カノンR.P.G.
第五幕「橙色の街」





生徒会室に横たわる憐れな男。

男の名前は久瀬。

その傍らに舞が立っていた。

「何やってんだ。舞?」

「とどめ」

「とどめって、ちょっと待て!?」

シャキンッ

舞の白銀の剣が一閃する。

はらり

久瀬の頭に生えていた北川の毛がスパッと切れた。

その途端、窓の外の青い空間も消えていった。

「佐祐理が無事だったからこのくらいで許す。けど、もし今度佐祐理に何かあったら許さないから」

いや、聞こえてないと思うぞ。





無事、佐祐理さんを助け出したオレ達は、とりあえず適当な空き教室に入った。

「はぁ、いったい何がどうなっていることやら」

ため息が出る。

よく考えてみると、さっきの生徒会室での出来事は、非常識のカタマリであった。

「どうしたんですかー?祐一さん」

「朝から変なことの連続でちょっと疲れてるんですよ」

「そういえば、今日はとっても変な日ですねー」

「そのことなんですけど、何かわかることはありませんか?」

「佐祐理にも良くわかりません。気付いたら佐祐理はお姫様になっていました」

「やっぱ、そうか・・・」

もう一度、ため息をつく。

「けど、佐祐理なりの考えはありますよ」

「え?それは、どんな?」

「たぶん、佐祐理達は夢の中にいるんじゃないでしょうか?」

「夢の中?」

「はい。夢の中です」

そう、それはオレもなんとなく感じている。

「たぶん、佐祐理達は誰かの見ている夢の中に入っちゃったんですよ」

夢の中に入る?

「それで、佐祐理達はその夢の中の登場人物か何かになっているんじゃないでしょうか?」

「それは、誰の夢なんですか?」

「さあ、そこまではわかりません」

結局、良くはわからないのか。

「舞はどう思う?」

「別に。夢でも現実でも構わない」

「構わないってお前なぁ。」

細かいことを気にしないヤツである。

「確かに今日はいつもとは違う。けど、ただそれだけ」

「こんな非常識な事態で良く平気でいられるな」

「これはこれで楽しい」

「楽しいって・・・・」

「祐一さんも楽しめばいいんですよ」

「佐祐理さんまで」

「楽しみながら今日のおかしな世界の謎を解いていけばいいんですよ」

「祐一、私もそう思うよ〜」

確かにそうかもしれない。

オレは、この異常な事態をひたすら拒否しようとしていた。

しかし、これはこれでいいのかもしれない。

舞や佐祐理さんの言う通りもっと楽しんでいった方が得である。

「うん。そう。そうだな」





「私と佐祐理は、これからこの世界のことを調べに行こうと思う」

「祐一さん達はこれからどうするんですか?」

「うーん、どうしよう?」

今のところ、これといった目的がない。

名雪の方を見る。

「私は、今日は勇者なんだよね」

「ああ。そういえば、そうだったな」

「じゃぁ、魔王を倒しに行かなくちゃ」

「魔王って、北川をか?」

あんなのを倒してもしょうがないと思うが。

「さっき、久瀬さんが私のことを『目覚めの勇者』って言ってたよね」

「そういえば、そんなことを言っていたな」

「だから、もしココが夢の中だったら、魔王である北川君を倒せば、夢が醒めるのかもしれないよ」

「おお!」

それは、確かに。

「それはいいが、北川がどこにいるのかわかるのか?」

「うーん、それはこれから調べるよ」

「まずは地道に情報収集か」

だんだんRPGみたいになってきたな。

「それなら、これから商店街に行きませんか?」

佐祐理さんが提案した。

確かに、聞き込みの王道は商店街と酒場である。

「実はですね。この城の諜報部の報告によりますと」

そんなものまであるのか?

「商店街に、非情によく当たる占い師がいるのだそうです」

占い師?

「佐祐理達はとりあえず、今の仮説が正しいのか占ってもらいに行ってみるつもりなんですが」

「そうか。そこでついでに北川の居場所も占ってもらえばいいのか」

「そういうことです」

「祐一、行ってみようよ」

「そうだな。けど佐祐理さん。その格好で行くんですか?」

佐祐理さんは、見るからにお姫さまという感じのきらびやかなドレスを着ていた。

「いいえ、着替えますよ。舞に着替えを持ってきてもらったんです」

「こんなのしかなかった」

舞が洋服を取り出す。

うーん、あのお姫様の格好を着替えてしまうのは、もったいない気もする。

「祐一・・・」

「ん?何だ?舞。」

「佐祐理が着替えるから・・・」

「ああ。オレは全然気にしないぞ」

「あははー、佐祐理も気にしませんよー」

「ゆ〜いち〜!」

名雪がオレの耳を引っ張って、教室の外に連れ出そうとする。

「あいたたた!わかった、名雪!自分で出て行くから。引っ張るな!」

「ダメだよ。信用できないもん」

そのままオレは名雪に教室の外まで引っ張られていった。





オレンジ色のレンガ道。

等間隔に立つ街灯。

道の両端に、ところ狭しと並ぶ店々。

普段とそんなに変わらないように見える。

しかし、半分ぐらいの店がシャッターを下ろしていたり、

開いている店も、何故か食べ物屋やお菓子屋ばかりだったり、

本屋だった場所で剣や鎧を売っていたり、

道行く人々の格好が重鎧やフルアーマーだったりして、

やはりそこは、日常からかけ離れた世界だった。



がちょんがちょんがちょん

GP−○2みたいな鎧を着た人間とすれ違う。

「さっき、街の人に情報を聞けばいいって言ったけど、そんな勇気はない!」

はっきし言って怖え〜。

「祐一、男の子でしょ」

「名雪こそ、勇者だろ」

「勇者だけど、女の子だもん」

「男だって怖いものは、怖い!」

「祐一、情けないよ〜」

「何とでも言え!」

「先輩達は普通に話してるのに」

「何!?」

「ほら、あそこ」

名雪の指差す方向を見てみると、

舞と佐祐理さんは、普通にラ○ウみたいな人と話していた。

「あの二人に怖いものはないんだろうか?」

謎だ。



「占い師は、百花屋にいるらしい」

「何でも、美人の姉妹らしいですよー」

占い師の姉妹。

「お姉さんの方は、踊り子だったりするのか?」

「さあ、そこまでは聞けませんでした」

あははー、と笑う佐祐理さん。

「とにかく、行ってみようよ」

「どうした、名雪、やけに張り切っているな」

「そんなことないよ」

あわてて手を振る名雪。

「さては、イチゴサンデーが狙いだな」

「イチゴサンデーなんて、そんな・・・」

「名雪、ヨダレが出てるぞ!」

「わ!うそ!」

口元を拭う名雪。

「嘘だ」

「ゆういち〜、意地悪〜」

「悪い、悪い」

「イチゴサンデーだからね」

「わかった。わかった」

何か、朝と同じ会話をしているような気が。

「私は牛丼」

「私は、ウェーハースがいいです」

舞と佐祐理さんも会話に加わる。

「イチゴのクレープもおいしいよ〜」

「なら、それも食べる」

「アールグレイなんかがあるといいですよねー」

おいおい。

お菓子の話で盛り上がる3人。

やはり、女の子である。

それにしても、

「全部オレが支払うんだろなー」

「祐一、何か言った?」

「いいや」

はぁ。

百花屋、休みだったりしないかなー。





無情な事に、百花屋は営業中だった。

「♪イ〜チゴサンデ〜」

「♪ぎゅう〜どん、一筋〜、三百年〜」

「♪あははー」

楽しそうに鼻歌を歌う三人娘。

カランカラン

ドアを開けて中に入る。

「いらっしゃいませー」

百花屋の中はいつもと変らなかった。

マスターがバイキングみたいな格好している以外は。

「あ、祐一さんー」

店の奥から誰かがオレを呼ぶ。

「お、栞、それに香里じゃないか」

一番奥のテーブルに香里と栞が座っていた。

「こんにちは。香里、栞ちゃん」

「こんにちは、名雪。それに、川澄さんと倉田さん」

「こんにちは」

「あははー、こんにちはです」

それぞれ挨拶を交わす。

「香里、隣のテーブルいいか?」

「構わないわよ」

香里と栞は二人がけのテーブルについていたので、オレ達は、その隣のテーブルに座った。

「私、イチゴサンデー4つ!」

「私は、ミックスサンドと牛丼」

「佐祐理は、チョコレートパフェとアールグレイでいいです」

「そっちは、ずいぶん頼むのね」

「祐一のおごりなんだよ」

こうなることは、わかっていた。

「え、おごりなんですか?」

「相沢君、私はホットケーキでいいわ」

「私は、ヴァニラアイスクリームと・・・・・ジャンボミックスパフェデラックス!」

でた!3500円の悪魔!!

「栞、頼むのは構わないが、ちゃんと自分で全部食べろよ」

「大丈夫です。今日は6人もいますから」

はなっから人に食わせる魂胆か。

「じゃあ、オレはどうすっかな?」

メニューを眺める。

いつもコーヒーだからな。

たまには違うものを・・・・・って、

「こんなことをしにきたんじゃない!」

「どうしたんですか?祐一さん」

「祐一〜、お行儀が悪いよ」

「思い出せ名雪。オレ達は、占い師を探しに来たんだぞ!」

「あ、そういえば、そうだったね」

危うく、百花屋で楽しいティータイムになってしまうところだった。

「香里〜、占い師って人を知らない〜?」

名雪が香里に尋ねる。

「私と栞は占い師よ」

「え?」

探している人物はあっさり見つかった。



次回「紫色の推理」に続く



♪香里アンド栞登場〜。
 この先どうなるカノンR.P.G.
 それは、作者にもわからな〜い(←まだ考えていない)


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