ!アレだ。」

「アレは、一日に何回もやるものではないのですが・・・・・・」

「状況が状況だ。頼む!!」

「わかりました。やってみます」

天野が北川を見上げる。

北川が天野を睨みかえす。

天野が呼吸を整える。

そして、力ある言葉を紡ぎだす。

「アルミ缶の上に―――」

「あるミカン!!」

天野が全てを言う前に、北川が先にオチを言ってしまった。

「な、なんてことでしょう。この崇高なるギャグのオチを先に言われてしまうなんて!!」

本気でショックを受けている天野。

そこへ、北川が追い討ちをかけた。

「残暑がきびしいざんしょっ!!」

「こんにちは!東京ガスでガス!!」

ガーンッ

天野が顔面を蒼白にする。

「ああ!なんて高等なギャグ。まるで神様が言っているような・・・・・・」

確かに、あのギャグのもとネタは神様だが、そこまでショックを受けるようなことか?

しかし、さすがは北川。くだらないことにかけては右に出るものがいない。





「名雪!!」

「何だお〜」

「大変だぞ!!オマエのイチゴジャムを北川が一人占めしようとしている」

「それはいけないんだお〜」

「ああ、今まさに逃げようとしているぞ!!」

「逃がさないんだお〜」

「はやく雷を撃って、北川の動きを止めるんだ!!」

「わかったんだお〜!!」

半分寝ぼけた名雪が北川に向かって人差し指を差し出す。

ズゴゴゴゴッゴゴーンッ!!

雷が北川に直撃する。

だがしかし!!

「セイ○トに同じ技は効かないぜ!!」

巨大化した北川の鎧がアースの役割をし、名雪の放った雷を全て地面へと流していった。





『あうー、あんた達、真琴が強いってわかった?』

『はい〜、わかりました〜』

『あんた達のボスは誰?』

『真琴さまで〜す』

『今度から、真琴が命令したら、ちゃんと肉まんを持ってくるのよ!!』

『御意〜!!』

向こうでは、ミニ真琴達がミニ北川を鎮圧したらしい。

なんか、あっちは平和だなあ。





「くそ!!いよいよ手詰まりになってきた。あの北川を倒す術はないのか?」

オレは考える。

だが、そんないい案がすぐに思いつくわけでもなかった。

「祐一さん」

「お、栞。そうだ、栞がまだいたか。えっと、栞の特技は・・・・・・」

占い。

ダメだ。占いじゃ相手を倒せない。

「祐一さん。私の特技は占いだけではありません」

栞がスケッチブックを取り出した。

「私は今、お姉ちゃんと言う重圧から開放された状態です。ですから出力がいつもより増しています。なので、今なら奥技が使えるかもしれません」

そう言って、スケッチブックにサラサラと何かを書き始める栞。

それにしても、栞にとって香里は重圧だったのか?

栞が絵を描き終えた。

その絵を天に向ける。

「線に体を。色に力を。我が絵に命を!!」

スケッチブックが光輝く。

すると、スケッチブックに描かれた絵が実体を持ち、動き始めた。

それはどんどん巨大化して行く。

遂には、北川と同じぐらいの大きさにまで膨れ上がった。



「何だ!!こいつは!!」

北川がうろたえる。

「うおおおおおおおぅ!!」

絵は、低い声をあげながら、北川に襲いかかった。

「くそっ!!化け物め!!」

北川と絵が取っ組み合う。

その力は、ほとんど互角らしかった。



「すごいな栞!!描いた絵が実体を持つのか」

「はい。そうです。強く思って描いた絵ほど、強い力を持ちます」

「ふーん、そうなのか。それで、あの化け物は何の絵なんだ?」

「化け物じゃありません」

「え?化け物じゃない?じゃあ、怪獣か?」

「そんなこと言う人は嫌いです」

「じゃあ、何だ?」

「あれは、祐一さんです」

そう言って、少し頬を赤らめる栞。

「へ?オレ?」

オレは改めて北川と戦っている絵を見てみる。

つりあがった目。

でっかい口。

ぼさぼさの髪の毛。

異様に長い体。

6本生えている腕。

足は3本。

ご丁寧に、尻尾とハネまで生えている。

うおっ?今火を吐いたぞ!!

「ホントにあれはオレなのか?」

「はい。祐一さんのことを考えながら、一生懸命描きました」

オレは、北川と死闘を繰り返している化け物的な姿を持ったオレの絵を見ながら、自分の存在意義について深く考え始めた。





(次回「桃色の救出」に続く)


戻る