カノンR.P.G.
第三幕「茶色の扉」





「気分はどうですか?」

「あははー、捕まっているんですから、悪いに決まってます」

「少しの間ですから、我慢して下さい」

「佐祐理をどうするつもりですか?」

「それは・・・って言うわけにはいきませんね」

「どうしてですか?」

「人に聞かれると非情にまずいからです」

「それなら大丈夫ですよ。ここには、あなたと佐祐理しかいませんから」

「それもそうですね。まあ、聞かせてあげましょう」

「はじまり、はじまりー」

パチパチパチパチ

「単刀直入にいいます。倉田さん。あなたのその地位が欲しい」

「愛の告白ですか?困ります。佐祐理は変態は嫌いです」

「ち、違う!!私が欲しいのは、王女としてのあなたのその地位だ!」

「オカマなんですか?」

「いや、そうじゃなくて!この城の支配者になることのできる権力が欲しいのです」

「はぇー、佐祐理にはそんな権力はありませんよ」

「あなたは、使い方を知らないだけです。権力は私のような使い方を知っている人間が持つべきなのです」

「どうやって、佐祐理から権力を奪うつもりですか?」

「方法はいろいろありますね。例えば、あなたが私に権力を譲るとか」

「他には?」

「倉田さんと私が結婚するとか」

「やっぱり、愛の告白なんですか?」

「・・・い、今のは、一つの例です。最後の手段としてはあなたを殺すと言う方法もあります」

「はぇー、殺人ですか」

「しかし、私としても女性に手荒なマネはしたくはありません」

「それで?」

「倉田さん、二人でこの城を支配しませんか?」

「結局、愛の告白なんですね。変な人に、したくもない結婚を迫られるかわいそうな佐祐理」

「変な人とは失礼な。私は生徒会長で成績優秀な人なのですよ」

「けど、佐祐理はお姫様だから、きっと騎士様が助けだしてくれますねー」

「それは無理ですね。この生徒会室は、扉が一つしかありません。ちゃんと鍵も閉めてあります」

「窓がありますよー」

「ここは2階です。しかも今、窓の外は異界化しています。ここから来るのはまず無理ですね」

「あははー、密室ですねー」

「そうです。アリの入る隙間もありません。私たちを邪魔するものは、誰もここには来れないのです。はーっはっはっはっはっはっはっはっ!」





オレと名雪と舞は、生徒会室の前の廊下にいた。

「この声は、久瀬だな」

久瀬の自分に酔った大声は、廊下にだだ洩れだった。

「久瀬って、あの生徒会長の久瀬さん?」

「あの生徒会長の久瀬だ」

それにしても、この異常事態においても、やってることが普段とほとんど変らないとは。

「祐一、倉田先輩をはやく助けなきゃ」

確かに、これ以上あの変態と同じ部屋にいるのは危険だ。

「佐祐理、今行く」

舞が、ドアノブに手を掛ける。

ガチャガチャ

「開かない」

そう言って、こちらを振り返る。

「鍵をかけたって言ってたよね」

「そうなると、ぶち破るしかないか」

生徒会室の扉は、他の教室の扉とは違い、木製の立派なやつである。

校長室の扉の様に重厚なこれは、人間の力で壊すのは無理であろう。

「そうだ、名雪。おまえ確か勇者だったよな」

「お母さんは、そう言ってたけど」

「だったら、扉を開けるナイスな魔法なんかは使えないのか?」

「そんなの使えるわけないよ」

「いや、やってみないとわからないぞ」

「そうかなぁ」

「為せばなる、為さねばならず何事もっていうだろ」

「うーん、やってみるよ」

名雪が神妙な顔で扉を見る。

確かに普段なら、魔法なんかは使えるはずがない。

しかし、今は、非常識事態である。

もしかしたら、という期待を込めてオレは名雪を見つめた。

スッと両手を扉の前にかざす名雪。

舞も黙ってその様子を見つめている。

集中する名雪。



「開け〜、ゴマッ!」



「・・・・・」

「・・・・・」

気まずい沈黙。

はーっはっはっはっはっはっはっはっは・・・・・

久瀬の笑い声だけが廊下に響き渡る。

「・・・舞、お前の剣で扉を切れないか?」

「・・・この扉を切るのは、無理」

「何事もなかった様に話をしないでよ〜」

名雪の情けない声。

「しかし、どうやって中に入ろう」

「祐一、無視しないで・・・」

「ん?名雪どうしてスネているんだ」

「う〜、祐一のバカァ〜」

やばい、ホントに怒らせてしまった。

「これから祐一のご飯はずっと、紅天狗ダケ!紅天狗ダケのご飯に、紅天狗ダケのお吸い物、おかずは紅天狗ダケのおひたし!」

そう言って、後ろを向いてしまう名雪。

そんなものを食わされたら、ひと口であの世逝きだ。

「わるかった、名雪!」

パンッ両手を合わせて謝る。

「む〜」

「オレが全部悪い。ごめん。謝る。」

「・・・イチゴサンデー」

「3つ!!」

「・・・じゃぁ、特別に許してあげる」

振り向く名雪。

ホッと胸を撫で下ろす、オレ。

「祐一・・・」

その様子をただ眺めていた舞が呟いた。

「夫婦喧嘩もほどほどにして、佐祐理を助けて欲しい」





はーっはっはっはっはっははははははっはっは・・・・・

未だに笑い続けているらしい久瀬。

声だけ聞こえてくるからかなり不気味だ。

「どうやって入るかが問題だな」

「それなら、問題ない」

舞が自信ありげに言う。

「どうするんだ?」

「祐一が開ければいい」

なるほど、オレが開ければって・・・

「待て!オレはそんなことできないぞ!」

「大丈夫、祐一は泥棒さんだから」

なんじゃ、そりゃ。

「そういえば、祐一の格好って、シーフの格好だよ」

名雪にそう言われて、改めて自分の格好を見る。

全身黒尽くめの服。腰に巻いたベルトには、工具らしいものが突き刺さっている。

確かに、RPGなんかで出てくるシーフの格好だ。

「格好はそうだけど、だからって鍵開けができるとは限らないぞ」

「それは大丈夫。今日は思ったことができる」

よくわからないことを言う舞。

「祐一、さっき『為せばなる』って言ったよ」

言うには言ったが・・・

「とにかく、やってみて」

舞がそう言うのでオレは鍵開けに挑戦することにした。





扉の鍵穴を前にして、オレは不思議な感覚を感じた。

そう、何故かオレは鍵の開け方がわかるのである。

「何故だろう?」

頭の奥底ではそう思う。

しかし、鍵穴を見つめていると、どの工具を使ってどの様に開ければいいのかが浮かんでくるのだ。

いつこんな知識を手に入れたのだろうか。

思い出せない。

思いだそうとすると深くに沈んで行く。

わからない。

何が起きているのかわからない。

いけない。

このことを考えてはいけない気がする。

「深く考えるのはやめよう。今は佐祐理さんを助け出すのが先だ。」

そう自分に言い聞かせて、鍵開けに専念することにした。



はーっはっはっはっはっはっは・・・・・

久瀬の笑い声がわずらわしいが、この程度なら作業の邪魔にはならない。

オレは手馴れた手つきで、工具を鍵穴に差し込む。

カチャカチャカチャ

ん?これは・・・

オレは扉のノブをつかみ、静かに音をたてない様に扉をずらす。

スッ

扉は少しだが開いた。

「さすが祐一」

「祐一すご〜い!」

賞賛の声をあげる二人。

だが、実は、扉は最初から開いていたのである。



「久瀬のヤツが鍵を掛け忘れたか?」

いや、鍵がかかっていたのは確かだ。

舞が一回確かめている。

もしかしてら、名雪の「開けゴマ」で開いたのかもしれない。

『今日は思ったことができる』

さっきの舞の言葉が蘇る。

「それじゃぁ、まるで夢の中じゃないか」

ん?夢。

自分で思っておきながら、その言葉が妙にひっかかった。

夢の中。

それなら確かに何でもありだ。

じゃあ、これはオレの見ている夢なのだろうか?

一応、今度は自分の頬をつねってみる。

「痛い・・・」



「祐一、何やってんの〜?」

自分の頬をつねっているオレを見て、名雪が心配そうな声をあげる。

「いや、何でもない」

「変な祐一」

「変なのは、今日の世の中だ」

「そうだね。祐一が変なのはいつもどおりだもんね」

身も蓋もないことを言う名雪。

「祐一・・・」

舞が人差し指を口の前で立てながら、小さな声で呟いた。

「1、2、3で扉を開けて中に飛び込む」

無言で頷くオレと名雪。

舞がドアノブに手を掛ける。

「1」

いろいろ考えたい事はある。

「2」

しかし、まずは佐祐理さんを助けるのが先決だ。

「3!!」

バッ

舞が茶色の木の扉を開け放つ。

オレ達は、久瀬の笑い声のこだまする教室の中に滑り込んだ。



次回「黄色の死闘」に続く



本当は今回、久瀬との対決を予定していましたが、
前半の会話が思った以上に長くなってしまった為、
次回にまわします。
というわけで、次はバトルだぁぁぁぁ!

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