カノンR.P.G.
第十八幕「桃色の救出」





がしーんっ!!

きしゃぁぁぁぁ!!

ずごぉぉぉぉぉぉん!!



オレの頭上で、巨大な北川と栞の描いた絵が戦っている。

オレは、その足元を踏みつぶされないよう注意しながら進んでいた。

気付かれないように、北川の裏側へと回る。

この夢の世界でオレは盗賊なので、忍び足はお手の物である。

「いたっ!!」

オレは目的の人物―――椅子に縛られて眠っている香里を発見した。

近寄って紐を解く。

香里はぐっすり眠っていて起きない。

「いったい、どういう神経をしてるんだ?」

オレは香里を背中にしょいこみ、急いでその場を離れた。





「お姉ちゃん!!」

栞が香里に飛びついた。

「良かった無事で・・・・・・」

栞が香里に頬ずりする。

「それにしても良く眠ってるな」

オレは香里を見てため息をつく。

「水瀬さんも半分眠ってますよ」

天野が名雪の方を見る。

「・・・・・・私、納豆も大好きだお〜・・・・・・」

「いや、名雪が寝てるのはいつものことだが、香里がこうまで眠りこけているのは珍しい」

オレは香里の寝顔を覗き込んだ。

香里の寝姿は、妙にかわいらしかった。

「祐一さん。変な事を考えてませんか?」

「そ、そんなことないぞ」

オレは栞に詰め寄られ、あわてて目を逸らす。

「うーん、まだ、あの栞の描いた落書きと北川は、戦っているのか」

「思いっきりわざとらしいです。それに落書きじゃありません」

栞が膨れる。

「お互いの力が均衡しているらしくて勝負がつかない」

舞が、北川と落書きの戦いの分析をした。

「うーん、そうか。だからと行って、あれに加戦するわけにはいかないからなぁ」

体調5mの巨体がぶつかりあっている中へ生身の人間が入っていったところで、何の役にも立たないだろう。

「栞。もう1匹生産できないのか?」

「今の私の実力では、一度に作れるのは一つまでです」

「そうか・・・・・・」





「祐一さん」

天野がオレを呼んだ。

「どうした天野?」

「香里さんの眠り方が、少し普通ではないと思うのですが・・・・・・」

天野が香里を診ながら言う。

「普通じゃない?」

「別に、命に別状があるってわけではないのですが、何か、こう、眠りが深すぎるような気がするんです」

「疲れてるからだろ」

「それにしたって、少しおかしいです」

そうなのか?

オレは香里の寝顔を覗き込む。

気持ち良く寝ているように見えるが?

「いいですか相沢さん」

天野が香里の頬をペチペチと叩く。

しかし、香里は無反応だった。

「おーい、香里」

オレは香里のほっぺたをびにょーんと伸ばした。

だが、うんとも寸とも言わない。

確かにこれはおかしい。

オレは香里の耳元に口を近づける。

そして、禁断の呪文を唱えた。

「謎ジャム」

「え!!謎ジャム!!オレンジ!!わ、私学校に行くね!!」

香里の代わりに名雪が起きた。

だが、当の香里は眠ったままだった。

「こ、これは絶対におかしい!!」





「やっぱり、薬が効きすぎたんですかね?」

栞がいきなりとんでもない事を口走った。

「し、栞。何だ?薬って・・・・・・」

「あのですね。百花屋にいるときにですね。お姉ちゃんが、少し疲れてるように見えたので、こっそりコーヒーに睡眠薬を混ぜたんです」

「それじゃあ、さらわれる前に香里がうたた寝してたのって・・・・・・」

「たぶん、薬が効いたからだと思いますけど」

「ちゃんとした薬なんだろな?」

「私のオリジナルです」

「オリジナル?大丈夫なのか、それ」

「たぶん大丈夫です」

「たぶんって何だ?」

「人に使うのは初めてです」

「ぐはっ!ってことは、香里で実験したのか?」

「実験だなんて。そんな事言う人は嫌いです」

「だって実際に・・・・・・」

「お姉ちゃんなら許してくれます」

「そう言う問題ではないと思うのだが・・・・・・」

オレは天野の方に向き直った。

「天野。毒物の浄化なんかはできるのか?」

「はい」

「えうー、毒物じゃないですよ」

「すまん。天野。香里を解毒してやってくれ」

「わかりました」

「えうー、そんな事言う人嫌いです」

天野が手をかざす。

両手が光輝き、香里の体を照らし始めた。

数秒して、香里がゆっくりと目を覚ました。



「あら、相沢くん。私寝ちゃったの?」

寝ぼけ眼で辺りを見回す。

「ここ公園じゃない。なんで私こんなところにいるの?」

「それはだな・・・・・・」

オレが香里に説明をしようとしたとき、

ドガッシャーンッ!!

頭上で盛大な音が響いた。



「何あれ?」

香里が巨大化した北川を凝視する。

北川は、ちょうど栞の落書きを吹っ飛ばしたところであった。

「なんだ?なんで落書きが負けているんだ?舞、何があったんだ?」

一部始終を見ていたと思われる舞に聞いて見る。

「突然、落書きの動きが鈍くなった」

「なんでだ?」

「あっ!!」

栞が声をあげる。

「お姉ちゃんの事に気を取られて、祐一さんの似顔絵をコントロールするのを忘れてました」

「だー!栞―!!おまえなー!!」

「すみません」

栞はペロっと舌を出した。



北川がこちらを向く。

そして、目覚めた香里に気付いた。

「美坂ぁぁぁぁぁぁ!!」

北川が雄叫びをあげる。

それを見た香里が顔を引きつらせた。

「何?あの変態!!」

ビキッ!!

北川の動きが止まる。

「何、あの小林○子みたいな格好?」

香里が軽蔑した目で北川を見上げる。

「あそこまでやると救い様がないわね!!」

ズバッと言い切る香里。

あ、北川泣いてる。

「わっ!ほんとだ。北川君だよ」

今さらながら、名雪が驚きの声をあげる。

「私、てっきり、エク○デスと祐一が戦ってるのかと思ったよ」

どうやれば、あれがエク○デスに見えるのだろうか?

ってーか、落書きはオレに見えたのか!!

オレっていったい・・・・・・



「お姉ちゃん」

「何、栞?」

「北川さんは、お姉ちゃんを眠らせて、ここまでさらってきたんです」

栞が香里を眠らせた罪を北川に着せた。

法律用語で冤罪と言う。

「まぁ!!」

香里が栞の言葉をそのまま受け止める。

そして、北川をキッと睨みつけた。

ビクッと北川が震える。

香里が北川に向かって、とどめの一言を言い放った。

「サイテーッ」

「ぐはぁっ!!」

北川はその場にくずれ落ちた。





(次回「朱色の隕石」に続く)


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