カノンR.P.G.
第二十四幕「薄墨色の疑惑」





「名雪達はどうだった?」

「うーん。何かあったと言えばあったけれど、何もなかったと言えば何もなかったよ」

「あれ、どうしてあゆは気絶してるの?」

「それがな、真琴。あゆは傑作なことに――――――」

「佐祐理達も、特に手がかりはなかったです」

「ものみの丘にも、特に変った点はありませんでした」



商店街の百花屋の前。

みんな、自分達が見てきたところについて報告していた。

話を聞く所によると、どこにも夢を見てる人物はいなかったらしい。

それを聞いて、オレはやはりと言う気持ちになった。



「私達の誰かが夢を見ているんだと思ったんだけど」

香里がタメ息をつきながら言った。

何かしら収穫があると思っていたので落胆したのであろう。

「あははー、振り出しに戻るですか?」

こんな時でも佐祐理さんは明るい。

「戻るどころか、進んでもいないような気がしますが――――――」

こんな時でも天野はオバサンくさい。

「あははー、それが佐祐理のとりえですから」

「そんな酷なことはないでしょう」

うっ、もしかして声に出てたか。



「なぁ、香里」

「何?相沢君」

「夢を見ている人間に心辺りがあるんだが」

「え?」

香里が驚いた顔をしてオレを見る。

他のみんなもオレに注目する。

「―――なんか緊張するな」

「そんなことはどうでもいいから、早く心当たりってのを話してみて」

香里がオレを急かす。

「ああ。実はな、オレと名雪とあゆは、森に行ってきたんだ」

「森って、あの公園の向こう側に広がってる森ですか?」

「そうだ栞。あそこの森の中に行って来たんだ」

「そんな所に何かあるのですか?」

「ああ。あの森の中にはちょっとした空間があるんだ」

「あの――――――切り株があるところですね」

「知ってるんですか?佐祐理さん」

「はい。昔、舞とピクニックに行ったことがあります。ね、舞」

「はちみつくまさん」

「私も昔、妖狐達を探てる最中に立ち寄った事があります」

そうか、やはりあの場所を知っている人もいたのか。

「佐祐理さんと舞と美汐は知ってたのか。あゆはもちろん知ってるとして、他のみんなは?」

「私は知らないわ。栞は?」

「私も知りません」

「真琴は知らないわ」

「名雪。おまえは?」

「私は、その場所の事は祐一に聞いて知ってたけど、そこに行ったのは今日が初めてだよ」

そうなるとあゆ以外にあの場所を知っていた人間は、佐祐理さん、舞、天野、名雪か。

だが、しかし―――

「佐祐理さん、舞、天野、名雪。あの場所に木が生えていたのを知っているか?いや、切り株があるんだから木は生えていたに決まってるか。木が生えていたのを見たことがあるか?」

「あははー、佐祐理は切り株しか見たことがありません」

「私も佐祐理と同じ」

「私も、切り株しか存じません」

「それは、私は知らないよ」

やはり、あの場所に木が生えていたことを知っている人間はいないか。

「相沢君。それが何なの?」

「その場所には、昔、木が生えていたんだ。そして、その事を知っているのは、オレ達の中ではオレとあゆだけなんだ」

「それで?」

「さっき、その場所に行ったら木が生えていたんだ。オレとあゆが7年前に見た頃の姿と全く同じ木が立っていたんだ」

まぁ、正確に言えば全く同じではなかったのだが。

「と言う事は―――――――」

香里が少し考える。

「相沢君か月宮さんが夢を見てるって事になるわね」

「そうなるよな」

「え?どうして香里?」

名雪がわからないと言う顔をする。

「木が生えてたって事は、夢を見ている人間はそのことを知ってたって事でしょ。それで、私達の中でその事を知っているのは、相沢君と月宮さんだけだから――――――」

「そっか。それで祐一かあゆちゃんなんだね」

名雪が納得した。

「相沢君。相沢君にとってその森は特別な場所だったの?」

「ああ、そうだ、香里。オレとあゆにとっては特別な場所だ」

「けど祐一。あの森にはたい焼き屋のおじさん以外は誰もいなかったよね」

「誰?そのたい焼き屋のおじさんってのは?」

「話すと長くなるから省略する。まぁ、どうでもいいキャラだ。要するに、あそこには何もなかったて事だ」

「おかしいわね。もしあなた達のどちらかが夢を見ているのなら、そこに何か手がかりがあるはずなんだけれど――――――」

「何もなかったってことは違うってことだよね」

名雪がオレとあゆを見る。

「そうだ。たぶん、夢を見ているのはオレでもあゆでもないんだ」

「ちょっと待って相沢君。それだとおかしいわ。あなた達が夢を見ていないのなら、誰がその木の事を夢見たというの?」

「さっき、おれ達の中ではオレとあゆだけしか知らないと言ったよな」

「ええ」

「だがな、オレ達以外でその事をしってる人がいるんだ。その人は、オレ達の事を良く知っていて、しかも7年前そこに木が生えていた事も知っているんだ」

「それは誰?」

「それはな―――」

みんながオレの言葉に耳を傾ける。

みな、真剣な表情でオレの言葉を待っている。



その人は、あの場所を知っている。

その人は、おそらく全てを知っている。

その人は、全てを包み込む優しさを持っている。

その人は、全てを了承する―――



「それは、秋子さんだ」





「え?お母さん?」

名雪が驚いた表情をする。

「そうだ。秋子さんだ。秋子さんは、あの場所に木が生えていたことも、あの木が切られた理由も知っているんだ」

「名雪のお母さんなら、私達の事も知ってるわね」

香里が腕組をしながら頷いた。

「それに、秋子さんなら何でもありな気もするし」

オレの言葉にみんな頷いた。



「じゃあ、お母さんを起こせば、夢の世界も終わるんだね」

「ああ、オレの考えが正しければそうなる」

「あははー、それでは名雪さんのお母様を探しましょう」

「名雪。名雪のお母さんにとって特別な場所ってどこかしら」

「お母さんにとって特別な場所?」

名雪が頭を捻る。

「うーん、どこだろ〜」

オレも考えてみる。

秋子さんは、どうにも捕らえどころのない人だからなぁ。

ダメだ。

全然思いつかない。

ここは親子である名雪に期待しよう。

「名雪。何か心当たりはないか?」

「・・・・・・」

「名雪?」

「く〜・・・・・・」

「寝るなっ!」

ぼかっ

「痛いよ〜」

「全く、どこでもすぐに寝やがって」

考えてみれば、コイツ、夢の中でさらに眠ってるんだよな。

まるで、野比の○太だなぁ。

「う〜、私、〇点ばっかりとったりしないもん」

「おっと、声に出てか」

「祐一、酷いよ〜」

「それより、名雪。なんか思う所はないのか?」

「わからないよ」

名雪が心底すまなそうな顔をする。

「そうか。いったいどこなんだろうな?秋子さんにとって特別な場所てのは?」



「それはですね――――――」



背後で声がした。


「―――家ですよ」


オレは思わず振り返る。


「家族が暖かく暮らす、我が家ですよ」


そこには秋子さんが、いつものポーズを取りながら佇んでいた。





 次回「七色の物語」に続く






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