カノンR.P.G.
第十九幕「朱色の隕石」





「ぐすっぐすっぐずっ!!」

北川が立ったまま泣いていた。

「うっとおしいやっちゃなぁ」

オレは未だに巨大な北川を見上げる。

「調子に乗って魔王なんてやってるから、そんなことになるんだ」

「ううっ・・・・・・オレは生まれながらの魔王・・・・・・ぐすっ」

北川が涙を拭った。

「そうオレは魔王なんだ・・・・・・」

北川の表情が固まる。

「なんだ、まだやる気なのか?」

オレは一瞬北川を警戒する。

「負けるときは相手を道連れにする。これが魔王の務めなんだ!!」

またわけのわからないことを言い出した北川。

北川は立ち上がり、両手を天に向けた。

「全てを滅ぼしてやる!!」



『我が前方にラファエル!我が後方にガブリエル!』

北川が呪文の詠唱を始めた。

「あ!」

思わず佐祐理さんが声をあげる。

佐祐理さんは、北川が完全に沈黙したと思い、魔法を中和するのをやめていたからだ。

だから、今呪文を唱え終えられたら、北川の魔法は効力を発する。

『我が右手にミカエル!我が左手にウリエル!』

「この呪文は〜」

北川の詠唱する呪文を聞いて、名雪が声をあげる。

「名雪、この呪文がなんだかわかるのか?」

「うん。この呪文は私が今やってるゲームに出てくる呪文だよ」

例の昨日の夜やっていたロープレか!!

「北川君もあのゲームをやってたんだ」

名雪が北川を見あげる。

「ねぇ、北川君。金色の爪がどこにあるかわからないんだけど、どこにあるの?」

「アホか!名雪。こんな時に何を聞いてるんだ!!」

「だって、わからなかったから・・・・・・」

「金色の爪は、ピラミッドの地下一階の床を調べると、そこに隠し階段があって、その階段を下った所にあるぞ!!」

律儀に答えてくれる北川。

あいつもアホだな。

「ありがとう、北川君」

「何、わからないことがあったらまた聞いてくれ」

そう言ってから北川は、再び呪文詠唱を始めた。



「なぁ、名雪。あの北川の唱えている呪文ってなんだ?」

「私が今やってるゲームの呪文だよ」

「そうじゃなくて、どんな効果の呪文なんだ?」

「えーっとね、確か封印されていた禁呪で・・・・・・」

禁呪?

何か物騒だな。

「天から大いなる災いを召喚して、辺り一帯の大地を焼き払う呪文だよ」

「なにぃ!!」

「ゲームの中で一番強い魔法だった気がする」

「大いなる災いって何だ?」

「ゲームでは、空から隕石が降ってきてたよ」

それは、いわゆるメテオと言うヤツでは。



「やめろ北川!!ここら一帯が火の海になるぞ!!」

「オレは魔王だ。魔王は一人で負けちゃいけないんだ。負ける時は、みんな道連れなんだ!!」

呪文を唱えつづける北川。

『空を見よ!星を見よ!宇宙を見よ!彼方より迫り来る赤い火を!!』





北川のヤツ、何か変だ。

自分で魔王と名乗っていると言うより、誰かに魔王をやれと言われているように見える。

それで、今、魔王としての義務を果たそうと躍起になってる。

まさか、

北川も誰かに操られているのか?

それとも―――これが、北川のこの世界での役割?





「名雪!」

「なに?祐一」

「そのゲームに勇者しか使えない魔法とかは出て来ないのか?」

「あるよ」

「よし!今からそれを唱えろ!」

「え?私が?」

「魔王である北川に対抗できるのは勇者である名雪しかいない!やってみてくれ」

「わかった。やってみるよ〜」

名雪が北川に向き合った。

そして、口の中で呪文の詠唱を始めた。





『メテオ!ストライク!!』

北川の呪文詠唱が終わった。

だが、その時、名雪の呪文も完成した。

そして、力ある言葉が発せられる。

『パ○プンテッ!』

「なにっ!パル○ンテだと!?」

名雪の唱えた呪文は、なんとパルプ○テだった。

「パ○プンテって言ったら、何が起こるのか唱えた本人にもわからない魔法じゃないか!」

「そうだよ。けど、これが勇者しか使えない魔法なんだよ」

「それで、何か起きたのか?」

「うーん、わかんない」

「まさか、『何も起こらなかった』ってオチじゃないだろうな」

『はっはっはっはっー、勇者と魔王の魔法合戦は、どうやら魔王の勝ちらしいな』

「何を言うんだ。お前の魔法だって、まだ効力を発していないだろ!」

『それはどうかな?ほら、空を見ろ。もうすぐ大いなる災いが振ってくるぞ!!』

「空!?」

オレは空を見上げた。

北川の背後に青く広がる空。

その一点がキラリと光った。



「まさか、あれが隕石!?」

『もう、誰にも止められない。この世界に終わりをつげるものを止めることは誰にもできないのさ!!』

北川が自分に酔いながら言う。

「名雪!本当にパル○ンテの効果は『何も起こらなかった』なのか?」

「そんなの私に言われてもわからないよー」

名雪が情けない声をあげた。





それは天から降ってきた。

もの凄い勢いで飛んで来た。

始めは点にしか見えなかったそれはぐんぐん大きくなってくる。

キーンッ

それが飛行する甲高い音が辺りに響き渡った。



『聞け!この音を!大いなる災いが飛来する音だぞ!!』

ヒューンッ!!

音がどんどん大きくなる。

「あれが大いなる災いなのか?」

オレは天から飛来するそれを見つめる。





他の皆もあっけにとられてそれを見あげていた。

「祐一、あれって・・・・・・」

名雪が空を見上げながら言う。

「ああ、間違いない・・・・・・」

オレもあれを凝視しながら呟く。

「人に見えますが・・・・・・・」

「奇遇ね、栞。私にも人に見えるわ」

「あははー、羽が生えていますね」

「・・・・・・鳥さん」

「美汐、人って飛べるのかな?」

「飛ぼうと思えば、飛べるのでしょう」

みな、空から迫り来る人に注目していた。



「間違いない。あれは、あゆだ!!」





『何い?』

北川が天を仰いだ。

「うぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

その北川に、大いなる災い―――あゆがもの凄い勢いで飛来して来る。

「そこの人!どいてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

ヒュンッ!!

高速で迫り来るあゆ。

『まさかぁ、パルプ○テの効果で、隕石が月宮にぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』

いきなりのことでどうしていいのかわからない北川。

「ぶつかるぅぅぅぅぅぅぅ!!」

『のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

どがげしっ!!

あゆの頭と北川の頭がぶつかりあう。

「うぐぅ〜!!」

『うきょおおおおおおおおおおおおお!!』

ぐらっ!!

北川はそのまま倒れた。

どーんっ!!

倒れた拍子に、北川の着ていた鎧が粉々になった。

それは小さなかけらになって拡散してゆく。

北川は大地に倒れ付したまま気絶した。





「うぐぅ!!」

あゆが頭を押さえながら落ちてくる。

「あゆ!!」

オレはあゆを受け止めようと走る。

「うぐぅ!」

あゆは地面に落ちる前に、くるりと身を翻した。

そして、一瞬空中に浮いた後、ゆっくりと大地に降り立った。

「10・00!!」

ビシッとポーズをとるあゆあゆ。

「あゆ!!」

オレはあゆに駆け寄る。

「祐一君。それにみんなも」

あゆが頭を押さえながら答える。

「頭、大丈夫か?」

「うぐぅ、痛い」

「おーい、天野。あゆの頭を『痛いの痛いの飛んでいけ〜』ってやってくれ」

「うぐぅ!ボク、子供じゃないよ!!」

「いいからやってもらって来い」

オレはあゆを天野の方へ押した。





北川が倒れていた。

北川は完全に気絶していた。

つまり、魔王は滅んだと言う事であろう。

「これで、終わったのか?」

魔王―――ラスボスを倒したのである。

もし、夢を見ているのが北川であったなら、これで夢は覚めるはずだ。

いや、何も夢を見ているのが北川でなくても、ラスボスである魔王を倒したのであるから、これで夢が覚めるはずである。

だが、しかし―――



「世界は、まだ、夢の中にある。」



オレにはそんな気がした。





(次回「夢色のRPG」に続く)




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