カノンR.P.G.
第九幕「草色の昼食」





目を覚ました時、名雪と天野と真琴は、3人で昼ご飯を食べていた。

いつの間にか、ミニ真琴はいつもの真琴一人に戻っていた。



「あ、祐一が起きた」

「おはようございます。相沢さん」

「祐一、寝坊だよ」

オレはムクッと体を起こす。

「誰が寝坊だ!だいたいオレが気絶したのは誰のせいだ!」

「天野さんから話は聞いたよ。ごめんね。祐一」

名雪がペコッと頭を下げる。

う〜ん、かわいいから許す。

「それにしても、気絶する程の威力だったわりには、たいしてダメージが残ってないな」

体の状態をチャックしてみたが、どこにも以上はなさそうだ。

「それは、天野さんがヒーリングを使ってくれたからだよ」

オレは天野の方を見る。

「すまないな。天野」

「もとはといえば、私のせいですから。それに、目の前で死なれると目覚めが悪くなりますので」

「そんなにやばかったのか?」

「イモリの黒焼きみたいだったわよ。祐一」

真琴がケタケタと笑う。

うーん。さすがは勇者の力。

そういえば・・・

「真琴。さっきまで大量にいたミニ真琴はどこに行ったんだ?」

「ああ、あれ」

「そう。あれだ」

「見せてあげるよ」

真琴は、両手を胸の前で組んで、何やらごにょごにょと言い始めた。

「まーことことこと、まことこと!真琴流忍術。おぼろ分身影100個!」

ぼむっ

真琴の体が煙に包まれる。

次の瞬間、辺り一面にミニ真琴が広がった。

「真琴は実はくのいちなのよ」

「他にもこんなことができるのよ」

「火遁の術」

「水遁の術」

「雷神の術」

「登○剣!」

ミニ真琴たちがオレに襲い掛かってくる。

どがっ

げしっ

ちゅどーん!!

「わかった。わかったからもとに戻れ」

このままでは、また昏倒してしまう。

「ほろれちゅちゅぱれろ」

わけのわからん呪文を唱えて、真琴は一人に戻った。

どうやら、真琴は忍者らしい。



「美汐、肉まんー」

真琴が天野と名雪のもとに走って行く。

「肉まんはないですね。イチゴのヨーグルトで我慢して下さい」

「あうー、肉まん、肉まんー」

「真琴。時には我慢も必要ですよ」

「あうー。わかった」

真琴は仕方なく、天野からヨーグルトを受け取る。

「って、ちょっと待った」

「何ですか?相沢さん」

「そのヨーグルトって、オレ達の昼飯じゃないのか?」

「そうだよ。私がさっきコンビニで買ってきた物だよ」

名雪がヨーグルトを頬張りながら答える。

「オレの昼飯は?」

コンビニのビニール袋の中を見てみると、空っぽであった。

「食っちまったのか?」

「ごちそうさまでした」

天野が丁寧に頭を下げる。

「おいしかったよ」

真琴も天野に習って頭を下げた。

「オレの昼飯・・・・・」

「相沢団長。ひもじい部下の為だと思って我慢して下さい」

「誰が部下だって?」

「私と真琴がです。さっきも言いましたよ。もう忘れたのですか?」

「それは冗談だって。さっき・・・」

「冗談なのは、真琴の事だけです。狸狐団の話は本当です」

「天野さん。狸狐団って何?」

名雪が天野に尋ねる。

「相沢さんと私と真琴で結成した盗賊団です」

「盗賊団?」

「そうです」

ふーん、と相づちを打つ名雪。

「オレはそんなものを結成した記憶はないぞ」

「そうなんですか?」

「ああ」

だいたい、自分がいつの間にかシーフになっていたのは今日の朝の事で、その後、天野にも真琴にも会ってないのだから、そんなものを結成する時間などない。

「実は、私にもそんな記憶はないのです」

をい

「気付いたら私は真琴とここにいまして、なんとなく『私たちは盗賊団』という気がしてきまして・・・」

「そうよ。いつのまにか私と美汐はここにいたの」

「それで、ここにいれば、いつか団長の相沢さんが来るのではないかと思って、待っていたのです」

天野の話を聞いて、そこそこの事情は飲み込めた。

どうやら、真琴や天野も、オレ達と同じように、この世界の登場人物になっていたらしい。

しかし・・・

「だからと言って、オレの昼飯を食っちまう理由にはならないだろ」

「あうー」

「そんな酷なことはないでしょう」

酷なことしてるのは天野!お前だ!

「ごめんね。天野さん、真琴ちゃん。祐一、今、お腹が空いてるから怒りっぽいんだよ」

その空腹の原因を作ったのは、そこの2人だ。

「せっかくピクニックに来たのに、一番の楽しみのお昼を食われたオレの気持ちを考えてみろ!」

「祐一。細かいことを気にしないほうがいいわよ」

「真琴!細かいことじゃない!」

「あまり細かい事を気にしすぎると禿げますよ」

「天野まで・・・」

ダメだ。

空腹で叫ぶ力もでない。

はぁ、苦労してここまで登ってきたのは何だったのか・・・

ん?

「ちょっと待てよ」

「どこで待つの?祐一」

うーん名雪。ナイスボケ。

「オレ達は、ここへ昼飯を食べに来たんじゃない」

「そうだよ。北川君を探しに来たんだよ」

「名雪。知ってたならはやく言え!」

「まさか、忘れているとは思わなかったよ」

「う、うるさい!そんなことより北川はどこだ!北川ー!!」

辺りを見渡す。

もちろん北川の姿は見えない。

「いないじゃないか。栞め。ガセネタをつかませたな」

あとで、カレーを食わせてやる。

「北川さんをお探しですか?」

「天野、北川を知っているのか?」

「はい。さっきここに来ましたよ」

「何?」

「相沢さん達が来る少し前に来ました」

入れ違いだったか!

それにしても、北川はものみの丘に何の用があったのだろうか?

「それで、北川はここで何をしていったんだ?」

「私に『女幹部にならないか?』って持ちかけてきました」

何を考えているんだ、アイツは。

「『その冷静な瞳、何考えているかわからない表情、無駄に丁寧な口調。まさに、冷酷な女幹部にピッタリだ』とか言われました」

「それで、天野はどうしたんだ?」

「私は『そんな酷なことはないでしょう』ってお断りしました。そうしたら・・・」

「そうしたら?」

「『生意気な!キサンに電波を送ってやる!』とか叫びながら襲って来ましたので・・・」

電波ってのは、例のアンテナを植え付けるってことか。

「天野流暗殺拳。裏百鬼夜行『雪』をお見舞いしました」

何だ?天野流暗殺拳って・・・

「すると、今度は真琴の方に矛先をかえたのです」

結構頑張るな。北川。

「そして、真琴に襲いかかった北川さんは、分身した真琴に吹き飛ばされ、お空の星になりました」

弱すぎる。本当に魔王なのか?

「相沢さん達が、ここに着いたのはちょうどその後です」

栞のコックリさんは、一応当たってはいたのか。

「相沢さんは、北川さんに何か用があったのですか?」

「実はな、今世界が・・・」

オレは天野に、今いるこの世界についての香里や佐祐理さんの見解を説明した。



「そうだったのですか。それで私が蘇生術を使えたり、真琴が分身の術を使えたりしたのですね?」

「いきなりそんなものが使えるようになって、『何かおかしい』とか思わなかったのか?」

「少しは思いました。けど、『日々の修行の成果が表れた』とも思いましたので」

日々の修行の成果って、普段何やってるんだ?

「それで。美坂さんが言うには、水瀬さんが北川さんと戦うことが、この夢の世界の謎を解く為の、何かのヒントになると」

「そうらしいんだ」

そうだったのだが、北川はもうここにはいない。

「うーん、無駄足になってしまったな」

オレは肩を落とした。

「ピクニックだったと思えばいいんだよ」

名雪が前向きな案を出す。

「ピクニックの一番の楽しみを食われてしまったオレはどうすればいいんだ?」

くそー、天野に真琴め。

「だいたい、真琴はいつもオレのものを勝手に食べて・・・」

真琴に向かって文句を言おうとしたが、近くに真琴の姿はなかった。

「あれ、真琴は?」

「真琴ちゃん?」

「さっきまで、そこに・・・」

オレ達3人は、辺りを見渡す。

「あ、あそこにいるよ〜」

名雪の指差した先、ここから少し離れた所に真琴はいた。

だが、そこにいたのは真琴一人ではなかった。

もう一人、人が立っていた。

「誰かいる!」

「誰でしょうか?」

「ここからだと、ちょうど樹の陰になってて見えないよ」

真琴は、その人物と会話をしているように見える。

「いったい誰でしょうか?」

「もしかしたら、北川君が戻ってきたのかも」

「そうだとしたら、真琴が危ない!」

下手すると、例のアンテナを植え付けられて、操られてしまう。

「とにかく、真琴の所に行ってみましょう」

そう言って、真琴の方へ歩き出した天野のあとを、オレと名雪は追いかけた。



次回「鼠色の勧誘」へ続く




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