カノンR.P.G.
第八幕「緑色の丘」





「♪ハーイキーング〜、ヴァ〜イキング〜」

お弁当を持って、緑の小道を登る。

ポカポカ陽気で気持ちいい。

「おーい、あんまりはしゃいで転ぶなよ」

「そんな、あゆちゃんや真琴ちゃんじゃないから転ばないよ〜」

そう言ってスキップをする名雪。

ずるっ

「うにゅ?」

ドタッ

「ほら、言わんこっちゃない」

名雪は見事にスッ転んだ。

「うぐぅ・・・」

「それは、あゆのセリフだ」

「そういえば、あゆちゃん。どこに飛んでっちゃったんだろうね?」

「さあな。あゆのことだから、タイヤキ屋でも襲いに行ったのかもな」

商店街であゆに会って、空中まで持ち上げられて、そこから落とされた後、オレは気絶してしまったので、あゆがどこに行ったのか知らない。

名雪にも聞いて見たが、あゆには気がつかなかったようだ。

どうやら、落ちてきたオレに気をとられて、空を見上げたりはしなかったらしい。

オレが気付いた後、あゆを少し探して見たが、一向に見つかる気配がなかったので探すのは諦めた。

ま、あゆのことだから、そのうちヒョッコリ現れるだろう。

それで今は、オレと名雪は当初の予定通り、北川に会いにものみの丘に向かっている最中だった。





「祐一はやくー」

名雪が小道を駆け上って行く。

陸上部だけあって、さすがに早い。

「待て、名雪。オレは荷物を持っているんだぞ」

荷物と言っても、弁当と飲み物だけなのだが。

それなのに、追いつけない自分がちょっと情けない。

「ん〜、もう少しで丘の頂上だよ〜。ガンバレ〜」

名雪が上の方で手を振る。

「とりゃ!」

名雪に先に頂上に着かれるのも何かシャクなので、オレは坂道を駆け上り始めた。

「わ、祐一、元気〜」

あっというまに名雪に追いつく。

「よし、名雪。頂上まで競争だ!」

追い抜き様、名雪にそう言う。

「あ、ずるい!」

「買った方がデザートを二人分食べれる」

ちなみに、さっき名雪がコンビニで買ったイチゴのヨーグルトである。

「い〜ち〜ご〜!!」

名雪がいのししの様に突進してくる。

「負けないぞ!」

オレもペースをあげる。

こうして、オレと名雪は無駄に体力を使いながら、ものみの丘の頂上に到着した。





ものみの丘の頂上。

木々に囲まれた、広々とした空間。

穏やかな太陽。

爽やかな風。

草は風になびき、さわさわと囁いている。

緑一色に染められたその広場には、何十人もの真琴がところ狭しと蠢いていた。



「真琴ちゃんがたくさんいる〜」

見渡す限り、真琴、真琴、真琴。

あっちの草陰にも、そっちの木の上にも真琴。

目に付く場所全てに真琴、真琴、真琴。

「真琴ちゃん、かわいい〜」

真琴はみな、格闘ゲームに登場するキャラクターのような姿をしていた。

そして、大きさが小学生ぐらいしかなかった。

「何人ぐらいいるのかな〜」

ざっと見渡しただけでも、80人以上はいるのではないのだろうか?

「真琴ちゃんが一人、真琴ちゃんが二人、三人・・・」

名雪がミニ真琴を数え始める。

しばらくすると、数いるミニ真琴の中の何人かがこちらに気付いた。

「あ、祐一だ!」

「祐一よ!」

「祐一!」

ミニ真琴が一斉に声をあげる。

「団長だ!」

「団長!」

「祐一団長よ!」

ミニ真琴が大量に突っ込んでくる。

『祐一!』

オレの周りにむらがるミニ真琴。

かなり怖い光景だ。

「祐一!」

「祐一!」

「団長!」

「だあ、くっつくな!」

手をブンブンと振って追い払おうとするが、全く効果がない。

「四人、五人、六人・・・」

名雪はまだ、ミニ真琴を数えている。

オレは、100人ぐらいのミニ真琴に囲まれていた。

「祐一!」

「祐一!」

「ボス!」

「うるさい!落ち着け真琴!」

『あうー』

ミニ真琴が少し静かになった。

「七人みさき、ハッパフミフミ、く〜・・・・」

名雪が寝た。

オレはミニ真琴達を見渡した。

「お前達、真琴か?」

「そうよ、祐一団長。そうに決まってるじゃない」

一番前にいるミニ真琴が答える。

「何だ?その団長ってのは?」

「それはですね」

「うぉ!?」

背後でいきなり声がした。

あわてて振り返ると、そこには天野が立っていた。

「なんだ。天野か。おどかすなよ」

「そんな酷なことはないでしょう」

天野がミニ真琴の方へ移動した。

「美汐〜」

「みしお〜」

ミニ真琴が天野にも群がる。

「よしよし」

天野はそんなミニ真琴達を抱きながら言った。

「団長が帰って来たから、もう大丈夫ですよ」

「だから、その団長ってのは何だ?」

「相沢さんは、忘れてしまったのですか?」

「忘れたって何を?」

「相沢さんは、盗賊『狸狐団』の団長なのですよ」

こりだん?

何だそれは?

「増えすぎたこの子達を養う為、しかたなく盗賊団を結成したのではないですか」

「そういえば、何でこんなに真琴がいるんだ?」

「それは・・・」

そこで天野が少し頬を赤らめる。

「私と相沢さんの愛の結晶ではないですか」

「は?」

ちょっと待て。

えーと、真琴が沢山いて、天野が頬を赤らめて、愛の結晶・・・!?

まさか、いや、そんな・・・

『お父さーん』

ミニ真琴が不吉な言葉を言い放つ。

そんな、まさか!?

いや、記憶にないぞ!そんなこと!

ピキンッ

「殺気!」

ものすごい殺気が側面から漂ってくる。

横を見ると、いつの間にか、名雪が目覚めていた。

「名雪?」

こころなしか、名雪の周りにオーラが見える。

「な、名雪。いつ、起きたんだ?」

「天野さんが、『増えすぎたこの子達』って言ったあたりから」

声に抑揚がない。

「祐一。うわき?」

表情は笑っているが、目は笑っていない。

「濡れ衣だ!」

オレは名雪に訴える。

「相沢さん。あの夜を忘れたのですか?」

天野がオレの腕にすがってきた。

「そんな酷なことはないでしょう」

よよよ、とすすり泣きを始める。

「祐一・・・・」

名雪の周りに雷が見える。

いや、実際に名雪は帯電していた。

まさか、勇者の力が覚醒して・・・



「なんて、冗談です」

突然、天野が顔をあげて微笑んだ。

「相沢さんには、いつもいじわるされてるから、お返しです」

そういって、天野はオレからスッと離れた。

「冗談?」

ああ、良かった。

内心ホッとする。

「聞いたか、名雪。天野の悪質な冗談だって・・・・」

バチバチバチバチバチッ

名雪の周りには、相変わらず稲妻がほとばしっている。

名雪には全く聞こえていないようだった。

「祐一の・・・・・・」

名雪が差し出した指に、稲妻が収束していく。

「待て、名雪。話を聞け!」

しかし、そんな言葉も名雪には届かない。

「浮気者ォォォォォォォォ!!」

蒼い稲妻がオレに向かって放たれた。

ドギャァァァァァァァァン!!

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

衝撃が全身を駆け抜ける。

「こ、これが、勇者の力・・・・」

体の感覚がなくなってきた。

薄れ行く意識の中でオレは思った。

「また、このオチかよ」と。



次回「草色の昼食」に続く


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