友達―――

 いつ知り合って、いつまで一緒?





探偵水瀬名雪
私がここにいる理由
you and I
#3「追跡者」



 「うにゅ〜」
 甘くて〜、冷たくて〜、おいしくて〜。
 口の中に幸せが一杯広がって〜。
 思わず鼻歌を歌いたくなっちゃうほど心が晴れ晴れとして〜。
 ああ、やっぱりイチゴサンデーはおいしいよ〜。
 特に百花屋のイチゴサンデーは絶品だよ。
 ちょっと値段が高いけど、このおいしさに比べたらそんなことはどうでもいいんだよ〜。
 「く〜、この一杯の為に生きてるんだお〜」
 思わず声が出ちゃう程おいしい。
 特に今日は、労働のあとの一杯だから格別だよ。
 午前中、私は真琴ちゃんの手掛りを求めて街中を歩きまわったんだ。
 まず、稲荷山の美汐ちゃんと真琴ちゃんが暮らしている孤児院に行ったの。
 そこで院長先生と子供たちから話を聴いたんだ。
 話は昨日美汐ちゃんから聴いたのとほとんど同じだったけど、その他に、真琴ちゃんがどんな娘だったかってことも聴けたんだ。
 真琴ちゃんは、元気で明るくて、みんなのお姉さんみたいな存在だったみたい。
 家事はときどき失敗するけど、小さい子の面倒見も良くて、みんなも真琴ちゃんが大好きだったんだって。
 だから子供たちはみんな、ものすごく真琴ちゃんのことを心配してた。
 院長の篠ノ井さんも、真琴ちゃんがいなくなってからの孤児院は、火の消えた灯台のようだっていってた。探偵さん、一刻もはやく真琴ちゃんを探し出してくださいって懇願されちゃった。
 私もそんなみんなの様子を見て、はやく真琴ちゃんを探し出さなきゃって決意したんだよ。
 あ、ちなにみ、子供たちは美汐ちゃんのことはお母さんみたいだっていってた。
 うにゅ、確かに美汐ちゃんはそんな感じかも。
 それで、孤児院で一通り話を聴いたあと、美汐ちゃんに教えてもらった真琴ちゃんが寄りそうな所をまわったんだ。
 本屋さんとか中華屋さんとかペットショップとか。
 そうそう。ペットショップに可愛いネコさんがいたんだお〜。
 短毛の三毛で、まだ生まれたばかりの子猫さんで、にゃ〜って鳴いて……
 ねこー、ねこー、ねこー……
 思わずショーウィンドウ越しに1時間程見つめちゃった。
 帽子を被ってなかったら、日射病になってたかも。
 それで、泣く泣くネコさんとお別れしたあとも、孤児院のある稲荷山から、美汐ちゃんが良く真琴ちゃんと買い物行く屋代のスーパーまで探索してみたんだけど、結局真琴ちゃんの足取りはつかめなかったの。
 どうやら真琴ちゃんは、孤児院の周辺にはいないみたい。
 いったいどこに行ったんだろ。
 はやくみつかるといいんだけど……。

 「お会計、5000シュガーになります」
 私はカウンターでお金を払いながら、この後どうするかを考えた。
 そういえば、美汐ちゃんは警察に届けたっていってたよね。
 ということは、祐一も真琴ちゃんを探しているはずだよね。
 確かに今は、怪盗貴族さんのことで忙しいかもしれないけど、祐一は行方不明の女の子をほっとくような人じゃないから、何らかの調査をしているはず。
 だから、祐一と協力すれば、結構すぐに真琴ちゃんを見つけられるかも。
 「それに、祐一と一緒に仕事ができるしね」
 百花屋を出た私は、とりあえず祐一のいるスウィート・シティ警察署に足を向けた。


 「暑いよ〜」
 外は、とても暑かった。
 今は午後の1時。一番暑くなる時間だからしょうがないかもしれないけど、それにしても暑いんだお〜。
 「私は〜、雪が好きで〜、それがイチゴ味だと〜、もっと嬉しくて〜」
 にゅにゅにゅ〜。
 暑いよ〜。
 お日様がガンガン照ってるよ〜。
 目の前が歪んでる。
 陽炎っていうんだっけ。
 それとも、私の目がまわってるのかな。
 揺れる街並み〜。
 ポストもガス灯も家も塀もみんな歪んでるんだお〜。
 あ、前方に氷屋さん発見〜。
 かき氷〜。
 氷いちご〜。おいしいんだろな〜。冷たいんだよね〜。
 けど〜、今イチゴサンデー食べたばかりだし〜。
 一日にたくさん食べると太っちゃうし〜。
 ど〜しよ、おぅ〜。ど〜しよ、だおう〜。
 ぱっきゃらまお、ぱっきゃらまお、ぱおぱおぱっぱっぱ〜。
 だお……、暑さで思考が……
 やっぱりちょっと冷やさなきゃだめだよね。
 うん。これは冷静な探査を行う為に必要なことなんだよ。
 だから、氷イチゴを一杯だけ……
 よ〜し、食べるんだお。
 私の足は、自然氷屋さんに向かって行く。
 とそのとき、
 「にゅ?あれ?」
 氷屋さんから、見知った顔の男の人が出てきた。
 「今、お店から出てきたの祐一だよ。祐一が氷屋さんから出てきたよ」
 会いに行こうと思ってたから、ちょうど良かった。
 「ゆ〜いち―――」
 私が声をかけようとしたそのとき、お店の中から一人の女の子が出てきた。
 長身のすらっとした、可愛いというか、かっこいい女の子。
 祐一がその女の子に笑顔で笑いかけた。そして二人で仲良く並んで歩きだす。
 「にゅ〜?誰だろ?あれ?」
 私の知らない女の子だった。
 祐一がその謎の女の子と並んで歩いてる。
 え〜と、こんなときは、状況を整理して推理してみるんだお。
 だって私は探偵だから。
 祐一は今お店から出てきた。
 女の子もお店から出てきた。
 出てきたあとの二人のやり取りからするに、どうやら二人でお店入ったらしい。
 その後、二人は仲良く歩いていった。
 ここから導き出せるのは……
 「デート?」
 ということは、祐一は……
 「浮気?」
 うにゅ?
 まさか祐一がそんな。
 祐一と私はラブラブで夏の熱気も裸足で逃げ出すんだお。
 ナノスペースな隙間もない程相性もぴったりなんだお。
 だから、祐一が浮気することなんてあり得ないんだお。
 あれはきっと、祐一がたまたまお店の中で知り合った女の子と会話してるだけだよ。
 お店の中で氷小豆を食べていた女の子が、かき氷を一気に食べたせいで頭が痛くなっちゃって、額を手でトントン叩いていたところへ、優しい性格の祐一が「大丈夫?」って声をかけて、それがきっかけで知り合いになっただけだよ。
 それで、帰る方向が偶然一緒だったから、女の子と並んで歩き出したんだね。
 うん、そうだよ。
 きっとそうに決まってる。
 けど、怪しいんだお〜。
 何でも疑ってかかるのが探偵の仕事だお〜。
 ここは探偵として、祐一を尾行するんだお〜。


 『午後1時55分。
  祐一と謎の女の子、帝都公園に到着。
  園内をゆっくりと二人でまわる。
  途中、祐一が缶入り飲料を買う。
  たぶん、缶コーヒー。
  女の子にも飲むか訊いたみたいだけど、女の子は断ったみたい。
  1時間ぐらいかけて園内をまわったあと、二人は帝都博物館の方へ。

 『午後3時17分。
  祐一と謎の女の子、帝都博物館に到着。
  祐一が女の子に何かを誇らしげに話している様子。
  何だろう?
  まさか、あのときの事件のことじゃないよね。
  だってあの事件の犯人は、私たちだけの秘密だもん。
  二人は建物の周りをぶらぶらと歩いたあと、街の中心の方へ。

  『午後3時42分〜午後4時36分。
  祐一と謎の女の子、帝都銀座の中央通りをゆっくりと進む。
  途中、祐一が女の子に何かを説明する。
  案内をしているようにも見える。
  けど、この街に住んでたら、帝都銀座のことは普通は知ってるよね。
  じゃあ、あの子はどっか他の街から引越して来たのかな?

 『4時48分。
  祐一と謎の女の子、商店街を抜けたあと、スウィート・シティ警察署前に到着。
  ここで別れるのかなって思ったら、二人並んで警察署に入って行く―――


 「うにゅ〜」
 私は思わず警察署を見上げた。
 祐一と一緒にいた女の子、本当に誰だろ?
 午後の間、ずっと祐一と一緒だっただけでなく、警察署の中にまで入っていくなんて。
 気になるよ。
 いったいどんな関係なんだろ。
 ずいぶん親しげだったけど……。
 祐一、私以外の女の子とあんなに楽しそうに……。
 だおっ!
 もしかして、最近忙しくて会えないってのは、あの娘と会うため!?
 怪盗貴族で忙しいとかいいながら、夜私が寝ている間にあの娘と密会!?
 ひ、ひどいよ!祐一!
 私がいるのに、他の女の子と過ごしてたなんて!
 浮気だお〜!
 う〜。
 にゅ〜。
 だおだおだおだおだお〜。
 もう祐一なんて知らないっ!
 知らないもん。
 祐一は祐一で、私は私だもん!
 祐一の力なんて借りないよ。
 私はこの街で一番の探偵なんだよ。
 私は私一人で真琴ちゃんを探して見せるもん!
 「祐一のだお〜っだ!」
 私はもう一度警察署を睨みつけたあと、真琴ちゃんの情報を集めるべく、再び街に繰り出した。

 (続く)



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