カノンR.P.G.
第二十一幕「茜色の探索」





「今までの話がわかった人」

オレは、香里と佐祐理さんと天野と話したことを、栞、名雪、舞、あゆ、真琴にも話した。

「だいたいはわかりました」

「半分ぐらいは、わかったんだお」

「はちみつくまさん」

「うぐぅ!!」

「あうー!!」

予想はしていたが、うぐぅとあうーにはやっぱりわからなかったか。

「うぐぅ!ぼ、ぼくだってわかったもん」

「あうー!ま、真琴だってわかったわよ」

「じゃあ、もう一度初めから言ってみろ」

「うぐぅ・・・・・・」

「あうー・・・・・・」

コイツ等からかってるとキリがないな。



「それで、みんなには、これから夢を見ている人間を探して欲しいんだ」

「探すって、この世界中をですか?」

栞が当然の疑問を提示した。

「そうだ」

「すごく広いと思うんですけど・・・・・・」

栞が遠い目をする。

「オレもそう思うが、それしか方法がないんだそうだ」

「あ、そういえば、祐一君」

「なんだ?うぐぅ」

「ボクはうぐぅじゃないよ!えっとね、ボク空を飛んでいたでしょ」

「ああ、狂ったように飛び回ってたな」

「狂ったようには、余計だよ。それでね、空からこの街を見たんだけど、変なんだよ」

「変?変って何が?」

「この街の外には、何もないんだよ」

「何もない?それってどういうことだ?」

「街の周りに白い霧が立ち込めていて、それより先には何もないんだ」

「夢の世界は、この街だけなのか。どこまでいつも通りにあったんだ?」

「商店街と駅前と学校と。みんなの家がある辺りと。公園と丘と。あとは森かな?」

「森?」

「うん。あの、ボク達の学校のあった森だよ」

「なんか、オレ達に関連性のある場所ばかりだな」

「ますます、私達の誰かが夢を見ている可能性が高いわね」

香里が、何か考えるような顔をして言った。

「たぶん、夢を見ている人は、その人にとって、特別の場所で夢を見ているわ。だから、みんなには、それぞれ心当たりのある場所を探して欲しいの」

香里の言葉にみな頷いた。

「よし、それじゃあ、チーム分けをしよう」







オレはみんなをざっと見渡した。

「とりあえず、各チームで心当たりのある場所を調べてきてくれ」

オレの言葉に皆が頷く。

「二時間ほどしたら、またこの百花屋の前に集まろう。今は4時だから、6時にもう一度集合だ」

何故か、みんな変な格好をしているわりには、しっかりと時計を持っていた。

それぞれが自分の時計を見て時間を確認する。





「それじゃあ、行きましょうか。舞」

「佐祐理、どこに行くの?」

「学校なんてどうでしょうか」

「はちみつくまさん」

「学校か。そう言えば、学校は城になってたな」

「お城は嫌いじゃない」

「お、以外だな。舞でもお城とかお姫様とかに憧れるのか」

げしっ

舞の無言のチョップがオレの頭部に炸裂した。

「あははー。じゃあ、佐祐理がお姫様を代わってあげましょうか」

ぴしっ

今度は佐祐理さんのオデコにデコピンが飛ぶ。

「舞には王子様の方が似合うかな」

げしっ

またまた舞のチョップを食らう。

「舞は、白馬の騎士様が似合うと思うんですけど」

ぴしっ

佐祐理さんのオデコにデコピン。

「時間がもったいない。はやく行こう」

舞があさっての方向を見ながら呟く。

「なんだ、舞。照れてるのか?」

げしっ

最後にオレの後頭部にチョップのツッコミを入れた後、舞と佐祐理さんのコンビが学校に向かって出発した。





「お姉ちゃん。私達はどうするの?」

「栞、まずは、家に帰ってみるわよ」

「家?」

「そうよ」

「それより、学校の学食が・・・・・・」

「ダメよ」

「どうしてですか?」

「学校は、川澄先輩と倉田先輩が行くから、私達が行く必要はないわ」

「えうー。じゃあ、コンビニで・・・・・・」

「コンビニもダメよ」

「えうー。お姉ちゃんケチです」

「あら、ケチでも全然かまわないわ」

「じゃあ、商店街のサーティー・・・・・・・」

「ダメよ」

「まだ全部言ってないのに・・・・・・」

「栞。私達はアイスクリームを食べに行くんじゃないのよ」

「お姉ちゃん。どうしてアイスクリームってわかるの?」

「何年栞の姉をやってると思うの。栞の考えてる事ぐらいわかるわ」

「ちょっとぐらい食べに行っても・・・・・・」

「ダメよ」

「お姉ちゃん、やっぱりケチです」

「ケチで結構よ。だいたい、家に帰ればアイスクリームぐらいあるでしょ」

「外で食べるのもおいしいんです」

「ダメよ。ほら、おいてくわよ」

「わあ、お姉ちゃん。待って下さい」

香里と栞のコンビが家に向かって歩き始めた。





「ねぇ、美汐。どこに行くの?」

「とりあえず、もう一度、ものみの丘に行ってみましょう」

「あうー、あの変態がいるよ」

「大丈夫です。私が守ってあげます」

「ホントに?」

「大丈夫です。もう私の真琴をあんな酷い目にあわせたりはしません」

「天野、私の真琴って・・・・・・」

「何かいけませんか?」

「いや、そんなことはないが・・・・・・」

天野の目は据わっていた。

「ねぇ、美汐。途中で肉まんを買って行こうよ」

「おまえはあんだけ食べといてまだモノを食う気か!」

「食べ盛りだからしょうがないのよ」

「太るぞ!」

「あうー!真琴は太ったりしなわよ!」

「そのうち、まん丸になって肉まんみたいになるぞ」

「あうー!!」

「私は、肉まんみたいになった真琴でも構いませんよ」

天野が熱い目を真琴に送る。

「それじゃ、真琴。行きましょうか」

美汐と真琴のコンビが再度ものみの丘に向かって歩き出した。





「あゆちゃん、どこに行く?」

「名雪さん。ボクに少し心当たりがあるんだよ」

「じゃあ、そこに行こうよ」

「そういえば、祐一君。祐一君は一人で大丈夫なの?」

「オレは男だから一人でも大丈夫だ。それよりあゆ。途中で食い逃げするなよ」

「いくらボクでも、こんな時に食い逃げはしないよ!!」

「こんな時じゃなければするのか?」

「うぐぅ」

「そうか。やっぱりいつものは狙ってやってたんだな」

「うぐぅ。そんなことないもん。たまたまだもん」

「祐一。あゆちゃんをいじめちゃダメだよ」

「いじめてなんかないぞ。あゆの悪事を暴いてるだけだ」

「祐一君。それをいじめてるって言うんだよ」

あゆが膨れた。

「名雪も寝るなよ」

「いくら私でも、寝ないよ」

「公園で寝てたのは誰だったっけかな?」

「うにゅう」

「ものみの丘でも眠ってたよな」

「うー・・・・・・」

「祐一君。名雪さんをいじめちゃダメだよ」

「いじめてなんかないぞ。事実を述べてるだけだ」

「違うもん。祐一は、私をいじめてるんだもん」

名雪がむくれた。

「祐一君。心底いじわるだよ」

「祐一。極悪だよ」

「なんとでも言え」

「祐一君の甲斐性なし」

「祐一のごくつぶし」

あゆと名雪のコンビがオレに悪態を付きながら出発した。







みんなが散っていった後、オレは一人で歩き出した。

ふと空を見上げる。

そらは、茜色に染まっていた。

くすんだ色。

世界が赤色に染まってゆく。



歩きながら考える。

さっき、あゆが言っていた、夢の世界に存在する場所。



商店街と駅前と学校。

みんなの家。

公園とものみの丘。

そして森。



あゆとオレの学校のあった、あの森。



あの場所が、この夢の世界に存在する。

それは、いったいどういう事だろうか?

オレの足は、自然と森へと向かっていた。



(次回、「黒色の森」に続く)




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