第三章 「憑きもの」



 最初に離れに飛び込んだのは祐一だった。
 敷居を一歩またいだところで立ち止まり、部屋の様子に素早く目をやる。
 まず目についたのは、床の上に飛び散っている氷の塊と血液。
 そして横たわる二つの体。
 一人は美坂夫人。
 その着衣には、血が点々と付着している。
 右手には、赤く濡れた何かを握っていた。
 もう一人、敷かれた布団の上に伏している女の子。
 おそらくこの娘が美坂栞であろう。
 どうやら二人とも気を失っているようだ。
 次に目についたのは、部屋の右奥でうずくまる少女。
 自分を抱くようにしながら、壁にもたれかかっている。
 その呼吸は荒い。
 右手で抑えている左肩から、血が流れ落ちている。
 この娘が例の沢渡真琴であろうか。
 祐一は壁面にも目をやる。
 ところどころに貼られた札。
 あれで結界を張っていたのであろうが、何枚か破れているものがある。
 先程気の乱れを感じることができたのは、この結界が破れたからであろう。
 祐一がそこまで確認したとき、部屋に天野美汐が飛び込んできた。
 美汐は部屋に一歩入ったところで、その異様な雰囲気に気圧され一瞬立ち止まる。
 だが隅でうずくまる少女に気付くと、「真琴っ!」と叫びながらその少女のもとへ駆け寄った。
 祐一がやはりあの少女が沢渡真琴かと思ったところに、今度は北川が飛び込んでくる。
 北川は、倒れた二人と部屋の隅の真琴と美汐とを見比べたあと、美坂親子を介抱すべく横たわる二人に近づいた。
「美坂さん、大丈夫ですか?」
 北川が倒れ伏す美坂夫人に手をかけようとする。
 そのとき、
「離れろ! 北川!」
 祐一が北川の襟首を力いっぱい引っ張った。
 北川の体がうしろに流れる。
 その鼻の先を、何か鋭いものが一閃した。
 慌てて一歩後ろに飛び退く北川。
「なっ――」
 自分を襲ったものを見て、北川は絶句した。
 目の前に佇んでいるのは美坂夫人だったのだ。
 鬼のような形相をし、血に濡れた錐のような物を振り上げている。
「なんだっ!」
 北川の思考が一瞬止まる。
 そこへ夫人が錐を振り降ろした。
 錐としては大きめのそれが、北川に真っ直ぐ襲い掛かる。
「くっ!」
 考えるより先に体が反応した。
 北川は素早く懐から護身刀を取り出し、それで錐を受け止める。
 きんっ
 固い金属音が、離れの中に響き渡る。
「ふんっ!!」
 二撃目も防がれた美坂夫人が、一歩後ろにさがった。
「なんなんだっ!」
 北川が悪態をつく。
「おそらく美坂さんが憑かれた」
 背中から祐一の声が聴こえてきた。
「憑かれたって、狐憑きにか?」
 北川が美坂夫人の目をみる。
 その瞳には狂気が潜んでいる。
「そういうことなのかっ!」
 北川は気を取り直し、護身刀を強く握りしめる。
 その姿を見て夫人の構えが変わった。
 北川のことを強敵であると判断したのであろう。
 お互いに睨みあい、相手の挙動に注目する。
「ちっ!」
 美坂夫人が再び北川に襲いかかった。
「なっ、はやいっ!」
 女性とは思えない勢いで、夫人が錐を振り降ろしてくる。
 北川は驚きながらも、その攻撃を短刀で防いだ。
 夫人は今度は連続して攻撃を繰り出す。
 一撃一撃が非常に速く、そして重い。
 それでも北川は、悉くそれを受け止めてゆく。
「くそっ!」
 北川が再び悪態をついた。
 自分に襲いかかってきているのは美坂夫人である。
 斬り返すわけにはいかない。
 だから北川には、ひたすら守りに徹するしか手がなかった。
 幾度となくぶつかり合う錐と刀。
 部屋中に木霊する金属音。
 隅では、美汐が真琴を抱えながら震えている。
 その胸に抱かれている真琴の息は、相変わらず荒い。
「おい! 相沢――」
 錐を防ぎながら、北川が叫び声をあげた。
「――どうすればいいんだ!」
「なんとかして美坂さんの動きを止めろ」
「止めるって、押さえつければいいのか!」
「そうだ。だが傷をつけられるなよ。少しでも斬られると憑かれるぞ」
「難しいことを言ってくれる!」
 北川は、休むことなく襲い掛かってくる美坂夫人の動きに意識を集中する。
 その攻撃は確かに速い。
 だが捉えられないわけではない。
 現に北川は、まだ一撃も掠らせていない。
 伊達に虎王隊の副隊長を務めてはいないのだ。
 北川は連撃を刀で弾きながら、心の中でタイミングをとる。
「はっ!」
 振り下ろされる錐にあわせて一歩踏み込む。
 襲いくる鋭い一撃。
 右手の護身刀で錐を受け流す。
 左手で美坂夫人の右手首を素早くつかみ、そのまま腕ごと背中の方へとねじ上げる。
「ぐっ!」
 夫人の口からうめき声がもれる。
 北川は右手に持っていた護身刀を祐一に投げ渡し、空いた手で夫人の手から錐を奪い取った。
「よし、よくやったぞ北川」
 祐一が夫人の前に回りこむ。
「さて、追い出してやるかな」
 祐一がおっとりした口調で夫人に語りかけた。
「きさま……、ユウイチか!」
 祐一を見て、夫人の顔が恐怖に引きつった。
 そして物凄い力で暴れだす。
「おうっとっ! 相沢、はやくなんとかしてくれっ!」
 北川が夫人を押さえつける。
「ああ、わかってる。さっさと――」
 そこまでいいかけて、祐一がいきなり側面の壁を見た。
 北川も悪寒を感じて壁の方を見る。
 部屋の隅で真琴を抱いていた美汐も、同じ方向を見た。
 それぞれに、その方向から妖気が近づいて来ているのを感じたのだ。
 どす黒い闇がこの離れに向かって来るのを――。
 しんっ!
 壁に何かがはしった。
 次の瞬間、壁がすとんと崩れ落ちる。
 崩れた壁の間から、影が一つ飛び込んできた。
 歩み寄る黒い塊。
 そこから突き出した、細く光る長物。
「あやかしかっ……、いや、人か!?」
 北川が黒い影に恐怖を覚える。
 影はどうやら人のようだった。
 その手には、鈍く光る長物が握られている。
 黒い人影が、手にした太刀を振りかざしながら床を蹴った。
 こちらを狙っている!
 北川はそう感じた。
 だから瞬時に夫人と祐一に蹴りを入れた。
 戸口から外へと飛ばされる美坂夫人。
 床に転がる祐一。
 北川も蹴りの反動で後ろへと飛ぶ。
 さっきまで三人が立っていた場所に、横薙ぎに閃光がはしった。
 もし北川がそうしていなければ、三人まとめて真っ二つにされていただろう。
 空を薙いだあと、影はすぐに戸口から外へと飛び出した。
 どうやら影の狙いは、美坂夫人らしい。
 正確には美坂夫人に憑いているものであろうか。
「逃がすかっ!」
 北川が立ち上がり、戸口に向かって走る。
「北川っ」
 祐一が預かっていた護身刀を投げる。
 北川は走りながら刀を受け取り、そのまま外の闇へと体を躍らせた。
 そして離れに静寂が訪れた。


「今のは――」
 震える声で美汐が言った。
「――いったい」
 そこまで声に出してみて、はじめて自分の喉がカラカラに乾いていることに気付いた。
「あれは――部屋に飛び込んできたのは人だな。何か黒いもの――外套みたいなものを羽織ってたみたいだったが……」
 祐一は立ち上がり外を見る。
「美坂さんはどうなったのです? それに北川さんは……」
「美坂さんは北川に外に蹴り出されたあと、すぐに立ち上がって闇へと消えていった。部屋に飛び込んできた奴も、美坂さんを追って闇へと消えた。北川はそれを追っていったんだが――」
 祐一は目の前に広がる闇を見つめる。
「――夜だからな。たぶん追いつくのは無理だ」
 そう言って、祐一は部屋の中へと振り向いた。
 そして布団の上に倒れたままの栞の傍らへと屈みこむ。
「うん、だいぶ消耗しているが、たぶん大丈夫だろう。外傷もなさそうだし」
 祐一は栞の姿勢をなおし、その体に掛け布団をかけてやったあと、今度は美汐と真琴の方へと歩み寄った。
「その子には手当てが必要そうだな」
 祐一が真琴をみて、美汐に声をかける。
 美汐は自分が抱いている女の子を見つめた。
 真琴は相変わらず苦しそうに息をしていた。
「出血は肩からか。あの錐で刺されたのかな?」
 祐一が真琴の傷口を調べる。
 美汐はその様子を黙って見ていた。
「すごい霊気だ。さすがは妖狐といったところか。そうか、それで追い出すことができたのか……」
 祐一が懐からいろいろな物を取り出す。
「まず、傷口を綺麗にして」
 祐一が傷口を布で拭う。
「うっ……」
 真琴がうめき声をあげる。
「真琴、もう大丈夫ですから……」
 美汐が真琴の頭を優しく撫でた。
「これが血止めだ。こいつを塗って、この包帯でしばって置けば……」
 祐一が真琴の傷口を縛る。そして懐から札を一枚取り出し、それを真琴の額へと貼り付けた。
「その札は……」
 美汐が怪訝そうにその札を見る。
「ん、これか? これは霊力を集める札だ。どうやらその子の体内には、さっきの憑き物の一部が残っているらしいんでな」
「栞さんに憑いていたものですか?」
「そうだ。その子は今、憑き物の一部と戦っているんだ。それには大量の霊力を消費する。だからそれを手助けするために、この札を貼ったんだ」
 そう言うと祐一は立ち上がり、押し入れを物色し始めた。
「布団があるな。その子も寝かせておいた方がいい。敷くの手伝ってくれ」
「あ、はい」
 祐一に請われ、美汐は立ち上がって布団を敷くのを手伝う。
「天野――」
 布団に真琴を寝かせたあと、祐一が美汐に尋ねた。
「――結界は張れるか?」
「簡単なものなら」
「すまないが、この離れに結界を張るのを手伝ってくれ」
 そう言って祐一は、懐から札を何枚か取り出した。


 ちょうど二人が結界を張り終わったとき、北川が離れに戻ってきた。
 その肩には血まみれの美坂夫人が担がれていた。
「!!」
 美汐が真っ青な顔をする。
「大丈夫だ。美坂さんの血じゃない。美坂さんはただ眠っているだけだ」
 北川が夫人を床の上へと寝かせる。
「天野さん、美坂さんの体を拭いて着替えさせてもらえないか? こういうのは男の俺達がやるのはどうも……」
 北川が顔を少し赤くしながら美汐にお願いする。
「そうですね。私がやります」
 美汐がゆっくりと頷いた。
「じゃあ、頼む」
 北川が美汐に頭を下げる。
「天野――」
 祐一が懐から薬瓶と札を取り出し、それを美汐に放った。
 美汐がそれを受け取る。
「――血止めと札だ。たぶん美坂さんの体のどこかにも、真琴の肩と同じような刺し傷がある。そこをさっき俺が真琴にやったように治療しておいてくれ」
「わかりました」
 夫人のことを美汐に任せたあと、祐一と北川は離れの外に出た。
 外は真っ暗であった。
「――で、どうだったんだ?」
 祐一が北川に尋ねる。
「……途中で見失った」
「美坂さんは?」
「……道に倒れていた」
「倒れていたのは美坂さんだけだったか?」
「……隣に体を斬られた侍が横たわっていた。そいつは死んでいた」
「何か他に妙な点は?」
「とりあえずそれだけだ。詳しくは、明日調べる」
「そのほうがいいな」
「それで相沢。俺は今から美坂の親父さんを呼びに行ってくる。その間、留守番を頼むぞ」
「ああ、任せておけ」
 北川は祐一の肩を叩いたあと、再び闇の中へと消えていった。


 美坂邸の一室に、四人の人間が集まっていた。
 祐一、北川、美汐。そしてこの家の主の美坂総務部長である。
 四人はちゃぶ台を囲んで座っていた。台上には、氷入りの麦茶が置かれている。
「とりあえず、北川君と天野君の話はわかった。わかったんだが、今いち何が起きているのかがわからない。とくに、狐憑きがどうなったのかが……。そこら辺をもう少し詳しく説明してくれないかね?」
 美坂総務部長が北川に言った。
「そのことについては、相沢が説明します」
 北川が祐一を一瞥する。
 祐一は、美坂に頭を下げてから言った。
「俺は相沢祐一。しがない書生です。一応、陰陽術をかじってます」
「それで相沢君。いったい何がどうなったんだ? 娘の狐憑きは?」
 美坂が襖を見る。
 襖の向こうの部屋には、離れから運んできた三人が寝かされていた。
「結論からいうと、栞に憑いていた物はもう憑いていません。憑かれていたせいで、今は体力的・精神的にまいっていますが、しばらく養生すれば良くなるでしょう」
 それを聴いて、美坂が安堵の息をもらした。
「美坂さんと真琴も同じような状態です。彼女達もじきに良くなります」
 それを聴いて、美汐が怪訝な顔をする。
「同じような状態ということは、美坂さんと真琴にも狐が憑いたのですか?」
「そう、二人にも憑いたんだ。いや、真琴には憑こうとしたのか……。そもそも栞に憑いていた物が、狐憑きなんかではなかったんだ」
「え?」
「あれは狐憑きなんかじゃない。もっと別物さ」
 祐一はひと口麦茶を飲んでから再び語りはじめる。
「あの憑き物の正体は、斬鬼。斬ることに喜びを感じている闇のものだ。斬鬼は人に取り憑いて人を斬る。憑いたり斬ったりすることで、人の霊気を吸うんだ」
「じゃあ、娘が『刀をくれ』と言ったのは……」
「一つは人を斬るため、もう一つは宿主を変えるため。斬鬼は人から霊気を吸うのにも、人に憑くのにも、刃物や何か尖ったものを使うんです。刃物で人の体に食い込み、そこから霊気を吸ったり、乗移ったりします。栞は病弱だったので、もっと強い肉体に移ろうとしたんでしょう」
「憑き物が氷菓を欲しがったのはどうしてだ?」
 北川が氷を鳴らしながら訊いた。
「あれは氷菓そのものを欲しがったわけではない。斬鬼が欲しかったのは別のものだ。氷菓ってのは氷の塊を砕いて、それにシロップをかけて食うんだろ」
「ああ、そうだが」
「その氷を砕くのに使う錐。それが斬鬼の目的だったんだ」
「錐? あの美坂さんが持っていたあれか?」
「そうだ。おそらく今日、真琴が栞をみたとき、斬鬼のいう『氷菓をくれ』という言葉を聴いた真琴が、美坂さんに頼んで氷を持ってきてもらったんだ。そうやって錐を手に入れた斬鬼が、真琴の体を奪おうと襲いかかった」
「なら、真琴の肩の傷は……」
「たぶん、そのときのものだろう。斬鬼は真琴に襲い掛かり、いったんその体に乗移った。だが真琴は妖狐だ。その霊力は普通じゃない。下手すれば斬鬼の方が逆に吸収されてしまう。実際、吸収されかかったんだと思う。斬鬼にとって真琴の体内は、かなり居心地が悪かっただろう。苦しんで暴れまわったに違いない。部屋の札が何枚か破れていたのはたぶんそのためだ。まぁ、おかげで結界が破れて、離れの気の乱れを感じることができたんだが……」
「相沢さん、さっき『憑き物の一部が真琴の中に残っている』みたいなことを言いましたよね。それはどういうことなのですか?」
「そのことも順に説明する。とにかく、斬鬼は真琴の体内から出たかった。だからその場にいた美坂さんへと襲い掛かかり、己の宿主を変えようとした。だがそのときすでに、斬鬼は己の一部を少し吸収され始めていた。このままでは真琴の体から離れることができない。だから斬鬼は、美坂さんの体に乗移るときに、その吸収されつつある部分を切り離し、真琴の中へ捨てていったんだ。トカゲの尻尾切りみたいなものだ。その斬鬼の尻尾が今真琴を苦しめているものの正体さ。真琴を苦しめているというよりかは、真琴に吸収されないように抵抗しているという方が正しいだろう。まぁ、残していったのはほんの一部みたいだからな。たいした力も残ってない。そのうち真琴に霊力を吸い尽くされ、消滅してしまうさ」
「そうなれば、真琴は助かるのですか?」
「明日の朝には元気になってるよ」
 祐一の言葉に、美汐の表情が少し明るくなった。
「今述べたことが、俺たちが離れに飛び込む前に起きたことだ――」
 祐一は一度麦茶を飲む。
「――それでそのあとは、三人が目にした通りだ。北川が美坂さんに襲われて、そこへ変なのが飛び込んできて……」
「相沢、あの黒い影は何だったんだ?」
「俺にもわからん。たぶん人だったと思うのだが。それにしては妖気がすごかった。どうやら斬鬼を追ってるみたいだったが……」
「お前にもわからないのか。俺も奴を追って外に飛び出したんだがな、あっというまに闇に消えてしまった。で、とりあえず邪気の漂っている方へと走っていったんだが……」
「行き着いたのは、血まみれの美坂さんと侍の死体」
「そうだ」
 部屋の空気が重くなる。  あのときの美坂婦人の様子を思い出したのであろう、美汐がその顔を青くした。
「美坂さんが血まみれだったのは、おそらく返り血を浴びたからだ。北川に離れの外に蹴りだされた斬鬼は、闇の中へと逃げ出した。そして途中で侍に出くわした。たぶん侍は二人いたと思う。その侍を見て、斬鬼はより強い肉体である侍に憑こうとした。あの黒い人影に追いつかれたときに、互角に渡り合うためだ。斬鬼は侍の不意をついて刀を奪い、どちらかを斬り付けたんだろう。そうやって宿主を変えた斬鬼は、もう一人の侍を斬り殺し霊気を吸い、闇の中へと逃走したんだ」
「血は、その侍のものか」
「美坂さんに刀傷がなかったなら、たぶんそうだ。斬鬼は宿主を変えるとき、前の宿主の霊気を吸ってから次の宿主の体に移る。美坂さんはそうやって霊気を吸われていたから、斬られることはなかったんだ」
 一通り語り終わったあと、祐一は麦茶を飲み干した。
 そしてすくっと立ち上がる。
「どうしたんだ? 相沢」
 北川が祐一を見上げる。
「俺の説明はこれで全部だ。話すことはもうない」
「あ、ああ……」
「一晩中起きていたから眠くてしょうがない。悪いが俺は帰って寝る」
「へっ!?」
「じゃあな」
 呆気にとられる北川を尻目に、祐一は襖を開けて部屋の外へと出て行った。
「何を考えているんだ、あいつは……」
 北川が唖然として戸口を見つめる。
 そこへ祐一がひょいっと顔を覗かせた。
「一つ言いい忘れたことがあった。天野――」
「はい?」
「――真琴は狙われるかもしれない。気をつけとけ」
 それだけ言うと、祐一は再び姿を消した。


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