カノンR.P.G
第四幕「黄色の死闘」





「はーっはっはっ・・・・・誰だ!」

高笑いを続けていた久瀬がこちらを振り向いた。

「?」

その久瀬の顔にはどこか違和感があった。

「何だ?」

しかし、その違和感が何なのか良くわからなかった。



「キサマは川澄舞!そして、横の不細工な男は・・・・・・誰だっけ?」

「オレは相沢祐一だ!」

「ふん、まあ、憶えておこう。あと、一人いるな?」

「私は・・・」

「貴様ら、何しに来た!」

名雪の自己紹介は途中でかき消された。

「おい!久瀬!悪役ならば、ヒーローの登場シーンを最後まで黙って聞くのがセオリーだろ!」

「私は前衛的で先進的な悪役なのだ!」

むちゃくちゃ言うヤツだ。

「それよりも何しに来た!」

久瀬が横柄な態度で尋ねてくる。

スッ

舞が一歩前へ出た。

スラッ

腰の剣を抜き放つ。

白銀の剣。

それは、舞が魔物と闘う時に愛用していたあの剣である。

ピッと剣先を久瀬の方に向ける。

「佐祐理を助けに来た。」

キッと久瀬を睨む舞。

かっこいい〜!

一瞬、見とれてしまった。

「佐祐理はどこ?」

「倉田さんならそこにいますよ。」

久瀬が部屋の奥の方を指差す。

その方向に目を向ける三人。

奥には立派なテーブルと椅子があった。

テーブルの上にはナプキンが敷かれ、紅茶とクッキーが置いてある。

椅子の一つに佐祐理さんが腰掛けていた。

「舞、祐一さーん。」

こっちを向いて手を振る。

そして優雅に紅茶を飲む。

とても囚われの人には見えない。

「見ての通り倉田さんは無事だ。」

「佐祐理を解放して。」

「それは、できない相談だな。私にも都合があるのでね。」

「佐祐理は、あなたみたいな人はタイプじゃない。」

「違う!愛の告白をするんじゃない。この城を支配するのに倉田さんが必要なんだ。」

「あくまで解放しない気?」

「イグザクトリー!」

「ならば、これ以上の話会いは無駄。」

そういって剣を構える舞。

「名雪、オレ達も助太刀するぞ。」

「うん。」

構えるオレと名雪。

「名雪・・・だと?」

久瀬の顔色が変わった。

「貴様、まさか勇者名雪か?」

「う〜ん、たぶんそうだと思う。」

「大魔王様が怖れる目覚めの勇者がこんな所にいるとはな!」

久瀬が顔を名雪の方に向けた。

「勇者を倒せば、大魔王様も喜びになるだろう。」

大魔王?

北川のことか?

ん?北川・・・・

「そうか!北川か!」

「どうしたの祐一?」

「久瀬の頭を見てみろ。」

「頭?」

名雪が久瀬の頭に注目する。

「アイツの髪の毛!」

「髪の毛?カツラなの?」

「失礼な!私はカツラではない!」

「いや、そうじゃなくて、一本だけはねている毛があるだろ。」

「あ〜、ホントだ。あれ、あの毛のはね方って・・・」

「ああ。北川の髪の毛のはね方と同じだよな。」

そう、久瀬の頭のてっぺんに、北川と同じはねかたをした毛が1本生えているのだ。

始めに久瀬を見たときの違和感の正体はこれだろう。

「ほほう。よく気がついたな。」

馬鹿にしたような顔で久瀬が説明を始めた。

「この髪の毛は、北川様の毛である。」

そういえば、その1本だけ色が違う。

「この髪の毛はアンテナになっていて、北川様が発する電波を受信できるのだ。」

「それで?」

「これで、私はどこにいても、北川様の指示、命令を強制的に受信できるのだ!さらに、このアンテナがあると北川様に対して絶対的な忠誠心を自分の意志とは関係なく誓う事もできる!」

要するにそれは、洗脳されているということではないだろうか?

「さあ、行くぞ!明日の学校を支配する為に、そして北川様のお役にたつ為に、貴様らを血祭りにあげてやる。!」

ばっ

久瀬が襲いかかってきた。

オレは、名雪をかばいつつ久瀬と向き合う。

舞も攻撃に備えて態勢を少し低くした。

「生徒会長パンチ!」

スカッ

「生徒会長キック!」

スカッ

「生徒会長アッパーカット!」

スカッ

「生徒会長奥義!生徒千手殺!!」

スカスカスカスカスカスカスカスカスカッ

久瀬は、信じられないほど弱かった。

ひょろ長い体から繰り出される攻撃は、貧弱以外の何者でもない。

だいたい、コイツ、運動というものをしたことがあるのだろうか?

久瀬の攻撃を悉く交わして行くオレと舞。

反撃するのもアホらしい。

舞も呆れた顔をして、ただひたすらに攻撃を避けている。

「ぜえ、はぁ、ぜぇ、はぁ・・」

久瀬の攻撃が止んだ。

体力ねえな。コイツ。

「ぜぇ、くはっ、さすがにやるな・・ぜぇ、ぜぇ・・・」

「お前が弱すぎるんだ!」

「闘うのがアホらしくなってきた。」

舞がため息をつく。

「舞も祐一さんも強―い」

ああ、佐祐理さんはのん気だなあ。

「こ、こうなったら、奥の手をだすしかない!」

そういって、久瀬が窓の方に近づく。

何をする気だ?

ガララララ

窓を開ける久瀬。

「とうっ!」

久瀬は、まどの外の青い空間に身を投げ出した!

「!?」

なんと、久瀬の体はその青い空間の中に浮いているではないか。

「祐一、あの人、飛んでるよ。」

「これは、いったい・・・」

「わー、マジックショーみたいですね。」

「この空間は、」

窓の外で久瀬が話し出す。

「北川様が作り出した『きたがわーるど』。この空間にいれば、このアンテナから北川様の力を直に受け取ることができる。」

そういって自分のアンテナを指差す。

「この空間にいる限り、私は通常の3倍の強さになれるのだ!」

笑い出す久瀬。

「3倍とは、やっかい。」

「う〜ん、どうするの祐一?」

確かにいくら久瀬でも3倍の強さになったら結構手強い。

しかし、オレには一つ策があった。

「舞、名雪。ここはオレに任せろ。」

そういってオレは窓の方に近づく。

「ほう、まず始めに血祭りにあげて欲しいのは君か。」

久瀬がニヤリと笑う。

「笑っていられるのも今のうちだ。」

オレは窓に手をかける。

ガララララララッ、ピシャ!

「こら、窓を閉めるな!」

ガララララララッ

慌ててこちらに飛んできて、窓を開ける久瀬。

「祐一、ちゃんと鍵も掛けないと。」

「すまん。舞。そこまで気がまわらなかった。」

「祐一はいつも鍵を掛け忘れるんだよ。この前だって、部屋の鍵を掛け忘れて、これからってところでお母さんが・・・・・」

「だあぁぁ、名雪!今そんな話をしなくても!」

「その後、何て言い訳したんですかー?」

「佐祐理さん、その話はちょっと・・・・」

「祐一、私も聞きたい。」

「だぁ!舞まで!」

「私を無視するなー!」

窓の外で久瀬が大声をあげた。

「誰でもいいから、こっちに出てきて私と戦え!」

「俺たちにはそっちに出て行く必要はない。お前がこっちに戻って来い!」

わざわざ敵の有利な条件で戦う必要なんてどこにもない。

「くそっ、気付かれたか!」

「私、全然気付かなかったよ。」

名雪、それくらい気付けよ。

久瀬が窓から室内に戻ってきた。

「年貢の納めどきだな。」

オレ達は久瀬を囲む。

「こうなったら、最後の手段!」

久瀬が両手を上にあげる。

「なんだ。降伏の合図か?」

「北川様、私にお力を!」

お約束なセリフを吐く久瀬。

ピカッ

突如、窓のそとの青い空間から黄色い稲妻がほとばしる。

チュドドドドーン!

稲妻は久瀬の頭の上のアンテナに直撃した。

「何だ!」

あたり一面に黄色い煙がたなびく。

「嫌な気が膨らんでいく。」

舞が煙の中心を睨んだ。

「何が起こってるの?」

名雪がオレの背中越しに煙の中心部分に注目する。

「ふはははははははははは!」

煙が晴れてきた。

その中心には、髪の毛の色が北川と同じ黄色に変色した久瀬が立っていた。

「力が溢れて来るぞ!」

久瀬が片方の手のひらを宙に向ける。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

手のひらの上にドッジボール程の大きさの黄色いエネルギー球ができあがっていく。

「生徒会長ソニック!」

久瀬がエレネルギー球を投げつけてきた。

ブウウウンッ

オレの方に向かってくるエネルギー球。

速度はそんなに速くない。

しかし、今よけると後ろにいる名雪に当たる!

「ちいっ!」

オレは両手を顔の前で交差し、衝撃に備えた。

ビシシッ

直撃した右腕に結構な衝撃がはしる。

一撃ぐらいなら持ちこたえたれるが、何発も喰らうとヤバイかもしれない。

「名雪、舞!いったん久瀬から離れろ!」

とりあえず、久瀬から距離を取る。

「離れても無駄だぁ!生徒会長ソニック!」

次々にエネルギー球を繰り出す久瀬。

「くっ!」

「きゃっ!」

「!?」

それを何とか紙一重で避けるオレ達。

距離があれば結構避けられる。

しかし、こう連射されるとこっちから攻撃することもできない。

「はっ!そういえば佐祐理さんは?」

見ると佐祐理さんはテーブルを横に倒してその裏に隠れていた。

テーブルは結構丈夫なようで、エネルギー球を跳ね返している。

「舞、名雪!とりあえずあのテーブルの裏へ!」

そういいながら、オレも素早くテーブルの裏に隠れた。



「生徒会長ソニック!ソニック!ソニック!」

未だに連射を続ける久瀬。

ガシャン、ガシャン、ガシャンッ

外れたエネルギー球が窓ガラスを割ってゆく。

「おい!久瀬!窓ガラスは秩序の象徴って言ってなかったか!」

「私は過去にはこだわらない男なのだよ!」

ポリシーのない男めが!

「どうするの?祐一。」

「あれだけ連射されると近づけない。」

「うーん、何かいい案はないかな?」

ダメだ。なーんも思いつかない。

「あのー、祐一さん。」

「佐祐理さん。何か良い案があるんですか?」

「そうじゃなくって。止まってますよ。」

止まってる?何が?

「あ、ホントだ。攻撃が止まってるよ〜。」

オレは机の端から向こう側を覗いてみる。

確かに連射は止まっていた。

だが、しかし!

「くっくっく、細かい攻撃じゃそのテーブルを破ることはできないようなのでね!最大級の攻撃で葬ってあげますよ!」

両手のひらを宙に向けている久瀬。

その頭上には、直径1mはあろうかというエネルギー球が出来上がっていた。

「はぁぁぁぁぁぁ!」

さらに気合を溜める久瀬。

エネルギー球もさらに膨らんでゆく。

ヤバイ!あんなの投げられたらひとたまりもない!

「舞、佐祐理さん、名雪!逃げろ!」

「祐一はどうするの?」

「オレはここで囮になる!」

「囮?」

「あれだけ巨大なものを投げたら、その後かなりの隙ができる。そこを狙って取り押さえるんだ!」

「祐一、囮は私がやる。」

「何言ってんだ舞。こういうのはオレの仕事だ。早くここから離れろ!」

「私もここに残るもん!」

「祐一さんだけ残して行けません!」

「名雪!佐祐理さん!」

「美しい友情だねー。しかーし、もう遅い!私の全身全霊を込めた一撃で、美しく散りたまえ!」

「くそっ!!」

オレは三人の前に立つ!

「何が何でもオレが守ってやる!」

「祐一!」

「喰らえ!」



「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「あれっ?投げて来ない・・・」

久瀬は両手でエネルギー球を支えた状態で固まっている。

いったいどうしたというのか?

ん?何か呟いてる。

「お・・・重い・・・・・」

どうやら自分で作り出したエネルギー球を支えきれないらしい。

よく見ると膝もガクガクしている。

「馬鹿だ・・・・」

これを馬鹿と言わずして何を馬鹿と言おうか。

「す、すまん・・・ちょっと、コレを投げるのを手伝ってくれないか・・・?」

「阿保か!」

「ぐおっ・・もう、だめだ・・・支えきれない・・・・!?」

瞬間、久瀬の頭上のものが重力に従って落下した。

ずどどどどど〜ん

ぷちっ

かくして久瀬は、自分で作り出したエネルギー球に自ら押しつぶされてしまったのだった。



次回、「橙色の街」に続く



今回、書いてて楽しかったっす。
もう一話ぐらいひっぱれば良かったかな?
何はともかく、次回に続きます。


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